年齢から言ってしまえば、俺も子供と呼ばれる分類に入るんだが……
どうにも、こんな早い時間から寝るってのはもったいない気がしてしまう。
折角24時間入り放題の風呂があるんだから、ねぇ?

「と、言うわけで俺ちょっと風呂に行って来ようと思います」
「ラル君、よっぽど温泉が気に入ったんだねぇ」

えぇ、あれはいい物です。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『気になるあの子は誰なの?』






















なんというか、この世界が生み出した至高の1つじゃないかと思いますよ。

「士郎さんや恭也さんはどうします?」
「あぁ、俺は遠慮しておくよ、ゆっくりしてくるといいさ」
「俺も同じだ」
「そうですか……では、いってきます」

まぁ、風呂もそうなんだがね。
気になる事ができちまった以上、ゆっくりもしてられませんって。
ため息を吐きたくなる気持ちを堪えながら、俺は温泉道具一式を持ちながら部屋を出た。

「……ピアス・レクオス」
『Yes』
「フェイト、もしくはアルフの居場所はわかるか?」

どうにも、魔力隠蔽でもしているのか、俺1人の力じゃはっきりと位置が特定できない。
さらに言うと、近くになのはやユーノのように魔力を隠す気がないのがいるから余計なんだが。
っていうか、なのはは新人魔導士なのにあの魔力量は反則だよなぁ……

『She is the outside』
「外か」

とりあえず、温泉道具をピアス・レクオスの中に収納しながら、俺は散歩ついでに外へと歩き出した。
さてさて、かるーくお話でもしに行きますかー

「……で、どこにいるんだっつーの」

この旅館の土地の中にいるような感覚があったから、流離ってれば会えるだろうと思ったのが甘かったんだろうか。
それなりに自分でも景色を楽しみながらも、フェイトたちを探していたんだが見つからない。
うーん……どうしたもんか。

「いっそのこと、封印の場所に立ち会うのを狙うか?」

その方が楽なのは確実なんだが、ジュエルシードが持ってかれる可能性がある。
まぁ、それとしてはロストロギアに興味はないんだが、次元震が発生して管理局が来るのはなぁ……
フリーの魔導士やってる俺の事、管理局は無理矢理引き込もうとするから嫌いだし……

「……考えてる時間が長すぎたか?」
『Yes』
「……あんまり喋らないからこそ、突っ込みが酷いな、お前」
『I 'm not bad.』

そんなに長時間考え込んでいるツモリもなかったんだが、どうやら事というのは進展しているらしい。
そう遠くない所で、ジュエルシードの魔力と、他に2つの魔力を感じた。
旅館の方からもなのは達の魔力が動いているのを感じるし……
となると、ジュエルシードの傍にいるのがフェイト達だな。

「ちょっと急ぐか」
『All right. Sonic Action』

頼むから、封時結界なしのドンパチは止めてくれよぉ?
管理外世界での魔法秘匿義務の事を2人が知っている事を祈って、俺は空を飛んだ。
























残念ながら、俺の希望ってのはあっさりと打ち砕かれるらしい。
俺が現地に到着した時にはすでにオレンジ色の狼と、ユーノの発するエメラルドの魔法陣が衝突していた。

「なのは、あの子をお願い!」
「させるとでも、思ってんの!」
「させて見せるさ!!」

辿り着いた俺のことなんて気付いている風もなく、なにやら熱い展開を繰り広げる2匹。
そして、ユーノが新たな魔法陣を展開したかと思えば、2匹の姿が消えた。
なのはは、唐突に消えた2匹を探しているが、フェイトの方は冷静だった。

「結界に、強制転移魔法。いい使い魔を持っている」
「ユーノ君は、使い魔ってやつじゃないよ。私の大切な友達」

2人が、にらみ合っている光景を、ちょっと離れた木の上から覗いている俺。
なんていうか、すんげぇ出て行き辛いんだよなぁ……雰囲気が。
とりあえず、もう少しばかり状況が落ち着くまで、俺が出て行ける状態じゃなさそうだ。

「で、どうするの?」
「話し合いで、なんとかできるってこと、ない?」

なんていうか、年相応とも言えるが……甘いねぇ。
個人的にはフェイトの認識に賛成と行きたい所だが……
結論としては……

「話し合うだけじゃ……きっと、言葉だけじゃ何も変わらない、伝わらない!」



―――――どちらも、まだまだ甘い。



「ピアス・レクオス」
『Circle Protection』
「……っ!」
「ラルさん!?」

フェイトの行動と同時に、俺も2人の間に割って入る。
そして、フェイトの放ったデバイスの一撃を、同時に展開した防御魔法で防いだ。
どうやら、その時になってようやく2人は俺の存在に気付いてくれたらしい。
……切なくて泣きそうだと思ったのは、俺だけの秘密だ。

「ひとまず、お前ら2人とも落ち着け」
『Chain Bind』
「バインド? ……こんなに早く?」
「えぇ、なんで私まで!?」

だって、なのはってばほっとくと魔法ぶっ放しそうじゃん?
ちなみにフェイトは逃げるのが予想できたからなんだが。
強制的に2人の動きを封じて、俺は2人に出来るだけ最高に胡散臭い笑顔を見せた。
もしこれで怒りの表現が出来るなら、綺麗な井形が頭にくっ付いてることだろうさ。

「……っ!」
「いたっ!」

2人の頭に、それなりに手加減しつつ拳骨を叩き込む。
さぁ、これからは楽しい説教タイムの時間だ。

「お前らに言いたい事はまぁ、いくつもあるんだが……」
「……複数あるんだ」

なのはの突っ込みは、華麗にスルーさせて頂く。
フェイトもなんというか恨みがましそうな目で見てくるが、今は俺のターン!

「お前らは、あのままほっといたら確実に魔法使ってただろ、結界とか無しに!」
「にゃ、にゃはは……」

恐らくこの2人の特徴からみて空戦なのは間違いないだろうが、空中だろうと地上だろうと大差はない。
桜色やら金色やらの魔力光を一般人にもしも見られたら、管理局にどう難癖つけられるやら……

「さらに、ジュエルシード封印した時も封時結界とか一切使ってないだろ」

アルフだって使い魔であるなら、何かしらフェイトの補佐が可能な能力を持っているはず。
それなのに、それを使用しないって事は、アルフがその事に気付かなかったか、もしくはフェイトがそれを命じなかったから。

「あとなのは……お前の事だ、どうせまた黙って出てきたんだろ?」
「……にゃっ!」

高町家の人たちを見てて気付いたが、どうにも一般人って感じがするのは桃子さんだけだ。
恭也さんは妙に身体が鍛え上げられてたし、士郎さんに至っては身のこなしが常人のソレじゃない。
実戦、もしくはそれに類するモノを知っている人間の動きだ。
そんな人たちが、なのはの事を気付かないとは考えづらい。

「状況が急に切迫すると、他のことが疎かになる。お前の悪い癖だな、これは」
「……ごめんなさいなの」
「まぁ、それは後でユーノ共々新ためて説教するとして……」

顔を会わせようと思えば、すぐに出来るなのは達は後でしっかり説教しよう。
ひとまず大事なのは、今まで俺との遭遇を意図して避けていたとしか思えない方……

「で、フェイト。黙ってるだけってのは認めねーぞ」
「フェイトちゃんって、言うんだ」

恨みがましい視線を送ってくるフェイトに対して、俺はそう告げる。
さっきなのはに言った台詞から考えると、人には言えない目的がある、もしくは言えないような目的のために集めているって予想はつくが……

「……なに?」
「俺は、なのは達の目的は知ってるが、お前の目的は知らない。だから教えてもらおう」

疑問を疑問のままにしておくってのは、どうにもいただけない。
結論を出すにしても、両者の言い分は知っておきたいからな。

「私が、言う必要はないよね?」

バインドで拘束されているにも関わらず、フェイトは無表情を貫いたままそう言った。
俺もまた、それを無表情で見返した。

「……えっと、その……あの」

なのはがオロオロしているのが視界の隅に移るが、今はガマンしてもらおう。
そうしている間にも、フェイトは根負けしたのか、俺から視線を外した。

「……はぁ」
『Bind Release』

そこまで強情にも言いたくないのに、無理に聞き出そうとするほど、俺は非情に徹しきれない。
最近多くなった気がするため息を零しながら、俺は2人にかけたバインドを解除した。

「……どういうつもり?」
「どういうつもりもこういうつもりもねーよ、見たまんまだ」

どうにも、詳しい実力自体はどっちが上かなんてのはわからないが……
今のこの状態だと、俺が女の子を苛めているみたいに見えて嫌になっただけだ。
2人を開放した後、なのはに後は好きにやってくれと告げて、俺は近くの木に座り込んだ。

「やる気無くしたってより、なんかムシャクシャするから今日はもう何もしない!」

正直に言うと、一瞬だが、フェイトが顔を背けた時に見せた悲しそうな表情が気になった。
何かを隠している……いや、隠しているというよりは、何かに耐えているって感じの方が正しいか。
そんな表情を見せられて、これ以上俺がどうにか言える訳がない。

「と、言うわけで今回俺はこれ以上手を出さない、あとは逃げるなり戦うなり好きにしてくれ」

――――ただし、結界を張るのを忘れるなよ?
そう締めくくって、俺は2人がどういう行動を取るのか見る事にしようとした。

「……木の上、だな」

……見ようと思ったんだが、気付いてしまった。
2人とも、バリアジャケットがスカートみたいに見えるんだよね。
空中戦やられたら、なんていうか見ちゃいけないものを見てしまいそうだ。
そんな俺の考えなど知るはずもない二人は、どうやらジュエルシードをかけて戦う事になったらしい。

「まぁ、言い出しはフェイトで、なのはは勝ったら話を聞いてもらうとかそんなとこか」

フェイトがどういう理由でジュエルシードを集めているかは結局は聞かなかった。
でも、それに固執するだけの理由がフェイトにはあるんだろう。
まぁ、怪我しそうになる前には止めるだけは止めるけどな。

「フェイトが高速機動で……なのはは固定砲台ってとこか」

空に飛び上がって行く2人と、それと同時に展開された結界。
なのははまだ結界を張れるかわからないから、フェイトか、この結界は。
2人が空を飛ぶと、必然として俺も空を飛ぶしかなくなる訳なんだが……
戦っている2人より高い位置で、ふわふわと浮かびながら戦闘の様子を眺めて得た感覚が今言ったことだ。

『Put Out』

なのはのディバインバスターとフェイトの魔法がぶつかり合って、お互いの姿が見えなくなった時。
フェイトは持ち前であろう高速機動でディバインバスターから逃れ、俺と同じくらいの高さまで飛び上がっていた。
そして、デバイスに鎌のような魔力刃を発生させると、なのはへと強襲、その首筋で刃を止めた。
それで決着がついたんだろう、レイジングハートからジュエルシードが排出された。

「レイジングハート、何を!?」
「きっと、主人思いのいい子なんだ」

フェイトがそれを回収し、2人がゆっくりと地面に降りてくる。
俺もまた、ゆっくりと地面へと降りていく。

「帰ろう、アルフ」
「さっすがあたしのご主人様。じゃあね、おチビちゃん」

俺たちを軽く一瞥した後、フェイト達はこの場を去ろうとした。
だが、それをこの場で引き止めようとする人物が、1人だけいた。

「待って!」
「……出来るなら、私たちの前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない」

フェイトの表情は見ることが出来ないが……
言葉の端々に、フェイトなりの優しさが感じ取れたような気がした。
恐らく、さっきの戦いも手加減をしているんだろう。

「名前。あなたの名前は!?」
「……フェイト・テスタロッサ」
「私は……」

フェイトは、なのはの名前を聞く前に、飛び去って言った。
自分の名前を聞いてくれなかった事への悲しみか、それ以外にも思うことがあるのか。
なのはは、瞳に悲しげな色を滲ませて、それでもただ立ち尽くすことしか出来ないんだろう。

「……やれやれ、予想以上にやる事が多そうだ」

フェイト達が飛び去った方向を見ながら、俺は再度ため息を零した。
観測者……これもあんたの予想の範疇なのか?
だとすれば、大した意地の悪い人間だよ、あんたは。

























旅行から帰宅して来てすぐに、俺は自室に荷物を放り込むと隣の部屋へと足を運んだ。
まぁ、出てきてくれるかどうかってのは、かなり厳しいところではあるんだが……

「フェイトー、アルフー。お隣さんが突撃しに来たぞー」

インターホンを押して、俺が来た事は中でわかっているだろう。
出掛ける前に気付いたんだが、俺の部屋にも、外からの来客がわかるようにカメラが内蔵されてたらしい。
つまり、隣であるフェイト達の家にも、同じ物があるって事だ。

「んー……いないって事はないと思うんだが……」
『I think that it is on the inside』
「お前が言うんだから、居留守か使ってるって事か」

旅館での1件以来、ピアス・レクオスにはフェイト達の魔力反応が記録された。
おかげで、ちょっと反則気味だがフェイト達の行動は俺には筒抜け状態な訳だ。
これをなのは達に教えると、どういう行動を起こすかわからんから秘密にしてあるんだけどな。

「……仕方ない、折角持ってきた物もあるんだが」

ワザと呟くようにしながら、俺は用意してあった物を背後から取り出した。
それは、人間だけなら特に見向きもしないような、俺が勝手に思いついた対アルフ用アイテム!

「特選、生仕立てビーフジャーキー、無駄になっちまったから近所の野良犬にでもやるか」

インターホンに向かってそう告げてやると、中からバタバタと慌しい音が聞こえてきた。
そう間をおかずに、今まで開かれなかった扉が、壊れるんじゃないかって勢いで開いた。

「ぐぁっ!」

扉の前に立っていた、俺を盛大に巻き込んで。
マジで顔面強打ってのは、しゃれにならないくらい痛いんだが……

「あ、ゴメンゴメン。大丈夫かぃ、ラル?」
「俺が微妙に頑丈だから良いものの、他の来客でも同じ反応してんのか、お前」

頭に冷や汗を乗せたアルフに、そう恨みを込めていってやると、乾いた笑いを零しながらもアルフは誤魔化すように家の中に招待してくれた。
……中に入る事が目的の1つだから、とりあえず追求は後回しにしてやろう。
ビーフジャーキーに目が言ったまんまのアルフに、それを渡してやりながら俺は部屋の奥へと進んだ。




















      〜 あとがき 〜


最後にラルが何をしに行ったのか。
それは次あたりの話で出せたらなぁ。
まぁ、なるようになる感じで進むんですけどね。

伏線を意図して張ったとしても、自然と消滅している伏線キラー。
いや、物忘れが激しいだけなんだけど。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/12/10
公 開 2009/01/22





[ B A C K ]