ラルがいなくなってからの数日。
僕となのはは変わらずにジュエルシードの探索を続けていた。
そしてその日、僕達は発動したジュエルシードの魔力を感知して、走っていた。

「封時結界、展開!!」

海鳴にある公園、その少なくない自然の中の1本の大木。
ジュエルシードがそれに潜り込む様に姿を消すと同時に、僕の張った封時結界が効力を表した。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『黒い小さな男の子、なの?』






















「―――――!!!」

まるで雄叫びをあげるように、大木は変貌を遂げ、その凶暴性をあらわにした。
そして、目の前にいるなのはへと攻撃を加えるかに見えたその時。

「――――!?」

金色の魔力弾が変貌した大木へと目掛けて降り注いできた。
素早くそれを察知したのか、飛んでくるその方向へとバリアを張り、魔力弾を防いだ。

「うほぅ! 生意気にバリアまで張るのかい」
「今までのより強いね……それに、あの子たちもいる」

遠くから魔力弾を放った人物。
フェイトは、放たれた魔法が防がれたのを見て、気持ちを引き締めなおすかのように言った。
なのはがフェイトの存在に気付いた時、大木はその根を武器としてなのはたちに襲い掛かる。

「ユーノ君逃げて!」
『Flier Fin』

攻撃に気付いたなのはがユーノへと声をかけ、なのは自身はその身を空へと浮かび上がらせる。
先ほどまでなのはがいた場所に、太い根がその力を叩き付けた。

「アークセイバー。行くよ、バルディッシュ」
『Arc Saver』

フェイトの放った鎌状の魔力が、暴れている根を切り裂き大木へと迫る。
当たるかと思われたその一撃も、再びバリアによって阻止されていた。
だが、その一瞬の隙を逃さず、なのははレイジングハートを構える。

『Shooting Mode』

使い手の意思を汲み取ったデバイスが、砲撃用の形へと姿を作り変える。

「いくよ、レイジングハート!!」
『All Right』

そして、なのはの力強い声に答えるかのように、レイジングハートの先端に桜色の魔力光が輝き始める。
その力が最大になった時、なのはは魔力と言う力を顕現した。

「撃ち抜いて!ディバイン!!」
『Buster』

桜色の奔流が、大木へ突き刺さろうと迫る。
しかし、大木もまたバリアを展開し攻撃を防ぐために耐える。

「貫け、轟雷」

それをフェイトがただ見守るだけのはずもなく。
左手で印を切ると同時に空中に生まれる金色の魔法陣。
その魔法陣へバルディッシュを叩きつけるように、フェイトも魔力を開放した。

『Thunder smasher』

別方向から襲い掛かる桜色と金色の魔力の奔流。
バリアを2個展開し、懸命に耐えようとしていた大木も、限界を向かえその魔力に撃ち抜かれた。

『Sealing Mode. Set up』
『Sealing Form. Set up』

大木の後に宙へと残されたジュエルシード。
そしてそこに浮かぶZのナンバー。
すぐさまデバイスのモード変更が行われ、いつかと同じように同時に2人の封印が行われた。

「ジュエルシード、シリアルZ!」
「封印」

2人の魔力がジュエルシードへと当たり拮抗した時、眩い閃光を放った。
あまりの光量にその場にいた全員が目を庇う。
そして、光が治まった後には、ジュエルシードは2人の間に留まっていた。

「ジュエルシードには、衝撃を与えてはいけないみたいだ」

ジュエルシードを挟むように相対する二人。
そしてフェイトはなのはを見据えながらそう言った。

「うん、夕べみたいな事になったら私のレイジングハートも、フェイトちゃんのバルディッシュもかわいそうだもんね……」

なのはもまた、フェイトを見据えながら言葉を返す。
2人の言葉には、共に譲れない意思が明確に現れていた。

「だけど、譲れないから……」
『Devise Mode』
「私は……フェイトちゃんとお話したいだけなんだけど……」
『Devise Mode』

通常状態に戻ったデバイスを手に、なのははフェイトへと問いかけた。

「私が勝ったらただの甘ったれた子じゃないってこと分かってもらえたら……お話聞いてくれる?」

なのはの問いにフェイトは少し顔をしかめただけだった。
2人が空中で向き合い、一気に距離を詰め、デバイスを振りかぶり、殴りかかる。
その攻撃が当たる瞬間2人の間には光と共に青い魔法陣が現れた。
そして2人のぶつかり合うはずだった攻撃は突然現れた少年によって受け止められた。

「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる。」

強い力の篭った声を持つ少年に、2人は目を丸くしてその存在を見つめる。
そんな何者だと言う視線を平然と受け止めた少年は、言葉を続けた。

「時空管理局、執務官。クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

木の上へと避難していたユーノは、クロノと名乗った少年の言葉に反応を見せる。

「時空……管理局……」
「まずは2人とも武器を引くんだ!」

クロノはなのはたちへと指示を出し、その身を空中から降ろそうとする。
そのままいけば、恐らくある程度はクロノの思い通りになったのだろう……
その場にいる全員が気付いてはいなかった。
クロノたちの上空に、白銀の魔法陣が現れている事を。


















― Interlude ―






「艦長! クロノ執務官たちの上空に魔法陣を確認しました!」

現地にいる当事者たちは気付く事ができなかった。
だが、現在も次元空間内で航行を続けているアースラと呼ばれる船の1人はその魔力を検知した。

「なんですって……?」
「何者かが転移してくる模様です!」

今も解析が行われているのだろう。
素早く動く手の先には、様々のウィンドウが開かれ並列で作業を行っているのがわかる。

「解析と、クロノへの通信を急いで!」
「まだ当次元には距離があり、通信はまだ無理です!」
「最大船速よ!」
「了解!」

急に慌しくなった艦内。
それを見届けた艦長席にいる人物は、訝しげな表情を見せながらも、呟くように言った。

「何者なの? それに、あの魔力光……見たことがあるような……」






― interlude Out ―



















地面へと降り立ったなのはたち3人。
足が地に付くと同時に、クロノは2人の武器を離した。

「これ以上戦闘行為を続けるのなら―――――うわっ!」

クロノの台詞は、最後まで続ける事が出来なかった。
なぜなら……発生していた魔法陣から、1人の人間が転移を終えて現れたからだ。
それも……クロノの真上に。

「いやー、参った参った。なんで座標がズレてるんだよ?」
『I don't know』
「確か、なのはやユーノたちの魔力反応を基準に転移したと思ったんだけどなぁ……?」

踏みつけているクロノの事になど気付いてもいないように、ラルはその場でデバイスと会話を続けている。
あまりの事態に、呆然としてしまうなのはとフェイト。

「……ラル……さん?」
「ん? あれ、なのはじゃないか。なんでこんな所にいるんだ?」
『Good Afternoon. Miss Takamachi』
――――それは私が聞きたいの!
声にならないなのはの心の絶叫が響き渡った気がした。

「まぁ、それはいいや……それよりもアルフ、お前それを俺に向けて撃つ気か?」

勝手に会話を終了させたかと思うと、ラルはフェイトより後方、その空中へと視線を向けた。
そこには宙に浮いたアルフが、オレンジ色の魔力弾を発生させいつでも撃てるような状態でいた。
だが、ラルの目にはどういう訳か、呆然としているようにも見える。

「狼形態だと感情とかが分かりにくいが……間違ってないならどうした、呆然として」

どうやら、ラルは自分に向けて魔力弾を発生させているようではないと思ったらしく、首を傾げながら問いかけた。
アルフはアルフで、なんと言っていいか分からない胸中でなんとか一言口に出す事が出来た。

「ラル、足元……」
「足元?」

言われて初めて、ラルは自分が何か柔らかい物の上に立っている事を気づいた。
そして、アルフに言われた足元へと目を向けると、そこにはうつ伏せのままラルに踏まれている黒いバリアジャケット着たクロノがいた。

「……なんだこりゃ?」
「良いから、早くどいてくれないか……?」

すぐによけるという事はせず、ラルはそのまましゃがみこむようにクロノを覗き見る。
下敷きにされていたクロノからは、若干苦しそうな声と共に、言葉が飛んできた。

「あぁ、悪い悪い」

大して悪びれた風も見せず、ラルはクロノから降りるとスタスタと歩いてどこかへ向かってしまった。

「ラルさん?」
「おーい、その木の上にいるユーノ、とりあえず状況見てただろうから説明に降りてきてくれ」

なのはの疑問に答えるよりも早く、ラルは木の上の方へと向かって声をかけた。
声に答えるかのように、ユーノが降りてきて、差し出されたラルの手から肩へと昇る。

「えーっと……僕もなんて説明していいか……」
「とりあえず、ありのままを見たままに……ってところかな?」

ユーノから説明を受けているラルの傍にいつの間にかなのはが来ていて一緒に説明をしている。
それに頷いたり、疑問を顔に表した表情をしながらもラルは話を聞いていく。
まるで忘れ去られているような状態のフェイトたちは、あまりの唐突な行動に茫然自失とそれを見ているだけだった。

「……はっ!」

だがクロノはすぐに己を取り戻すと、今だ説明を受けているラルたちの方へと足早に向かう。
そして、後ろを向いたままのラルの肩……ユーノが乗っていない方へと手を伸ばすと、強引にこちらを向かせようとした。

「君!」
「やかましい、もうちょい後で相手してやるから黙ってろ」

しかし、返って来たのはコチラを素直に向くような言葉ではなく。
オマケと言わんばかりにクロノの身体は唐突な浮遊感と共に、気付けば地面へと転がっていた。

「ふむ、大体の事情は把握できたって所か……」

何が起こったのか理解できなかったクロノは、目を白黒とさせながらも再び立ち上がる。
話を聞こうともしないラルへ怒りをあらわにしたい気持ちを抑えて、冷静な言葉を口にしようとしたが。

「いい加減に僕の話を……!」
「武器を収めろというのなら、まずは自分からやってみせたらどうだ、管理局所属、クロノ執務官殿?
 まったく、管理局は相変わらずか……」

先に言われたその言葉に、クロノは言葉を飲み込まざるおえなくなった。
そんな中、今だ話の輪に加わっていなかったフェイトが、ジュエルシードへ向けて行動を開始する。

「フェイト!!」

ジュエルシードへと手が届く直前、フェイトは青い魔法弾に撃たれ、そのまま落ちていった。




















      〜 あとがき 〜


クロノをラルに踏ませたいが為の一時的に主人公のメイン外れでした。
イヤだってさ、クロノは格好つけるより適度にいじられる方が面白いかなぁと。
黒くてちっちゃくてショタっぽいのに優しくする俺じゃありません。

さてさて、なにやら文中にラルについて知ってるような雰囲気を見せるリンディ艦長。
はたしてどういう知り合いなのかは……また後日。
ルートが何本か頭の中にあるんですが、どういうルートにしようかなーって感じですね。
やっぱ、とことん遊んでやってみようかなぁ。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/05
公 開 2009/02/01





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