ラルとクロノが話をしている頃、なのはとユーノもまた、アースラの食堂らしき場所で話をしていた。
こちらは、ラルたちとは違い、世間話と言った雰囲気ではあるが……

「今日も空振りだったね……」
「うん、もしかしたら結構長くかかるかもね……なのは、ごめんね」

突然謝られたことに対して、なのははきょとんとして首をかしげる。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『あの子の下へ、なの!』






















「寂しくない?」

謝った理由を告げるかのように、ユーノはなのはに向けてそう問いかける。
しかし、なのははそれを聞き笑ってみせる。

「別に、ちっとも寂しくないよ。ユーノ君とラルさんもいてくれるし」

クッキーを食べながら、笑顔で言うなのはだったが、それもすぐに悲しみが混ざった顔へと変わる。
思い出すかのような表情を見せながら、なのはは言葉を続ける。

「お父さんの怪我や、喫茶店がまだ始めたばかりとかで忙しくて、今まで1人でいる事が多かったんだ」

最初の笑顔は影を潜め、俯きがちななのはが言った言葉を聞いてユーノはかける声を見失った。

「だから、結構慣れてるの……」
「そっか……」

結局、ユーノが言えたのは気の聞いた一言ではなく、ただ同意を示すだけの言葉だった。
そんな暗い話を変えるかのように、なのはは顔を上げた。

「そういえば、ユーノ君の家族の事とか、あんま知らないね」

突然表情を変えたなのはが何を言うのかと思っていたユーノは、その質問に数度の瞬きをする。
そして、意図を理解したのか、苦笑しながらも答えた。

「あぁ、僕は、もともと1人だったから」
「え?そうなの?」

ユーノの答えに、なのはが少し驚いたように聞き返す。

「両親はいなかったんだけど、部族のみんなに育ててもらったから……だから、スクライアの部族みんなが僕の家族」
「そっか……」

それを聞いたなのはが少し顔を安堵させる。
1人と聞いたときは、ユーノも自分と同じような寂しい想いをして来たのではないかと思った。
だがユーノ自身は、スクライアという部族が自分の家族と笑っている。
きっと仲のいい部族なんだろうと、ユーノの笑顔から察する事が出来た。

「ユーノ君、いろいろ片付けたら……ラルさんも一緒にもっとたくさん、いろんなお話しようね」
「うん、いろいろ片付いたらね」

2人が視線を合わせ、少しだけぎこちない笑顔で小さな約束を交わした。
そんな穏やかな時間も続く事は無く、室内に鳴り響く警戒音が鳴り響いた。

「ユーノ君!」
「うん! ブリッジに行こう!」

瞬時に表情を切り替えると、2人は艦橋へと向かって走り出した。
そして、別々に行動していた少年少女は艦橋で合流し、物語は再び動き出す。
























「な、なんて事をしてるの、あの子たち!?」

エイミィが驚きの声を上げるのも仕方が無いだろう。
それくらいに特大な金色の魔法陣が、海鳴の海上では形成されていた。
その中心には、デバイスを構えたフェイトが目を瞑りながらも何かを唱えているように見える。

「なんとも呆れた無茶をする子だわ……」

暴走を始めたジュエルシードは、海をその身の武器として竜巻を形成する。
現れた6つの竜巻を、魔法を駆使しながら封印しようとするフェイトが、アースラでは映し出されていた。

「無謀ですね、間違いなく自滅します。あれは、個人が出せる魔力の限界を超えている」

ハラハラしながらも、状況を見守っているリンディ艦長と、冷静な意見を述べるクロノ執務官。
多少ながらクロノ執務官に意見に同意しながらも、俺は黙って画面を見ていた。

「フェイトちゃん! あの、私急いで現場に!!」

友達になりたいと願った子が危険な目にあっているのを見過ごせないんだろう。
なのはが艦長席へと駆け寄りそう声を荒げる。

「その必要はないよ、放っておけばあの子は自滅する」

その声も、クロノ執務官が放った声によって遮られる。
俺は、視線をディスプレイからなのはたちへの方へと移す。

「仮に自滅しなくても、力を使い果たした所で叩けばいい」

冷たく言い放たれた言葉に、なのはは完全に動きを止めた。
何かを言いたげななのはは、その言葉に抵抗を見せようとしたが、クロノ執務官は聞く耳を持ってはくれないらしい。

「今の内に捕獲の準備を」
「了解」

なのはとの会話は終わったとばかりに、クロノ執務官はオペレーターに命じる。
何の疑問も無くクロノ執務官の命令に応じたオペレーターの言葉に、なのはは愕然とした表情を見せた。

「私たちは、常に最善の選択をしなくてはいけないわ」

フェイトは、少なからず疲弊した様子を見せ始めている。
治療を施しておいて良かったとつくづく思う。
そうでなければ、もっと早くにジュエルシードによって堕とされていただろう。

「残酷に見えるかもしれないけど、これが現実……」

なのはは、懸命にリンディ艦長を説得しようと試みるが返答は無く、腕を組んで押し黙られている。
その光景を見ながら、俺はなのはとユーノに向かって念話を送る。

【なのは、ユーノ。彼女を助けたいか?】
【もちろんなの!】
【僕も、あのままじゃ彼女が可哀想だと思う】

二の句も無く返って来た反応に、俺は笑い出しそうになるのを堪える。
もし、少しでも迷いの意思を見せれば2人とも大人しく留守番しててもらおうかと思ったが……
即答した、この2人の気持ちを信じてやるとしますか。

【なら話は早い。ユーノ、あの場所に向けて転移できるようにしとけ】
【え……でも、アースラの人たちがそれをさせてくれるかは……】

俺の言葉が予想外だったのか、ユーノはそう言って来る。
それに俺は笑って返してやる。

【お前らは、俺の協力者であってアースラの協力者じゃないんだぞ?】

屁理屈が混ざるが、なのはが別に海鳴に戻るのは帰るのと変わらないんだから問題が無い。
そのついでに、フェイトたちのいる場所にひょっこり顔を出したとして、誰が責められる?

【それじゃあ、ラルさんがアースラの人に怒られるんじゃ……】

こんな時くらい、自分のやりたいようにやればいいものを。
そう思わせるような気遣いをなのははして来た。
ユーノもまた、同じような想いを抱いた表情をしている。
まったく……いい子だねぇ、この子たちは。

【別に怒られるような事は、俺の記憶にはないな】

肩を竦めるようなイメージを持たせる声を返しながら、俺は早く行けとばかりに手を振ってみせる。

【でも……私があそこに言ってあの事お話したいのはユーノ君とラルさんには……】
【関係ないかもしれない。でも、僕はなのはが困っているなら力になってあげたい】

なのはに向かって、澄んだ瞳を見せながらユーノは確固たる意思を示す。
少しばかり、俺は驚きの表情を外に出してしまったかもしれない。
それだけ、ユーノの声には力を感じられた。

【なのはが、僕にそうしてくれたみたいに】
【と、言う健気なこのイタチもどきの意思に、俺はちょっと手伝いをしてやってるだけだ】
【イタチじゃない! フェレットだ!!】

俺のからかいに、わざわざリアクションを返してくるユーノ。
聞き流せばいい物を、そうやって反応するから俺も面白くてからかうんだぞ?

【まったくラルは……とりあえず、いくよっ!】

ユーノの言葉と共に、艦橋の後ろの方にある転送装置に光が灯る。
それと同時に、ユーノとなのはが転送装置へと駆け出した。

【後で俺も行く。今は向こうに行くことだけを考えろ】
「君はっ!」
「あの子の結界内に……転送!」

すぐに気付いたクロノ執務官が静止するよりも早く、ユーノは印を切り呪文を唱える。
そして2人の姿はアースラから消えた。

「どういうつもりだ! ラインハルト!!」

2人が消えた後、クロノ執務官は怒りを露わに俺へと詰め寄ってくる。
リンディ艦長もまた、俺へと責めるような視線を向けていた。
俺が、ユーノも向こうへ送ったのは少なからず理由がある。

「たかが執務官風情が口を挟む権利があるのか? 俺はお前じゃなくリンディ・ハオラウンに用がある」

それは、今の俺をあの2人には見せたくなかったからだ。
先ほどまでとは違い、豹変したかのように見える俺の態度に、目を丸くするクロノ執務官。
リンディ艦長は、俺の表情を見た時、責める態度から一転青ざめた表情を見せた。

「放っておけば自滅する? 常に最善の行動を取らなくてはならない?」

この場にいる最も権力を持つであろう2人の台詞を思い出すかのように口に出す。
そして、俺は嘲笑を隠す事無く舞台役者のようなワザとらしい態度を取った。

「果たして、どの口がそういうのやら……
 あぁ、そうだったな……時空管理局は犯罪者には冷徹で救いを一切与えずに接し、
 それを救いたいという小さき願いを握り潰すような組織だったか」

手を額にそえ、やれやれといった動きを見せながら、俺は視線を外す事無く続ける。

「そんな事は……」

クロノ執務官が何かを言おうとしたが、俺はそれを聞くこと無く足元へ魔法陣を展開させた。

「ない……とは言い切れないだろう?
 現に今この場でそういう事態が起きているにも関わらず静観しかしていないじゃないか?」

いつでも現地へと移動できるようにしておきながら、俺は管理局へと向けた言葉を続ける。

「まったく、虫唾が走るようなくだらない偽善だな……
 それで法の管理者を謳い、権利を持ってしまってるだけに始末に負えない。
 貴様らの偽善を俺たちに押し付けるな!
 管理局が謳う法においての正義が、全ての世界に通用しないくらいは理解してみせろ」

ディスプレイ上では、なのはがバリアジャケットを展開し、結界内へと入っていくのが見える。
俺も、適当に切り上げてあっちの手伝いに行ってやらないとな。

「俺も、あちらへ行く。死にそうな人間に救いを与えないような奴らとは、一時も一緒にいたくないからな」

軽蔑の意思を隠す事無く、視線に乗せてアースラクルーへと送る。
何人かは、俺の視線に耐えかねてあからさまな動きをとった。

「事が済んだら、一応こっちに戻って来てやる。その時に、お前たちがどういう態度を取るのか、それ次第で俺も相応の対応を取らせてもらおう」
『Transporter』

全てを吐き捨てるように言った俺は、アースラクルーの反応を待つ事なく背を向け、なのはたちの下へと飛んだ。
さて、俺の行動に後々どういった態度を取ってくれるのかね、管理局は。



























「くそ、どういうつもりなんだ! あいつは!!」

ラルが転移した後、クロノは怒りを隠す事無く声にして告げる。
そんなクロノの様子を、困った表情で見つめるエイミィ。

「…………」
「艦長! ラインハルトには後に然るべき処罰を!!」

何故か黙り込んでいるリンディに向かってクロノは咆えた。
立場上、今のラルはフリーの魔導士ではなく、管理局に雇われている身だ。
雇用主の許可無く、独断で行動に移った事は、軍規に叛く行為だと言える。

「ちょっと……まずい事になったわね」

だが、クロノの申請にも関わらず、リンディは青い顔のまま呟くように言った。
訝しげな表情を見せるクロノの事など考えている余裕がないのか、リンディは自身の考えに没頭する。

「彼が本当の意味で管理局と決別したら、私たちにはどうする事もできないでしょうね……」

ラルの事を少なからず知るのが、リンディだけというのがアースラクルーにとっての不運だったのだろう。
少しでも彼の人となりを、考えを知っていれば別の行動を取る事が出来たかもしれない。

「私たちは……本当に最善を選択できていたのかしら……?」

誰に問いかけるでもなく発せられた一言は、理解しきれていないアースラクルーにとっては首を傾げる事しかできなかった。
その問いの答えを持つ存在は、アースラの中には存在していない。




















      〜 あとがき 〜


あははは、なのは出てねー!!
……まぁ、今回は閑話みたいな感じなんで仕方が無い。
どうせ次の話では特大の砲撃ぶっ放すんだからオッケーオッケー。

とりあえず、主人公がなんか裏がありまくるような存在になってる?
おかしぃなぁ、もっとお馬鹿キャラで原作かき回すようにしてやろうかと思ったはずなのに。
キャラが勝手に動き出すのは、俺の仕様だからいいとしますかー
はてさて、プレシアをどうやって扱ったものか、それが問題だ。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/07
公 開 2009/02/07
加筆修正 2009/02/12





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