「……世の中、こんなハズじゃないことばっかりだ」

俺の目に映る、後ろへと消えていく風景を見ながら、呆然として呟く。
なんで、俺は今こんな場所にいるんだろうなぁ……?

「なにを黄昏てるのよ」
「なのはを使って、強引に俺を誘い出した本人がそれを言うか?」

俺……というか、高町家+月村家+アリサ+俺という大所帯は現在温泉へと向けて移動中。
移動に必要な車が2台というだけで、その人数の多さを理解してもらえるだろう。
何故、俺がこのメンバーに混ざっているか。
それは、話が数日前に遡る。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『海鳴温泉の一幕、なの?』






















「ピアス・レクオス、検索結果を表示してくれ」
『All right』

月村家での騒動が終わってからの数日、俺はまず、引っかかったテスタロッサというキーワードの検索結果を調べていた。
ピアス・レクオスのコアが点滅すると、俺の周囲に映像が浮かび上がっていく。

「……フェイト・テスタロッサに対する情報は無し、か」

ミッドチルダの魔導士登録関連の書類も提示されたが、そこにはフェイトの名前が無かった。
魔導士である以上、大抵の人物はここを検索すれば簡単な情報は調べられる。
ここに登録していない魔導士は、大抵犯罪や違法をやらかして表に出れない奴らだからだ。

「と、なるとフェイトもそうである可能性があるが……」

マルチタスクをフル活用して、出てくる情報を流れ作業で処理していく。

「に、しても、もう片方のリストにも記載がないってのもなぁ……」

表示されているリスト……所謂ブラックリストなんだが、そっちの方でもフェイトの名前が該当しない。
フェイトが違法魔導士であるなら、このリストで名前が出てくるはずなんだが……

「出てこないって事は……初犯か、もしくは認知されていないか……?」

どっちにしろ、第97管理外世界には無届で来ている事になり、結局の所で法に引っかかる。
下手に管理局を敵に回すと、いろいろとメンドクサイんだよなぁ……

「あーもう、調べてもどれが関連しているのかよくわかんねぇ!」

展開される情報の量が雑多すぎて、どれが必要な情報か絞りきれない。
まったく……なんで俺がこんな事せにゃならんのだ。

「もう、いっそのこと本人たちに問い詰めてやろうか」

だが、ここ数日フェイト達は俺が寝た後にでも戻ってきているのか、日中は気配がしない。
前のアレで、警戒されたかなぁ……

「はぁ……やるこた山積みだが、解決しきれねぇよ」

半ば投げやりになって、新たに買ったソファーに深く身体を沈める。
このまま寝てしまうのもいいかもしれない。
そう考えている時、現地調達した携帯から軽快な音が鳴り響いた。

「……ふぁい、ラルさんです」
「ら、ラルさん、大丈夫なの?」

自分でも驚いたが、力がかなり抜けたような声が出た。
電話口の相手も同じだったのか、少々驚いたような声をあげた。

「あぁ、なのはか。どうかしたのか?」

なのはから伝えられたのは、翠屋を経営する高町家が、連休を利用してちょっとした家族旅行に出掛けるらしい。
俺は、その報告で数日ジュエルシード探しが発生しないというものだと思っていたのだが。

「それで、ラルさんもどうせなら来ないかってお父さんたちがいってくれたの」
「…………はぃ?」
「すずかちゃんのウチの人やアリサちゃんも来るんだよ、一緒に行きませんか?」

どうやら、ほとんど無関係と変わりない俺まで、一緒にどうかと誘われてしまった。
さすがに、家族旅行に俺みたいな異分子が混ざるのはいただけないだろうと思い、断ろうとしたんだが……

「あと、アリサちゃんからの伝言で、来ないと酷いって……」
「酷いって……一応俺の方がアリサよりは年上なんだけどな?」
「にゃ、にゃはは……」

むしろ、どう酷いのか教えていただきたい。
っていうか、やっぱり俺は行かない方がいいと思うのだよ。
前の士郎さんの視線や、恭也さんの視線を思い浮かべながら俺は遠慮すると答えたんだが……

「結局、押し切られてここにいるんだよなぁ……」

相変わらず、流れるように移り変わる風景を見ながら、俺はため息を零した。
気付けばなのはから電話口の主が士郎さんへと入れ替わり、気付けば丸め込まれてしまったという。

「一つ聞きたいんだが?」
「なによ?」

高町家が乗り込んでいる車。
最前列は運転手の士郎さん、そして助手席に桃子さん。
これはいいとしよう、どう大抵の車は最前列は2人しか座れないのだから。

「なんで、俺たちが3列目にまとめて押し込まれているんだ?」

2列目には、ユーノが入ったバスケットと、高町家長女の美由希さん。
そして3列目に俺たち4人が詰め込まれている。
ユーノのバスケットを寄せれば、2列目にもう1人座るのも可能だと思うんだが……

【っていうかユーノ、貴様ペットの分際で俺より広い席とはどういう了見だ】
【ペットって言うな! 座席だって士郎さん達に言われたんだからしょうがないだろ?】

恨みがましい思いと共に、念話をユーノに送りつけてやると、正論で返された。
時に正論とは、納得できないものでもあるとこんな時に実感するとは……
結局、座席の変更が認められるはずもなく、俺はハイテンション3人組と同じ席で目的地まで行く事になった。

「……来るまでで、疲れた」

目的地へ着くと同時に、元気な3人娘は、思い思いの場所へ走っていった。
アリサとすずかは池の方へ、なのはとユーノは山の空気をどうやら堪能しているらしい。
桃子さんを筆頭とした女性陣は宿のチェックアウトへ、士郎さんと恭也さんは荷物を車から降ろしている。

「士郎さん、恭也さん。手伝いますよ」

俺も山の空気を吸いに行こうかとも思ったが、こちらは誘ってもらった身だ。
これくらいの手伝いをしてからでも、旅館を堪能するのは遅くないだろう。

「ラル君、君もなのは達と同じように好きにしていていいんだよ?」
「あぁ、この程度の荷物なら俺と父さんで問題ないからな」

ありがたくも、この2人は俺を来賓扱いしてくれるツモリらしい。
だが、こればっかりは俺も引く気がない。

「でも、誘ってもらったんですから、出来る事ぐらいはさせてください」

相手の返答を待たずに、荷物の輸送を始める。
こう見えても、体はそこそこ鍛えられている方だ。
このぐらいの荷物なら、俺も苦労なく運べるだろう。

「……温泉っていうのは、初めて入りますね」

無事にチェックインを終え、荷物を運び終えた後、俺たちは少しだけ部屋でゆっくりした後温泉と言う場所に向かう事になった。
まぁ、こういう場所を何もわからない俺が恭也さんに誘われたんだが。

【ラル、助けてくれ!】

恭也さんと共に暖簾と呼ばれる物をくぐると、少しばかり熱を帯びた風が身体を撫でた。
なるほど、こっちの世界じゃ温めた水に浸かるのか。
そう温泉について自分なりの解釈を纏めていると、悲痛なユーノの叫びが届いた。

【そういえばユーノ、お前一体どこにいるんだ?】

みんなと一緒にいた時は、まだいたと思ったんだが、暖簾をくぐったあたりで見なくなったな。

【なのはに捕まって、女湯の方に来ちゃってるんだよ!!】
【あー……女湯の方に行っちゃってるなら俺にはもうどうしようもできんな】
【僕は男なんだ! 助けてよ!!】

そうは言ってもなぁ、俺に女湯まで迎えに行けというのか?
ここは諦めてなのは達と一緒に温泉を満喫してくるといいんじゃないのか?

【まぁ、風呂から無事に帰還した暁には、お前に淫獣の名をくれてやろう】
【そんなものいらないから助けてっ!!】

っても、お前はまだ第二次成長前のはずじゃないのか……?
それなのにしっかりと意識してるってのは……エロユーノめ。

「解らない事があったら聞いてくれ、教えられる事なら教えるから」
「ありがとうございます、恭也さん。マナーを少し教えて貰えれば後は大丈夫だと思いますよ」

ユーノの悲痛な念話を黙殺しつつ、俺は恭也さんから温泉という物のマナーを教わった。
湯船に浸かる前には身体をしっかりと洗っておくや、いくら広くても泳がない事。
あとは、他の人の迷惑になるようなことをしなければ特に問題はないらしい。

【あぁ……僕は、もう……】

その一言を最後に、ユーノからの念話が途切れた。
……いい物が見れたんだ、迷わず成仏してくれ。
ちなみに、温泉と言うものは素晴しいと、その日俺の脳内にしっかりと刻まれた。

「温泉を上がった後は、牛乳を飲むといいと言っていたが……確かに格別だ」

オマケと言わんばかりに、冗談めかして恭也さんが教えてくれた風呂上りの牛乳。
これがまたいつもと違うような感覚で美味く感じた。
休憩所として開放されているベンチに座りながら、俺はゆったりとした時間を満喫していた。

「……をアレしてくれちゃってるのは」
「え……?」
「んぉ? ……ぶっ」

なにやら聞き覚えのある声が聞こえた気がして、その方向を見てついつい噴出してしまった。
なのは達に相対する1人の姿。
どうみても、あれってアルフじゃねーか……なんでここにいるんだよ。

「あんまり賢そうでもないし強そうでもない……ただのガキンチョに見えるんだけど……」

どうやら、なのはにいちゃもんをつけているようだ。
なのはを守るように、アリサがその2人の間に強引に割って入っているのが見える。
まったく、折角のくつろぎの空間を邪魔してくれるとは……
俺はため息を吐いて立ち上がりながら、4人のいる方向へと向かった。

「おい、その辺にしとけ」
「あ……んた……」
「ラルさん!」

呆れた顔を隠さず、アルフに声をかけると、何故かアルフの顔が若干ひきつったように見えた。
それに対して内心首を傾げつつも、俺はいつも通りの口調でアルフに忠告した。

「折角ゆっくりできる空間に来ているんだ、イザコザを起こす気なら他所でやれ」

俺としては聞きたい事が山ほどあるから、この場でアルフを捕獲しても構わないんだが……
そうなると、アリサやすずかにどんな迷惑がかかるかわからない。
それを言葉の裏に潜ませてやると、アルフは小さく舌打ちをして、笑顔を貼り付けた。

「あははは! ごめんごめん、人違いだったかなぁ。知ってる子に良く似てたからさ」
「あは……そうですか……」

アルフがそう言うと、なのは達は安堵したかのように顔を緩ませた。
ユーノの頭をわざとらしい台詞と共に撫でて、敵意はないと演技して見せている。
俺だけは、冷たい笑顔を顔に貼り付けて、そんなアルフの様子を見ていた。

【今の所は挨拶だけね】

去り際にアルフが、俺たちに向かってそう念話を送ってきた。
それを聞いた瞬間、なのはとユーノの表情に驚愕の色が現れた。

【忠告しとくよ。子供はいい子にしてお家で遊んでなさいね。おいたを過ぎるとガブッと行くわよ】

そう告げた後、アルフは俺たちの脇をすり抜けて歩き出した。
よほどその忠告がショックだったのか、なのはの表情に、暗い影が出来始めた。

【……俺からも一つ言っておこう。前に言った事を精々忘れるな】

それを見てしまった俺は、アルフにだけ向かってそう念話を送った。
俺の念話を聞いたアルフは、一瞬だけ動きを止めると、こちらを見ずに去って行った。
……アルフがここにいる以上、フェイトもいると考えてもいいだろう。

「ここにもあるのか、ジュエルシードが……」

俺の呟きは、誰に聞かれる事もなく、風に乗って消えた。
どちらにしろ、ここでも騒動が起きてしまいそうだな……







ラル達と別れたアルフは、風呂に浸かりながら外で探索をしているフェイトへと念話を送っていた。

【あーもしもしフェイト、こちらアルフ。ちょっと見てきたよ、例の白い子】
【そう……どうだった?】
【んーまぁ、どってことないね。フェイトの敵じゃないよ】
【そう……】

アルフが見たなのはの感覚を、フェイトに伝える。
そして、アルフはその時にあったもう1人の人物について、続けて念話を送った。

【ただ、一つ問題ができちゃったね】
【……なに?】
【ラルが、ここに来てる】
【……っ】

ラルの名を出した時、フェイトが息を飲むのがわかった。
それを理解しながらも、アルフは言葉を続ける。

【前にあたしがあいつと対面した時言ったんだ。あの白いのやフェレットに傷を負わせたら相応の対価を払わせるって……】
【…………】
【あいつはヤバい、白い子とはまるで格が違う……】

一度相対した時の事を思い出して、アルフは身体を震わせた。
フェイトと同じ魔導士としては、決定的な何かが違う。
そう、考えずにはいられなかった。

【そう……こっちはちょっと進展。ジュエルシードの場所は大体つかめたよ、今夜には捕獲できそう】

ラルに関して、これ以上話しても仕方が無いと判断したのだろうか。
フェイトは話を変えるかのように、アルフにそう告げた。
それを聞いたアルフは、嬉しそうな意思を前面に出してフェイトの事を褒める。

【さっすがあたしのご主人様だ。ところで、ラル達はどうするんだい?】
【相手の事もよくわからないし、こっちからは仕掛けられない、少し様子を見よう。それまでは身体を休めて】
【あいよー】

フェイトとの念話を終えて、アルフは再び湯船の中でくつろぐ。
その時に、隠していた耳が出てきたのは、愛嬌だと言えるかもしれない。

「それにしても……ラル、あんた一体何者なんだい?」

明るくノリの良さそうな表情でなのは達と会話をしていたラル。
アルフに見せた、あの一遍の光すらない暗い目をするラル。
その2つを垣間見てしまったアルフの疑問が、ゆっくりと湯船の煙と共に消えた。




















      〜 あとがき 〜


温泉でのユーノはホントに淫獣だと思ったのは俺だけじゃないはずだ。
だがしかし、俺がその立場だったらきっと見る、がん見すると思う。
エロという無かれ、それが男……いや、漢としての本能だっ!

……ちょっと妄想が行き過ぎた。
まぁ、なんでかしらんが前後編になった。
……いいか。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/12/03
公 開 2009/01/21





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