ミッドチルダに、ある一人の少年の噂が流れていた。


――――曰く、彼の少年は医療魔法に精通した天才児であると。

――――曰く、善き者には慈愛を、悪しき者には鉄槌を与えると。

――――曰く、ロストロギアですら、彼の少年の前には霞むと。


これは、そんな噂を持つ、一人の少年が巻き込まれていく騒動を綴った物語である。














二次創作 魔法少女リリカルなのは
『始まりは突然なの!』






















『―――ter、Master』
「ん……?」
『Good Morning Master』
「あぁ……おはよう。ピアス・レクオス」

どうやら、またいつものように医学書を読んでいる内に眠ってしまったらしい。
身につけたブレスレット、待機状態の俺のデバイスに起こされるのは、もう何回目だろうか。
気をつけようと思っていても、医学書に熱中している内に寝てしまう。

「くっ……ふぅ……、今何時だ?」
『The current time is 8:30.』
「もうそんな時間か……」
『Yes』

まだ頭に残る眠気を払いつつ、インスタントコーヒーを入れながらもすぐ近くに置いてあるパソコンを起動する。
ミッドチルダ回線へと繋ぎ、届いているメールを確認していく。

「……いつもながら、なんなんだこのメールの量は」

届いている数多くのメールに対して、愚痴を零しながらもひとつひとつ丁寧に確認していく。
中には、同年代の奴らからの近状を報告しやがれメールなんかもあるが、これは後でもいいだろう。

「……ん、なんだこれ?」

いつも通りのルーチンワークをこなしていると、何故か目に着く一件のメールがあった。
アドレス表示という事は、俺が登録していない人物からのメール……だよな?

「ピアス・レクオス、このメールの送信先、検索しておいてくれ」
「O.K.」

一応、ピアス・レクオスに検索を頼んでおいて、俺はそのメールを開いた。
今思えば、このメールを見てしまったからこそ、巻き込まれたんだろうなぁと思う。
まぁ、なってしまった以上、どうする事も出来ないわけなんだが。

「俺への救援要請……? 依頼人は、自称『観測者』……?」

メールの文面に書かれているのは、古代遺失物、通称『ロストロギア』の搬送中行方が不明になったスクライア部族の保護と護衛。
いやいや、そもそも探せないから行方不明っていうんじゃないのか?

「第一、差出人が怪しさ満点なんだが……」

だが、気になると言えば、気になる。
どうやって調べたのか、メールにはロストロギアが落ちたであろう時空、第97管理外世界の座標。
それと、救援対象となるスクライア部族、ユーノ・スクライアの詳細が書かれていた。

「ピアス・レクオス、出所はわかったか?」
『Unknown』
「……お前が調べても解らないのか」

ピアス・レクオスからの返答を聞いて、俺は驚いたような声を出してしまった。
自分で言うのもなんだが、インテリジェンス・デバイスとして、かなり高性能を誇っているデバイスだと自負している。
そのピアス・レクオスが検索をかけても、該当がないというのは滅多にないケースだ。

『Sorry』
「責めている訳じゃないさ」

検索で該当しない以上、かなり特殊な事態が発生していると考えられる。
自身の安全を考えるなら、この要請は拒否するべきだろう。
だが、妙に俺の中の好奇心がこれを受けろと言って来る。

「……考えるだけ、無駄か」

これが何らかの罠だったとしても、何とかするくらいの力はあるだろう。
そう考えを纏めて、俺は旅支度を始めた。

「ピアス・レクオス、また迷惑をかけるかもしれないが、よろしくな」
『No problem』
「よし、ピアス・レクオス、セットアップ」
『Stand by Ready set up』
「広範囲移動魔法展開、目標第97管理外世界『地球』」

足元に広がる、白銀の長距離移動用の魔法陣。
こうして俺は、第97管理外世界『地球』へ向けて移動を開始した。

『Transporter』

メールの最後には、こうも記載されていた。
貴方が、世界を変えてください……と。























「っと……ここが地球、か……『海鳴へようこそ』ね」

人が多く暮らしているであろう場所から、少し離れた位置に転移魔法を利用して現れた俺。
ちゃんと移動先に対して結界を張るのも忘れていない。
もし、ここで魔法がバレたとしたら、説明とかが非常にめんどくさい事になるからだ。

「さてさて、行方不明のスクライアはどこにいるんだか……?」

デバイスを待機状態へと移行しながら、街へ向かってゆっくりと歩き出す。
まずは、拠点を探すところから始めないといけないか……
準備の一つとして、管理局を通じて現地で使用可能な資金は十分に持ってきたつもりだ。
よっぽど物価が高いというような事が無ければ、まず間違いなく生活する分には問題ないだろう。

「なんていうか、ミッドに比べて窮屈な感じがするな」

そこまで土地が豊富に有り余っている訳ではないんだろう。
建物の形状が、空へと伸びている事からそんな考えが浮かんでくる。

「……まぁ、折角だし高い所の方がいいよな」

……そういや、俺こっちの世界で戸籍みたいなの持ってないけど、契約できるんだろうか?

「いやぁ、なんとかなるもんなんだなぁ……」

結論から言えば、戸籍云々は……ピアス・レクオスに頼んで軽く偽造してもらったりした訳だ。
お陰で、外国人移住者として扱われたが、まぁ現地の言葉を普通に話したおかげで問題なく契約は済んだ。
後は、適当な荷物を買出しに行けば当面の間、住むのには困らないだろう。
住所が若干海鳴から離れたが、これはまぁ問題ないとしよう。

「後は、どうやって迷子のスクライアを探し出すか」

もし、スクライアが魔法を使ったとしたら、それで居所が大体わかるんだが……
恐らく俺と同じく、こういった場所で不用意に魔法を使うなんて事はしないだろうなぁ。

「気長に探すしかないかね。なぁ、ピアス・レクオス」
『Yes』

そう言いながら、部屋の中全体に魔力漏洩防止の結界魔法を展開していく。
こうしておかないと、ろくに魔法の練習とかが出来なくなるからな。
日々是精進、習慣になってるってのもあるが、やらないよりはやれる事をやった方がいい。

「さて……メールにあった行方不明の日から数日経ってるから、事は起こってると考えられるか」

と、なると魔力探査を行っておけば下手に歩き回るよりは効率がいいか。
その場合問題は、どうしても事態の後手に回ることなんだが……

「考えていても仕方が無いか……ピアス・レクオス、魔力反応の確認は常時やっといてくれ」
『Rajah』





















時は遡り、ここは海鳴町にある森の一角……
傷を負った少年が、あたりを警戒するように神経を張り巡らせていた。

「……っ」

少年が目を向けた先には、黒いドロドロの形をした異形。
明らかな敵意を見せて、その異形は少年へと襲い掛かってきた。

「妙なる響き光となれ!許されざるものを封印の輪に!」

少年の目の前に展開されたエメラルドカラーの魔法陣。
それに体当たりを仕掛ける黒き異形。

「ジュエルシード、封印!」

異形が魔法陣から弾かれながらも、逃げるように姿を消した。

「逃がしちゃった……追いかけなくちゃ……」

そして少年もまた、自身の傷が深いのか、その場に力尽きたかのように倒れた。
うわ言のように、何かを呟きながら……

「誰か……僕の声を聞いて……」

エメラルドの光が少年を包み込むと、そこに少年の姿はなく、傷ついたフェレットが姿を現した。
傍に、赤く光る宝石を煌めかせながら……

「力を貸して……魔法の、力を……」

そして少年は、少女に出会う。

その少年こそが、行方不明となったスクライア部族のユーノ・スクライア。

ユーノが出会った少女が、後の管理局有数の魔導士となる高町なのは。

この二人と、少年が出会う時、物語はどのような出来事を綴り、そしてどのような結末を見せるのか。

それは、未だ誰にもわからない。




















      〜 あとがき 〜


本編再構成としては始めての試み、オリキャラ登場バージョンです。
オリキャラ混ぜてやってみたいなーとは思いつつも、なんとなくやってなかった。
でも、なのはを書く以上、俺にはオリキャラを混ぜないと書けない!
そんな訳でオリキャラが出現してます。

うぁー、批評が来るのは覚悟の上でやってますが、おっかねー。
でもまぁ、やりたいようにやるのが俺だっ!
と、言うわけで続くかもしれません。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/11/30
公 開 2009/01/06





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