プレシアの居場所を補足し、これから出向いてやろうかと考えている時。
俺たちの前に、リンディ艦長の映像が映し出された。

《これより、全員を回収します》

あぁ、そういえばリンディ艦長たちがどういった判断をするのか。
それをまだ聞いていなかったな。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『怒れる医神、なの』






















「後、ラインハルト君にはこれとは別にお話があります」

何を言ってくれるのかはわからないが、リンディ艦長は何かを決めたかのような表情を俺へと向けてきた。
その視線を真正面から受けたが、俺は別に身体を強張らせることも無く、逆に肩を竦めてそれに答えた。

「いいでしょう、俺から言った事でもありますし、そちらへ窺いましょう」

足元に展開される大型転移魔法陣の光に包まれ、俺たちはアースラへと戻る事になった。
戻ってすぐに、俺たちは会議室らしき場所へと連れてこられた。
クロノ執務官も俺たちと一緒に来たが、今は壁に寄りかかってこっちを傍観している。

「さて、貴方達の勝手な行動が、貴方達のみならず周囲の人たちも危険に巻き込んだかもしれないというのはわかりますか?」

厳しい表情でリンディ艦長が言った言葉に、なのはとユーノは意気消沈してしまった。

「おっしゃる通りです」

頭を垂れて、謝罪の意味を見せようとするユーノを俺は手で制した。
疑問に満ちた表情を向けてくる2人を見ることなく、俺は1歩だけ前に出るとリンディ艦長と正面から向き直った。

「なのはたちはあくまで俺の協力者であり、それに対して貴方達がどうこう言えるはずは無いと思いますが?」
「ですが、危険な行為に出た事を咎めるのは大人として当然だと思いますが?」

俺の切り替えしを予想していたのか、即答するかのように答えてくる。
しかし俺の方も、それを予想していないはずがない。

「なら、どうしてその場で止めなかった? 戦闘区域へ行ったなのはたちを強制転移で連れ戻すくらいは可能だったはずでは?」

そう、俺たちをまとめて転移させる事が可能なこのアースラにおいて、あの場で俺たちが好き勝手できた方がおかしい。
そうなる前に、強制転移でもなんでもして連れ戻してしまえば良かった。
連れ戻して拘束でもすれば、クロノ執務官の言うとおりフェイトは自滅以外に道はなくなっていただろう。

「それは……」
「あぁ、常に最善の行動を取るんでしたね。つまり俺たちを強制転移させなかったのがあの時の最善と言うわけですか」

連れ戻されたとしても、俺やなのはが大人しく掴まっているわけが無い。
どうにかして、再び現場に戻っただろう。
だが、そもそもアースラクルーはそれをしなかった。

「それは違います!」
「何が違う! 俺たちを止めなかったのも、連れ戻さなかったのも、そうする事が『アースラ』にとって最善だったからじゃないのか!!」

俺が戦闘区域へ行く前になぜあんな事を言ったのか。
結局の所、アースラ……ひいては管理局という組織全体が保守的な思考しか持っていなかったからだ。

「確かに自滅を待つのも手だろう。それは認めてやるよ」

ただし、それは時と場合によるという言葉が付く。
少なからず知らない仲じゃない相手で、さらになのはがそう言う場面をみたら駆けつけようと考えるのは火を見るより明らかだった。

「だが、言ったよな? 俺は死にそうになってる人間に救いも与えないような組織とはいたくもないと」

視線をきつく、少しばかり殺気を込めて睨みつけてやるとリンディ艦長が僅かに引いた。
それを見たクロノ執務官がコチラへ向かってこようとしたが、それすらも目だけで止める。

「結局管理局が出てきたのは最後だけ、ジュエルシードにいたってはクロノ執務官のデバイスの中だ」

あの状態で3つのジュエルシードを確保した手腕は褒める。

「いい所取りって言葉を聞いたことがあるか? まさに今のアースラにふさわしい言葉じゃないか」

ジュエルシードの暴走を止めたのはなのはとフェイトだ。
確かにジュエルシードに関しては管理局が受け持つと言っていた。
だが、何もしていない管理局が今回のジュエルシードを保持するのはおかしいだろう。

「で、その漁夫の利をまんまと取った管理局が、これ以上俺たちに何を言いたいんだ?」

フェイトの1件と今回の1件。
この2つだけでも十分過ぎるほど、俺は管理局と言う存在に腹が立っている。

「あぁ、そういえばアースラを出る前の答えを聞いてなかったな」

自分で言い出した事だ、残って協力するかここを去るかはそれを聞いてから決めてもいいだろう。
まぁ元より管理局に長く関わるつもりは無かったから、答え次第で去ってもいいだろうさ。

「……その件について話す前に、現状の説明をしていいかしら?」
「それがちゃんと答えに繋がるんだったらどうぞ?」

そして、リンディ艦長が言ったのは、この事件の大元についての考察だった。
クロノ執務官が壁から背を離し、会議室のテーブルに寄るとモニターが起動し、ある人物が映し出された。
プレシア・テスタロッサ、事件の始まりを司る根源。
そして、クロノ執務官たちはすでに俺が無限書庫で調べたことをつらつらと言っていた。

「エイミィ、プレシア女史に関して、もう少し詳しい情報を出せる?」
「はいはい、すぐに探してきます」

プレシアについての情報が少ないと感じたのか、リンディ艦長がエイミィへとそう支持を出した。
それを受けて、エイミィはすぐに検索をかけに行こうとしたが、それを俺が止めた。

「その必要はない」
「え……?」

驚いた表情を見せるアースラクルーに構う事無く、俺は机のモニターへの入力端子をピアス・レクオスに接続した。

「検索結果と無限書庫で作ったファイルを表示してくれ」
『All Right』

表示された資料に、目を丸くしながらもリンディ艦長たちは目を通し続けた。
俺はといえば腕を組みながら目を瞑り、資料を読み終えた後、どういった回答を渡してくるのかを静かに待つ事にした。






















Interlude

時の庭園と呼ばれる高次元内にあるプレシアの居城。
その一角の広間とも呼べる空間の真ん中に、ボロボロになったフェイトが横たわっていた。
だが、それはなのはたちがつけたものではない。
なぜなら、なのはたちとは直接の戦いを行っていなかったからだ。

「フェイト! フェイト!!」

その傷は、フェイトの母であるプレシアが拷問の末につけた傷ばかりであった。
フェイトを優しく抱きしめるアルフは、その瞳に憎悪の炎を点す。
そして、アルフはその怒りの導くまま、行動を起こした。

「足りない……これだけでも次元震は起こせるけど……アルハザードには至らない」

荒廃した森のような部屋、その中心で9つのジュエルシードを見ながらプレシアは呟いた。
呟きの途中でおこった咳には、血が混じりプレシアも苦しそうに身悶える。

「私もあまり長くはない……でも……」

そうプレシアが呟いた時、背後の壁が爆散した。
もうもうと立ち込める土煙の先にプレシアが視線をやると、そこには人間形態のアルフが立っていた。
アルフの存在を見た瞬間、興味をなくしたかのように視線を外すプレシア。

「だああああ!!!」

足音を立てながらも階段を降りて来たアルフは、間合いに入った瞬間プレシアへと肉薄しようとした。
しかし、その攻撃はプレシアの障壁によって弾かれるが、体勢を立て直し再び障壁へとぶつかる。
吹き飛ばされそうになる身体をシールドの奥へと押し込み、アルフはシールドを破壊した。

「あんたは母親で!あの子はあんたの娘だろ!!あんなに頑張ってる子に……あんなに一生懸命な子になんで!あんなひどいことができるんだよ!!!」

プレシアの胸倉を掴みながら怒声をあげるアルフ。
だが、プレシアの目を見た瞬間、アルフの台詞はそれ以上続ける事ができなくなった。
信じていたものを全て失ったかのように見える目。
だけど、その奥に僅かではあるが見え隠れする違和感の感じる罪悪感の光。
その違和感の答えを得る前に、プレシアは魔力弾をアルフの腹へと撃ち込んだ。

「あの子は使い魔の作り方が下手ね……余分な感情が多すぎるわ」

直撃を受けたアルフは、血を流しながらもプレシアへと訴える。

「フェイトは、あんたに笑ってほしくて、優しいあんたに戻ってほしくて……あんなに頑張ったのに!」

そんなアルフの悲痛な訴えをプレシアは鼻で笑った。
話はおしまいと言わんばかりに、プレシアは自分のデバイスを起動しアルフに向ける。

「邪魔よ、消えなさい!!」

デバイスの先に魔力が充填され、放たれる刹那、アルフは最後の抵抗に出た。
アルフの足元に魔法陣が展開されると同時に、爆音とともに土煙が再び舞い上がる。
土煙が晴れるとアルフの居た場所には大穴があいていた。
プレシアはアルフがいた場所に空いた大穴を眺めて無言でその部屋を出ていく。
そして気絶しているフェイトへと話しかける。

「フェイト起きなさい」
「はい……母さん」

朦朧としている意識の中、フェイトは目を覚ました。
視線の先にはジュエルシードを掲げるプレシアが見下ろしている。

「あなたが集めたジュエルシード9つ。これじゃ足りないの。後5つ、できればそれ以上、
急いで手に入れてきて、母さんのために」

プレシアの言葉にフェイトは頷き、身を起こした。
そして、その身にかけられている見覚えのあるマントを見つけた。

「あれ? ……アルフ?」
「あの子は逃げ出したわ。怖いからもういやだって」

自分が手を下したことを欠片も見せず、プレシアはフェイトにまことしやかに言った。
そしてフェイトの傍らに膝を折って座る。

「必要なら、もっといい使い魔を用意するわ。忘れないで、あなたの本当の味方は母さんだけ……」

プレシアは意識に刷り込む様に話しかけた。
そう言われたフェイトの頭の中に、友達になりたいと言ってくれた少女が浮かんできた。

「いいわね?フェイト」

だが、大好きな母親の言葉に意見することも出来ず、視線を僅かに逸らしながら、フェイトは小さくも返事を返した。

「はい、母さん」

Interlude Out




















「こんな詳しい資料……一体いつの間に……」

資料を全て読み終えたリンディ艦長が呆然として呟く。

「ラル、前にミッドに戻ったと思ったらこれを調べてたの?」
「あぁ、フェイトの名前を聞いた時に何か引っかかりを感じてな」

ユーノの納得したという台詞に簡単に返しながら、俺は再びアースラクルーへと視線を戻す。
さて、ここまでやってやるだけの甲斐がこのアースラにはあるのかどうか。
その答えを見せてもらうとしますか。

「で、リンディ・ハオラウン艦長。俺の求める回答はもらえるのか?」

もし意に沿わない答えだとするならば、違約金でもなんでも払って俺は雇われの身からフリーに戻る。
その上で俺がやりたいように動かさせてもらう。

「……そう、ね。結論から行くとすれば、今回の件はこちらに落ち度があると認めざるをえません」
「艦長!?」
「その心は?」

リンディ艦長の言葉に、驚いたような声を上げるクロノ執務官。
だが、俺はそれで終える事なくリンディ艦長の言葉の真意を尋ねる。
表面上だけの言葉ならいくらだけでも取り繕える。
大事なのは、その言葉にどれだけの真実が込められているか、だ。

「なのはさんの考えを一切考慮に入れていなかった事、管理局が保守的な思考であった事、
 死にそうな目にあっていたあの子へと手を差し伸べなかった事、簡単にあげるだけでこれだけあります」
「そんな事実確認はどうでもいい。これからあんたたちはどうするつもりだ?」

リンディ艦長が言った事は全て事実確認に過ぎない。
これからアースラクルーという管理局がどういう対応するかの答えにはなっていない。

「これを踏まえて、今後こんな事が起こらないように努力したいと考えています」

揺らぐ事のない意思を見せる目を見せたが、努力を考えるだけで終わらすつもりだろうか?

「考えるだけか?」
「今のアースラクルーだけでは、実行に移すのは難しいでしょう……」

一旦台詞を区切ったリンディ艦長へ向けて、視線だけで先を促す。
目を閉じて、言う事を纏めているのか、少しだけ息を整えた。

「ですから、ラインハルト君。改めて貴方にはアースラ艦長リンディ・ハオラウンとして要請したいと思います」
「要請?」

こんな状態で、リンディ艦長は俺に何を要請するというんだろうか?
そもそも、あんな事を言われておきながらただ言われるだけのような大人しい組織じゃないはずだ。

「えぇ、雇う雇われるの関係ではなく、アドバイザーとしてこの事件に協力して欲しいの」

真っ直ぐな目を向けて言われた言葉。
俺はその真意を探るかのような視線を隠す事なくリンディ艦長へと送る。
この程度で揺らぐなら、管理局という組織はとことん腐ってると判断するんだが……
リンディ艦長の視線は、揺らぐ事無く俺を見返していた。

「それは、管理局としてのリンディハオラウンの言葉か? 個人であるリンディ・ハオラウンの言葉か?」

最終判断の材料として、わざわざ俺はどちらの言葉であるのかを確認した。
もし、これで管理局としての言葉と言われたのなら、話の信憑性はほぼ皆無になる。
恐らくリンディ艦長も、俺が言外に入れたこの意味を理解しているだろう。

「今は、管理局は関係ありません。私個人の考えの元に判断した要請です」

リンディ艦長はこれ以上言葉を続ける事は無く、後は俺の言葉を待つかのように、その場に沈黙が下りた。
それに俺はすぐ答えることはなく、後ろに控えていた2人へと視線を移す。

「前も聞いたな、なのは、ユーノ。お前たちはどうしたい?」

変わろうと言う意思を見せた時点で、及第点を与えてもいいだろう。
今までの考えから変化がないようなら俺は迷う事なく切り捨てていただろう。
だが、及第点の回答を出してきた以上、俺の協力者であるなのはたちの意見も聞いてみたいと思った。

「私は……難しい話が多くてよく分かりませんでしたけど……もう1度、フェイトちゃんとお話がしたいです」
「僕は、今のリンディ艦長の話は信じられると思う」

少し迷いながらも、なのはたちは是と言う返事をくれた。
なら、俺も少しは信じてやってもいいか。

「……いいだろう、この事件が終わるまで改めて協力する事を約束してやるよ」

俺がそう言うと、目に見えてリンディ艦長は安心したというような雰囲気を見せた。
だが、一方でクロノ執務官は納得がいかないような表情をしている。
何も言ってこないところを見ると、念話か何かで釘を刺されているって所か。

「とりあえず、何をするにしてもひとまず海鳴に戻らせてもらう」
「そうね……なのはさんもあんまり長い間学校をお休みする訳にもいかないでしょうし」

何か不満があるとすれば、後で個人的に言ってくるだろう。
そう結論を出した俺は、一度海鳴の拠点へ戻る事を伝えた。
その話に乗るように、リンディ艦長から一時帰宅の許可が出て、なのはが嬉しそうな表情を見せた。
暫くアリサやすずかとメールも出来ていないだろうから、久々に友達とのんびりするといいだろう。

「アースラは、シールドの強化とプレシア女史の居場所の特定をしておきます」
「あぁ、何か分かったらその都度連絡してくれればいい」

そして、俺たちはアースラから海鳴へと戻った。
1人身の俺は良いとして、なのはの方にはリンディ艦長が経過の説明の為に付いて行ったんだが……

「正直、不安だな……なのはの家であの極度の甘党を発揮しなければいいんだが」

俺の不安は、妙にずれた所で発生していたりする。




















      〜 あとがき 〜


交渉というか、こういう話は苦手だったりする訳で。
なんというか、強引に話を進めた感がいなめないのです。
違和感感じたら突っ込みくぁもん、試行錯誤で修正するぜぃ。

あとは、極論から行くとプレシアのところに単独で乗り込んで制圧もありなんだけど。
無印は極力本編にそってやりたいから自重します。
でもまぁ……やりたいようにやるのには変化が一切ありませんがね。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/20
公 開 2009/03/20





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