すぐ近くに現れたジュエルシードの魔力反応。
ラル、なのは、ユーノの3人はすぐに気付いたが、回りにはすずかやアリサがいる。
表立って魔法を使うわけにもいかず、どうしたものかと考えていると。
突然、ユーノがなのはの膝から飛び降りた。

「ユーノ君!?」















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『再会は敵同士、なの?』






















唐突な行動に、なのはが驚いた声を上げたが、ユーノはなのはを待たずに木立へと姿を消した。
そして、少し遅れて念話が飛んでくる。

【僕を探すって理由をつければ、抜けやすいでしょ?】
【そっか、さすがユーノ君】
【イタチの分際で、知恵はよく回るんだなぁ……】
【僕はフェレットだ!】

なのはに褒められ、ラルにからかわれとさんざんなユーノだった。

「あららぁ? ユーノどうかしたの?」
「うん、何か見つけたのかも……ちょっと探してくるね」

アリサが、ユーノの行動について聞いて来たのを幸いと、なのはが先程の理由を言った。
そして、席を立とうとした時、すずかが心配そうな顔をして問いかけて来た。

「一緒に行こうか?」
「いや、俺が行こう。あの小動物には説教してやらないとな」

すずかの問いかけに、ラルは冗談めかした表情をして答えた。
そんなラルに苦笑しながらも、アリサ達を置いて二人は走り出した。

「あぁそうだ、俺の飲み物冷めたらもったいないし、飲んじゃってもいいぞ〜」

笑いながらアリサの方に向かってラルがそう言うと、真っ赤な顔をして飲むか!という否定が返ってきた。
それを笑ってみながら、ラルは満足したように頷いていた。

「ラルさん、意地が悪いの」
「何を言う、軽いコミュニケーションじゃないか」

そんな軽口を叩きながら、二人がユーノの消えた木立に入った時、ひときわ強い魔力反応が起こった。

「あらら……完全に発動したみたいだな」

木立に入って少し先の所で待っていたユーノが、慌てた様子を見せた。
なんでも、このままだと人目についてしまうということらしい。

「あんまり広い空間は無理だけど……この程度なら、何とか」
「封時結界か」

ユーノの前方に展開されたエメラルドの魔法陣。
その魔法陣を中心として、周囲から色が無くなった。
正確には、色が抜け落ちてグレーが目立つと言った方が正しいだろう。
なのはは、始めてみる結界の効果に目を丸くしている。

「出てくるぞ」

近くの木立の合間から、ひときわ眩い光が発せられたかと思えば……

「おぉ……」
「ぁ……」
「…………」

その光の中から出てきたのは、猫だった。
それも、木よりも大きくなった子猫だった。
さらによく見ると、先ほどユーノを追いかけていた子猫だったりする。

「にゃーん」

なのはやユーノからすれば、今までは会うたびに敵意を放ってくるようなのが相手だったから。
ラルからすれば、前回の攻撃性の高いジュエルシードの暴走体を想像していたから。
あまりにも邪気を放っていないその子猫を見て、全員の頭の中が真っ白になった。
ユーノに至ってはトラウマにでもなったのか、干からびているようにも見える。

「あ、あれは……?」
「た、たぶんあの猫の大きくなりたいって願いが……正しく叶えられたんじゃないかな?」
「あれと正しいと取れるかは、甚だ疑問ではあるような気もするけどなぁ」

なのはの問いにユーノが答え、それに対してラルが突っ込みをいれる。
目の前の子猫は気のままに歩き、時折鳴くと言う、なんというか、子猫そのままであった。

「だけど、さすがにこのままじゃ危険だから元に戻さないと」
「そうだね」
「まぁ、あれが相手なら俺は特にやる事もなさそうだが……」

ユーノがなのはを見上げ、なのはもそれに頷いて答えると、レイジングハートを掲げた。
それとほぼ同時に、後ろから金色の魔力弾が巨大化した子猫に襲い掛かった。
威力自体はそんなにないのだろうが、悲鳴が子猫からあがった。

「!?」

なのは達が驚いて後ろを振り向くと、木々を抜けた先の電柱、その上に彼女はいた。
漆黒のマントと金色の頭髪のツインテールを翻し、レオタードを模したかのようなバリアジャケットを纏う魔導士が。

「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」
『Yes Sir. Photon Lancer Full Fire』

彼女の持つデバイスから、金色の魔力弾が連続して発射された。
数にして8発、それが子猫へと無情にも注がれようとした。

「ピアス・レクオス!」
『All right. Outside Protection』

子猫へと降り注ぐ直前、ラルの声と共に、魔力弾の進路上に白銀の魔法陣が展開され、魔力弾を弾いた。
弾かれた事に気付いたからか、初撃から間をおかずに金色の魔力弾が迫る。

「魔法の光……そんな……」
「レイジング・ハート、お願い!」
『Stand by Ready Set up』

ユーノは、自分たち以外の存在が魔法を使用している事実に絶句した。
だがその間に、なのははレイジング・ハートに呼びかけて、バリアジャケットを装備した。

『Flier Fin』

なのはの意思を読み取ったレイジング・ハートが、フライアーフィンを展開し、巨大子猫の上へと飛翔する。
そして、なのははしっかりとレイジング・ハートを構えると、さらに魔法が展開された。

『Wide Area Protection』

飛来する魔力弾を今度はなのはの桜色の魔法陣が防いだ。
それを見ていた正体不明の魔導士の方で、僅かに変化があった。

「魔導士……?」

そう呟いて、再び魔力弾を放とうとしたが、それは後ろから聞こえた声に中断させられた。

「とりあえず、無差別な魔法の使用は感心しないな」
「……っ!?」

いつの間に移動してきていたのか、ラルが魔導士の後ろに立っていた。
その手に握られたデバイスは、しっかりと相手へと向けられ、その様子は油断を感じられない。
だが、圧倒的優位に立ったはずのラルも、相手から聞こえた声でつい油断をする羽目になる。

「……ラル?」
「……はぃ?」

そう、何故か相手が知るはずもない自分の名前を呼んだからだ。
ラルの方へとゆっくりと振り向く魔導士。
その顔は、ラルにとっては今朝会ったばかりの存在だった。

「……フェイト?」

そう、今朝方隣へ引越しの挨拶をしてきたフェイト・テスタロッサが襲撃の犯人だった。
時間にして刹那、ほんの一瞬といっても問題のないくらいの時間。
だが、その僅かな時間で、動き出した者がいた。

「フェイトから……離れろ!」
「っ!」
『Sonic Action』

声が上から降ってくると同時に、今までラルが浮かんでいた所をオレンジの閃光が猛スピードで走った。
瞬時に展開された高速移動魔法で回避行動を取ったラルは、その相手にも予測がついてしまった。

「……やっぱりアルフか」
「その声は……ラルかぃ!?」

ラルがフェイトから距離を取った瞬間、フェイトは巨大子猫となのは達がいる方へ飛んでいってしまった。
それを追いかけようとしたラルだが、アルフが威嚇してきたことにより動きを止める。

「どいてくれ、と言ってもどいてはくれないんだろうな」
「そりゃあね……あたしのご主人様はフェイトだ、それを守るのが使い魔の役目だろう?」
「違いない。だが腑に落ちないのも確かだ」

お互い、いつでも攻撃に移れるような緊張感を保ちつつ、ラルは少しでも情報を引き出そうと試みる。
情報と言うのは、少なからず戦局を左右する力があるからだ。

「何故、君たちがジュエルシードを集めようとしている」
「言う必要は、ないね」

アルフからすれば、今この場で目の前にいるラルは敵だ。
敵にわざわざ情報を曝け出す程、自分は甘くない。
そういう意味が込められたかのような不敵な表情を見せるアルフ。

「それは、知るべき事ではないと言う事か、知ってもしょうがないと言う事か?」
「…………」

だが、相手もまた曲者だった。
アルフが少しでも話せば、それを元に情報として新たな物を引き出そうとするラル。
相対しながらも、アルフは嫌な汗が流れるのが止まらなかった。
まるで、少しでも話してしまえば全てを見抜かれるのではないかという恐怖心に襲われたからだ。

「だんまりか」
「動くな! あんたが何者でも……フェイトの邪魔はさせない!」

アルフが口を閉ざし始めた事で、情報の収集が限界を向かえたのを悟ったラルは、なのは達の元へと行こうとしたが、やはりアルフがその行動を止めた。

【ユーノ、聞こえるか?】

このままでは、ジリ貧と対して変わらないだろう。
そう判断したラルは、ユーノへと念話を送った。

【あ、ラル! 一体どこに行ってるんだよ!】
【すまんがこっちはこっちでそっちにいる魔導士の使い魔と相対してるんでな、どうにも俺を逃がす気がなさそうだ】

ユーノからはすぐに反応が返ってきて、それと同時になのは達の状態も僅かではあるがラルへと送られてくる。
どうやら、即席魔導士のなのはでは、訓練されているであろうフェイトの相手をするのは辛いようだ。

「このままこうしている訳にもいかないと思うが……?」
「フェイトが取る物を取ったら引いてやるさ」
「ふむ……やっぱり狙いはジュエルシードか」

ラルとアルフが向かい合っている間にも、なのは達がいるであろう方向からは、断続的に魔法が使用されている音が響いてきていた。
そして、一際激しい金色の光と砲撃音が響いたかと思えば、あたりが少しばかりの静寂に包まれた。

「どうやら、あっちの方では片がついたらしいが……」
「フェイトが負けるなんてのはありえないからね」

自分のご主人様を自慢するかのように、アルフが言った。
ラルの視線が金色の光が発せられた方向に向いていたのもあるのかもしれないが……アルフは気付いていなかった。
今まではまだ穏やかだったラルの周りの空気が、僅かに魔力の影響からか歪みを見せ始めていることに。

「あぁ……アルフ、一つ言っておこう」
「なんだ……いっ!?」

ゆっくりとアルフの方を向いたラルの表情を見た時、瞬時にアルフは震え上がった。
その目は今までの光を無くし、どこまでも暗く、深かった。

「例え君達が今日知り合ったばかりの隣人と言えど、なのはやユーノに何かあったら相応の対価は支払ってもらう」
「……ぅ……ぁっ……」

有無を言わさぬラルの迫力に、使い魔の素体となった生物としての本能が警鐘を鳴らす。
コイツを敵に回すな、逃げろニゲロにげろ……と。

「今日の所は見逃そう。なのはも大きな怪我もせず、気絶程度で済んでいるみたいだからな」

まるで状況が全て見えているかのような言動。
それに対して疑問を持つことも出来ず、アルフはただラルの言葉を聞くだけしか出来なかった。
離れた場所では、ジュエルシードがフェイトの手によって回収されているのだろう。
金色の魔力がジュエルシードの魔力を捕らえたのをラルは感じていた。

「だが、次は……ない」
『Transporter』
「っ!!」

そう最後にラルが告げたと同時に、足元に白銀の魔法陣が展開され、ラルの姿が消えた。
呆然とそれを見送ったアルフは、ラルが消えたと同時に、身体が重くなったように感じた。

「な、なんだったんだぃ……あいつは」

尋常じゃない量の汗をかいている事に、その時気付いた。
それは、生物としての本能が嗅ぎ取ってしまった『死』の直感。
あのままラルと戦闘になっていれば、自分は確実に死んでいたという確信。

「マズぃよ、フェイト……トンでもないのが相手にいるみたいだ」

そう呟いて、アルフもまたその場から姿を消した。
二人が消えて少しも経たない内に、ラルが立っていた場所の地面が砂となって風に舞った。
そのアスファルトだけが、砂場のように変化していた……

「ユーノ、なのはの様子は?」
「あ、ラル……気を失っているだけだと、思う」

転移した先では、気絶したなのはとその傍に付き従うかのようにユーノがいた。
ラルは、なのはへと近づくと、白銀の魔法陣を展開して、なのはの上に置いた。

『Healing』
「ラル、それは……?」
「ミッド型、俺流アレンジの治療魔法。ちょっとした軽い怪我とかならこれで治せる」

魔法陣がゆっくりとなのはの体を通り過ぎるのと同時に、怪我していた部分が光り、治っていく。
それだけ見れば、この魔法がいかにあり得ない威力を発揮しているかが解る。

「それって……大丈夫なの?」
「細胞の活性化をさせている訳じゃないから、ヘイフリックの限界とかは関係ないさ」
「ぇ……それってどういう……?」

ユーノが問いかけようとした時、なのはが身じろぎした。
そして、ゆっくりとその目を開いていく。

「ん……」
「なのは、痛いところはないか?」
「あれ……ラルさん? あ、そっか……あの子に倒されちゃったんだっけ……」

あまり実感がないのか、半ば呆然としながらなのはが呟いた。
それを悲しそうに見るユーノと、何かを考えている表情をしたラル。
だが、ラルのそんな表情も一瞬で影を潜め、いつものような雰囲気に戻った。

「ジュエルシードは回収できなかったが、ひとまずアリサ達の所に戻ろう」
「そうだね……あんまり遅いと心配かけちゃうし」

そうだな、とラルは言おうとしたが、一瞬固まったかと思うと、ユーノの方へ壊れたブリキ人形の如く振り向いた。
そんなラルを見て、冷や汗を流しながらも動けないユーノ。
まるで蛇に睨まれたカエル状態だった。

「ユーノ、お前まさか封時結界の効果、教えてないのか?」
「あ……そういえば言った記憶がないや」
「……お前、後で説教な」
「……?」

不思議そうな顔をしているなのはに封時結界の効果を教えてやりながらも、ラルたちは子猫とユーノを拾い上げてアリサ達の所へとゆっくりと戻っていった。
だが、ラルの頭の中では、今後の予定が着実にシミュレートされていた。

『……まずは、フェイト達に話を聞く必要がありそうだな。ピアス・レクオス、後で朝の検索結果を表示してくれ』
『All right』




















      〜 あとがき 〜


恐らくきっとたぶん4話あたりのお話でしたー。
出来るだけ違和感ないように再構成してるつもりなんですが、どうなんだろうね?
まぁ、フェイトが出ました、アルフも出ました。
でも、なんか主人公怖くなりました……なんで?

多少魔法に対する俺なりの解釈とかもこれから盛り込まれるでしょう。
あと、よくある憑依とかじゃなくて、なんていうか特殊な動かし方するつもり。
それを良しとするか悪しとするか、読み手の判断次第なんだよなぁ……



んでもって、ちょっと解説。
『ヘイフリックの限界』について。

簡単に言えば、細胞分裂の限界の事となります。
細胞分裂が出来る回数には上限という物が存在します。
上限に達した細胞は寿命を迎える事となり、それをヘイフリックの限界という訳ですが……

ここで俺独自の解釈が混じります。
なのは内での治癒魔法は、細胞の活性化により傷を癒すという物として考えています。
ですので、幼少期であるなのは嬢に下手に治癒魔法を使うと、将来の成長に影響が出る。
そういう解釈の元で、今回ラルの魔法は、その治癒魔法とは別物だという意味を指します。
じゃぁどういうのなんだってのは、今後の話の中で登場する予定です。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/11/30
公 開 2009/01/16





[ B A C K ]