先日のあの一件以来、なのはは目に見えて元気がない状態だった。
雰囲気からして話しかけづらく、勇気を出して話しかけても上の空。
そんななのはを良しとしない人物が、聖祥学園には存在していた。

「いい加減にしなさいよ!」

手加減なしで叩いたのだろう、凄まじい音と共にアリサの怒声がクラスに響いた。
しかしなのはは、心ここにあらずといった様子で、アリサの事を見上げるだけに終わる。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『医神が動き出す時、なの?』






















「この間からなに喋っても上の空でぼぉっとしてぇ!」

その反応がまた気に食わなかったんだろう。
アリサは、激昂するかのように声を張り上げた。

「あ……ぁ、ごめんね、アリサちゃん」

それを見たなのはは、さすがに口篭りながらも謝罪した。
だが、その反応はどうやら逆効果となってしまったらしい。

「ごめんじゃない! 私たちと話してるのがそんなに退屈なら1人でいくらでもぼぉっとしてなさいよ!!」

我慢の限界だとばかりに、アリサは捲くし立てる。
それを直接浴びたなのはは、さらに表情に影を落としてしまった。

「いくよ、すずか」
「あ、ちょっとアリサちゃん……なのはちゃん……」

これ以上はなのはの顔を見ていたくないのだろうか。
アリサはすずかにそう言うと、教室から出て行ってしまった。
それを止めようとして、一度すずかはなのはの方へと向き直る。

「いいよ、今のはなのはが悪かったから……」
「そんな事はないと思うけど……とりあえず、アリサちゃんが言いすぎだよ。少し、お話してくるね」

暗い表情をしたままのなのはを慰めるかのように一声かけて、すずかはアリサを追って教室を出て行った。
教室に取り残されたなのはは、俯きながらも誰に聞こえる事のない声で呟いた。

「ごめんね……」

その声には、ただただ悲しみの感情しか読み取る事ができない。






























ラルの隣室、フェイト達が活動拠点にしている部屋。
そこの広い居間で、アルフは食事に勤しんでいた。

「こっちの異世界の食事も、なかなか悪くないよねぇ……」

ただし、食べている物はどう見てもドックフードやそれに類する物にしか見えない。
やはり、人間形態を取れるとしても味覚は素体に影響されるんだろうか……?

「さて、ウチのお姫様はっと……」

缶詰を食べつくし、ゴミ箱へと放り投げると、アルフはソファーから立ち上がった。
さらに、机においてあった箱「犬元気」を抱えるとフェイトの部屋へと向かった。

「また食べてない。ダメだよ、食べなきゃ……」

部屋では、フェイトがバリアジャケットを身に纏ったままベットに横になっていた。
傍に置かれた食事には手をつけられた様子もなく、アルフはそれをみて顔を苦くした。
ベットの脇に腰掛けると、アルフは横になったままのフェイトの頭を撫でた。

「少しだけど食べたよ、大丈夫……」

ゆっくりと身体を起こすフェイト。
その背中には、癒えきっていない傷が、少なくない数存在していた。
アルフが心配そうな表情をするが、フェイトは傷ついている事を忘れているかのように見える。

「そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置特定は済んでるし、あんまり母さんを待たせたくないし……」

フェイトはそう言うが、アルフはあまり乗り気には見えない。

「そりゃぁ、まぁフェイトはあたしのご主人様で、あたしはフェイトの使い魔だから、行こうと言われりゃ行くけどさ……」
「それ、食べ終わってからでいいから」

フェイトが言ったのは、アルフの隣においてある「犬元気」の事だ。
それにすぐに気付いたアルフは、慌てて片付けて見せた。

「そう言うことじゃないよ。私はフェイトが心配なの。広域探査の魔法はかなりの体力使うのにフェイトってばろくに休まないし食べないしその傷だって軽くはないんだよ。」

アルフは、純粋にフェイトの事を心配して言っているんだろう。
しかし、一方のフェイトはアルフに笑いかけて言った。

「平気だよ、私強いから」
「フェイト……」

バリアジャケットを完全装備状態にするフェイトを見て、アルフは呟いた。

「さぁ、行こう。母さんが待ってるんだ」

そして、2人は部屋から出ようとした。
……だが、この2人は忘れていたのかもしれない。
世の中には、意図していないにも関わらず、人の行動に影響を与えてしまう人間がいる事を。

「こんの……アホの子がっ!」






























インターホンを押しても反応は無いわ、ドアを強めにノックしても反応がないわ。

「おーい。フェイト、アルフー?」

声もかけても反応が無い。
本来ならやらんのだが、扉を押してみたらなんでかしらんが鍵がかかっていないわで。
俺は容赦なく不法侵入を行っていた。

「っていうか、鍵もかけないでなにしてんだあいつら」

多少は片付けたツモリなんだろうが、居間に残っているどうみてもドックフードらしき痕跡を見て、俺は呆れた表情が出てきた。
そのまま放置でも良かったんだが、なんでか片付けをしてしまった俺は、その時に奥からする声に気付いた。

「――――私はフェイトが心配なの。広域探査の魔法はかなりの体力使うのにフェイトってばろくに休まないし食べないしその傷だって軽くはないんだよ」

どうやら、フェイト達は奥の部屋にいるらしい。
声のした方向へ向かうと、フェイトがちょうどバリアジャケットを完全装備状態に纏う所だった。
そして、俺は見てしまった。
フェイトの背中にある、痛々しい傷跡に。

「さぁ、行こう。母さんが待ってるんだ」

痛みを感じた風にも見えないフェイトがそう言った時、俺は我慢の限界を向かえた。
すぐ近くにいるのに気付きもしない2人に無遠慮に近づくと、フェイトの頭を叩いた。

「こんの……アホの子がっ!」

突然の衝撃に、驚いた表情をしっかりと見せるフェイトとアルフ。
普段あまり表情を見せないフェイトだからこそ、少しだけ珍しい物を見たと思いつつ、俺は怒りの表情そのままにフェイトを睨んだ。

「ら、ラル……どうしてここにいるんだぃ?」
「インターホンも鳴らした、ドアもノックした、さらに言うと声もかけた!」

アルフの疑問を、フェイトから視線を外さずに答えつつも、俺はフェイトの手を掴んで、強引にベットへと座らせた。
俺の突然の行動に、声を漏らしたフェイトと、それを聞いて俺に瞬間的に攻撃を加えようとするアルフ。

「動くな」

アルフにそう睨みを聞かせて言ってやると、アルフの動きが止まった。
これで止まらなかったら、強引にバインドでギチギチに固めてやる所だったんだが。
フェイトは、何が起こったのか理解しきれていないようだが、そんな事俺は知らん。

「痛っ!」

普通なら防御性に優れたバリアジャケットを着ているにも関わらず、俺が背中に手を触れただけでフェイトが痛みを訴えた。
外部からの影響をほとんど無くすはずなのに、痛がるってのはそれだけ傷の影響が出ているって事だ。

「ピアス・レクオス」
『All right. Stand by Ready Set up』

羽織っていたマントを取り外させると、俺はフェイトを中心として、魔法陣を展開させた。
傷の状態が詳しくわかんねぇ……まずは『診察』からだな。

「ら、ラル……一体何を!?」

俺の白銀の魔法陣を見て、再びアルフが動こうとする。
だが、俺はそれに構う事なく、フェイトの状態を魔法で解析していく。

「……打撲に裂傷、さらには鞭のような物で叩いた後。雑な治療のせいで細胞の寿命が狂ってるとこまであるじゃねーか」

俺の呟くような声に、2人が息を飲むのが解った。
『診察』を終えた俺は、新たに違う形の魔法陣を形成していく。

「お前ら、後でこの傷の事、聞かせてもらうからな」

過去になのはに使ったような簡易的な治療魔法じゃない。

『Healing Mode Complete Start』

デバイスのモード移行を完全にして行う、これは一種の『手術』だ。

「術式形成、体表面は後回しでいい、内部の細胞蘇生から始めるぞ」
『All right』

恐らく不慣れな治癒魔法や薬で治療しようとしたんだろう。
特に治療魔法で行われたであろう怪我の影響が酷い。
中途半端な治癒で傷口の細胞同士が結合しようとしたため、歪になってしまっている部分が見られる。

「見せてやれ、ピアス・レクオス。その真価を」
『Of course』

傷の最深部から、少しずつ細胞を本来の異常のない状態へと移行していく。

「……っ」
「だ、大丈夫かい!フェイト!」
「しっかりと、フェイトの手を握っててやれ」

これをやると、簡単に言ってしまえば怪我が再発するようなもんだ。
痛みがあるかもしれないが、我慢してもらおう。
このまま成長して、将来この傷がどういう影響を及ぼすかわからない。

『It completes it up to 78%』
「次は皮膚だ、魔力は気にするな。特に丁寧にやってやれ」

折角綺麗な肌なんだ、傷ついたままだと勿体無いだろう?
ピアス・レクオスに命じると、俺の望みをそのままに顕現しようとして、魔力消費が膨れ上がる。

『Yes, Sir』

フェイトの白い肌に刻まれていた、痛々しい後が跡形もなく消えていく。
目を見開いて、その様子を眺めているアルフ。
背中に傷が多くあったから、フェイトにはこの過程が一切見えていないだろう。

「術式完了」
『All process work completion. Mode Release』

最後の傷が、影も形も見えなくなった後、魔法陣と共にピアス・レクオスは待機状態へと戻った。
放熱機構のように、余剰魔力が蒸気の如く排出される。
さすがに、ヒーリングモードを全開起動すると、魔力の消費が半端じゃない。
俺は遠慮無く、軽い疲れを感じながらも床へと腰を下ろした。

「痛みが……無くなった?」

フェイトは呆然としながらも、痛みがあったはずの場所を触りながら呟いた。
気にしないようにはしていたが、常に痛みと戦っていたんだろう。
俺から言わせれば、それだけの傷を負いながら高速機動戦をするなんて馬鹿げてるとしか言えない。

「ラル……今のって一体なんだぃ?」
「その前に、用件としては俺が先に聞かせてもらう……フェイトのあの傷はなんだ?」

目の前で起こったことが信じられないのか、アルフは呆然としながらも俺に問いかけてこようとした。
だが、それを手で遮ってフェイトの傷について聞かせてもらうと俺は問いかける。

「主人を守るのが使い魔としての役目のはずだ。少なくともなのはたちと戦った時は傷を負うような事はなかった」

ならば何故あんな傷をフェイトが持っていたのか。
その答え次第では、俺の堪忍袋は確実に破裂するだろう。

「聞かせろ、あの傷をつけたのは……誰だ」
「そ、それは……」
「アルフ!」

アルフが何かを言おうとして、止めようとしたフェイト。
だが、俺はフェイトを手で牽制して、アルフに先を続けるように促す。
そして、ゆっくりとアルフの口から語られる顛末を聞いて、俺の堪忍袋は完全に破裂寸前だ。

「……なるほど、な」

一度、面を割って話し合う必要性があるかもしれないな。
なぁ、プレシア・テスタロッサさんよ?




















      〜 あとがき 〜


フェイト好きーとしては、あの背中の傷は放置できません。
たとえ後のアニメで特に影響も無く治ってるように見えたとしても!
そんな訳で、もう強引ぐマイウェイで行ってやろうかなと。
原作? そんなもんミックミクにしてやんよ。

と、行きたい所だけど……どうなる事やら。
まぁ、基本的にハッピーエンド好きな俺のやる事なんで……ねぇ?
でも、どうせならフェイトにはいろんな幸せが来て欲しいと思うわけですよ。
ダメか! たぶんダメって言われてもやるけどなっ!



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2008/12/11
公 開 2009/01/27





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