「……で、俺はなんでこんな所にいるんだろうな?」

ここは河川敷、目の前には球蹴りをしている若い少年たちの姿。
そして、俺が座る席の隣にはなのはと、その友達だという女の子が二人。
……正直な話、非常に居づらいです。

【これが、この世界のスポーツなの?】
【うん、サッカーって言ってね……】















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『これが私の決意なの!』






















隣では、念話を使ってこの前の球蹴り……サッカーについての解説が行われている。
なんだかんだで、妙に身体が騒ぐというか。
サッカーを心行くまで楽しんでいる内に、試合が決した。
どうやら、翠屋JFCが勝利を収めたようだ。

「よーし、飯でも食いに行くかー!」
「いやっほー!」

所変わって、ここは翠屋JFCという名前にも出ている翠屋。
どうやら、なのはの実家が経営している喫茶店らしい。
自家焙煎と美味しいスイーツが目玉で、若い女の子には人気のお店との事なんだが……

「あぁ、可能なら俺もあっちの少年達の輪に混ざりたい……」
「あ、あはは……」

結局、顔見知りがいるはずもない俺がサッカー少年たちの輪に入っていけるはずもなく。
なのはと、その友達であるアリサ・バニングス嬢と月村すずか嬢に囲まれて一つのテーブルに座る事になってしまった。

【……ユーノが男であることが、少なからず救いだよな。フェレットだけど】
【僕はれっきとした人間ですからね!】

頭を撫でられたり、芸をやらされているユーノを見ながら、そんな念話を飛ばしてみると、素早い反応が返ってきた。

「ところで、なのは。こっちの人、誰?」

今までこの突っ込みが入らなかったのもどうかと思うが、ようやくバニングス嬢が俺について問いかけてきてくれた。
良かった、あのまま相手にされなかったらこれはどんな放置プレイかと聞きたくなるところだった。

「えーっと、この人はラルさんって言って……」
「……待ってくれ、とりあえずそれはあだ名であって、本名じゃないから」

このままだと俺の名前が改変されると瞬時に判断した俺は、申し訳無いがなのはの言葉を遮り、自分から自己紹介をすることにした。

「始めまして、ラインハルト・ヒューゲル。生まれはここじゃないが、家庭の事情でこっちに引っ越して来たばかりだ」

そう、当たり障りのないような事を言いつつ、俺はなのはに向けて念話を送る。

【これから、ちょっと捏造するからそれに合わせて動いてくれないか?】
【えっと……わかったよ】

さて……何も知らない子を騙すのは気が引けるが……
下手に魔法の事を教えてしまう訳にもいかないよな。

「実は俺はつい最近こっちに引っ越して来たばかりでね、道に迷っているところをなのはに助けられたのさ」
「そうなんだ、こっちに来る前は何処にいたの?」
「えーっと、こっちで言うとヨーロッパのあたりかな」

対外的に好印象をもたれやすい笑顔を作って、質問してきたバニングス嬢に答える。
俺とバニングス嬢のやりとりを冷や汗混じりに見ていたなのはが、苦笑しながらも念話を送ってきた。

【ラルさん、すごいの】
【ホント、よく口からそんなにデタラメがすらすら出てくるね】
【地名に関しては、予めピアス・レクオスに言語検索をかけて貰ってたからね】

最終的に、なのはがユーノにお手と言って、それにユーノが答えた事によって話は結論が出たという事になったらしい。
ただ一人、ユーノだけがなかなか辛そうだったが……

【ま……頑張れ】
【ごめんね、ユーノ君】
【だ、大丈夫……】

それからすぐに、翠屋のドアが開き、先程のサッカー少年達が出てくる。
そして、なのはの父であり翠屋JFCのオーナーでもあるという男性が、声をかけその場で解散となったらしい。

「それじゃ、みんな。気をつけて帰るんだぞ」
『はい、ありがとうございました!』

一人の少年が、何かソワソワとしていると思えば、後ろから髪の長い女の子が走って行き、一緒になると仲良さそうに帰っていく。

「うーん、若いねぇ……」
「あんた……なんか年寄りじみてるわね」
「それは中々に失礼だな、バニングスさん」

サッカー少年達が解散したのを見届けた男性は、その足でこっちに向かって来た。
いや……正確にはこっちというよりも、俺を見ているのか。

「やぁ、今日は新しい子がいるね。なのはのお友達かい?」
「えっと、今日道に迷っている時に知り合ったラインハルトさんです」

そうなのはに紹介された後、俺は席を立って男性の前に立つ。
そして、軽く頭を下げながら、改めて自己紹介を始めた。

「始めまして、ラインハルト・ヒューゲルといいます。今回は高町家のお嬢さんに助けられました」
「こちらこそ始めまして。なのはの父の高町士郎です」

一瞬だが、士郎さんから凄まじい悪寒を感じたのはなんだったんだろうか……?
っていうか、現在進行形で視線が俺を値踏みするような目線なのは何故だ。

「……どうやら、俺はお邪魔になりそうだからこの辺で失礼させてもらうよ」

さすがに、この目線に晒され続けるのもあまりいい気がしない。
そう思って、俺は席を立とうとしたんだが……

「それじゃあ、なのは。お礼は後日改めてさせてもらうよ」
「じゃあ、私たちも解散しましょうか」

どうやら、俺のことが皮切りに、こっちもこのまま解散となるらしい。

「See you later」

笑顔を貼り付け、外国から来たという事を印象付けるために英語で別れを告げる。
そして、手を振るなのは達に手を振り替えしながら俺は帰路へと進路を取った。





















変哲もない横断歩道。
そこには、先程一緒に帰っていた二人が、信号待ちで止まっていた。

「今日の、すごかったね」
「そんなことないよ。ほら、うちはディフェンスがいいからね」
「でも、格好よかったぁ」

呟くように言われた言葉、それにキーパーをしていた少年は頬を染めた。
だが、そこでふと思いつくようにポケットを探り始めた。

「あ、そうだ!」
「え?」

ポケットから出てきたのは、ラルやなのはが見ていた青い宝石。

「わあ、きれい!」
「ただの石だとは思うんだけど、きれいだったから」

そして、少年から少女へと宝石が手渡される瞬間。
二人の手が重なった時、青い宝石……ジュエルシードは、その込められた力を顕現した。

「わああ!!」
「きゃああ!」

光の下から巨大すぎる根が姿を現し、少年と少女は光の繭に包まれ、その身を守るかのように巨木が出現した。
まるで邪魔だと言わんばかりに、街を破壊しながら……





















「……っ!」

凶悪な魔力の発生を感じ取った瞬間、走り始めた俺の行く手を遮るように巨木の根が邪魔をして来た。
巨木が育つごとに破壊される街を見ながら、俺は唇を強く噛み締めた。

「まさか、発動したのか……ジュエルシードが」
【ラルさん、これって!?】

その時、なのは達から念話が飛んできた。

【この世界にこれだけの魔力を出せる物は存在しない……間違いなくジュエルシードだろうな】
【っ!】

どうやら、街の惨状を目にしてしまったらしい。
言葉にはなっていないが、その無言の中にも僅かながらに後悔の色を滲ませていた。

【一度合流しいた方がいいな……そっちへ行くが、今は何処にいる?】
【ここら辺で一番高いビルの屋上です……】

魔力反応を調べると、覚えのある反応が二つ、そう遠くないビルの屋上から感じ取れた。

「さて……気落ちしている子を慰めるのは、年長者の役目ってか。行くぞ!」
『Yes, Sir』
「我、医学の道を歩む者なり。
 発動せよ、我が力の源よ。
 顕現せよ、医神の加護を受けし我が杖よ。
 全ての生者を護る為に!全ての悪意を防ぐ為に!!」

詠唱を重ねる度に、俺を包む白銀の魔力光が増していく。
そして、自分の中に感じられる魔力が最大になった時、俺はその一言を口にした。

「Pias・Lekos Set up!!」
『Stand by Ready Set up』

最初になのは達にあった時に纏っていたバリアジャケットが構築されると同時に、俺は宙に向かって駆け出した。

『Sonic Action』

ビルを一気に飛び越えて、屋上へと辿り着いた時に俺が見た物は、ユーノと何かを言い合っているなのは達だった。

「ユーノ君、こういう時どうしたらいいの……?」
「え……?」

どうやら、なのははこのジュエルシード発動に関して、思うところがあるのかもしれない。
そうでなければ、ここまで深刻な顔をできるとは思えなかったから。

「ユーノ君!」
「あぁ、うん……封印するには……」
「協力者の力を借りるっていう手があるが、どうかな?」

文字通り飛んで来たと言うのに、この二人はどうやら俺の事に気付いてくれてなかったらしい。
声をかけると二人して何度目になるかわからない驚いた表情を見せた。

「ラルさん……?」
「ラインハルトさん?」
「や、さっき振りだな。あとユーノ、俺の事はラルと呼び捨てでも構わないよ」

気軽に声をかけたつもりだったが、どうやら余り効果は見られなかったらしい。

「ユーノ君、さっき途中だった方法って……?」

それどころか、なのはは一人でこの事態を解決するつもりのようだ。
俺はその様子に密かにため息を零しながらも、ユーノの代わりに答えてやる。

「原因を探し、叩いて、封印する。ようするにこのプロセスをこなせばいいんだろう?」
「えっと、そうなんだけど……でも、これだけ範囲が広いと……」
「元を見つければいいんだね……」

キッと顔を上げたなのはが、新たに魔法を使おうとしていたが、魔法陣が発動される寸前に俺は行動を止めた。

「さっきも言っただろう、一人で背負う必要はない。前はそうだったかもしれないが、今は協力できる人間がいるんだ」

何かを言いたげな瞳を見せるなのはに、笑いかけながらも、俺は足元に魔法陣を展開させた。

「なのはが何かを考えているのは表情を見ればなんとなく予想がつく。でもな……」
『Area Search』

瞬時に発動したエリアサーチで、原因となったであろう少年と少女を見つけ出す。
そして、それの方向を指で示しながら、俺は考えていた一言を言った。

「一人で抱えるより、みんなで分け合った方が、きっといい結果が出せるさ」
「あ……はい!」

と、まぁ……格好良さそうな台詞を言ったのはいいんだが……
問題は、どうやってあの近くまで行くか……だよなぁ。

「さて、俺単体でならあそこまで行くのは無理じゃないが……」

そもそも、根本的な話として、俺は封印なんてした事がない。
そうなると、封印が出来るなのはを連れて行かないといけない。
だが、それをやるにはあそこまで行くのは少々時間がかかる。

「待ってて、すぐに封印するから!」

果たして、なのはの台詞は誰に対して言ったものなのか。
俺がどうやってなのはをあそこまで連れて行こうか悩んでいると、唐突にそんな事を言い出した。

「ここからじゃ無理だよ。もっと近づかないと!」
「できるよ! 大丈夫!!」

ユーノが即座に反応していたが、なのははデバイスを構えながら、静かに問いかけた。

「そうだよね? レイジング・ハート」
『Shooting Mode Set up』

まるで、なのはの願いに答えるかのように、デバイス―――レイジング・ハート―――が姿を変えていく。
そして、まるで二股の槍のように変形したレイジング・ハートの先に魔力が集中していく。
魔力に呼応して、デバイスの周りにも魔法陣が形成されていく。

「行って!捕まえて!!」

収束した魔力は桜色の尾を引きながら、ジュエルシードの元へ向かって飛んでいく。
そしてその砲撃は、確実にジュエルシードに直撃していた。

『Stand by Ready』
「リリカルマジカル! ジュエルシード、シリアル]!!」

言霊が篭った呪文に、槍の先端が帯びていた光が輝きを一層増し……

「封印!!」

最後の呪文と共に、まばゆいくらいの桜色の奔流が、ジュエルシードを打ち抜いた。
そして、沈黙したジュエルシードは、レイジング・ハートの中に封印された。

「……いろんな人に、迷惑かけちゃったね」
「……なのは」

しんみりとした雰囲気を見せる二人。
その視線は傷ついた街へと向いている。
俺は、そんな二人に近づくと静かに頭の上に手を載せた。

「そんな今にも泣き出しそう顔をしてるな、二人とも」
「ラルさん……」
「ラル……」

未だ晴れない二人へ、笑顔を見せながら俺はゆっくりと頭に載せた手を動かした。
少しでも、二人の気が晴れるように願って、やさしく。

「なのはは、今君ができる精一杯をやった。そのおかげでジュエルシードは止められて、街もこの程度で済んだんだ」

なのはがもしジュエルシードを封印できなければ、被害はもっと広がっていたかもしれない。
それを止めてくれたからこそ、今この場で壊滅的とは言えない状態で街は残っている。

「それでももし、なのはが失敗したと思っているんなら、次に生かせばいい」
「……次に」
「そう、次に。今度はこんな事が起こらないように、全力で頑張ればいい」

ゆっくりと帰路についている途中。
壊れた道の先で、支えあいながら歩く翠屋JFCの二人の姿が見えた。

「……私、決めました」

そして、その二人の姿を見た後、なのはは覚悟を決めた、決意の眼差しで俺とユーノを見た。

「私は、自分の意志でジュエルシードを集めようと思います」
「なのは……」
「もう絶対、こんな事にならないように」

それに俺たちは頷いて答え、なのはの決意を認めた。
これが、後の砲撃主体の空戦魔導士を生み出す事になるなんて、この時は想像もしていなかったんだけどな……




















      〜 あとがき 〜


とりあえず、本編で言うなら……何話だっけ?
木が出てくるのは、確か3話だった気がしますが……?
っていうか、本編士郎さんの傷が素敵にヤバイです。どんだけー

こっから魔砲少女の実力が徐々に頭角を現していくわけですね!
管理局の白い魔王様への道を、着実にレイハさんと歩んでます。
でも、起動呪文短くてあの威力ってヤバイよね……



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/11/30
公 開 2009/01/10





[ B A C K ]