「まさか、またここに来ることになるとは思ってなかったな」

アースラクルーに帰宅を申し出て海鳴に戻った俺たち。
なのはは休んでいた学校に顔を出し、俺は対プレシア戦に備えて準備をしていた時。
教えた記憶も無いのに現れたなのはやユーノ、アリサにすずかと行ったメンバーに拉致られた。

【アリサちゃんが大きなオレンジ色の毛並みをした犬を拾ったらしいんです】
【……オレンジ、ね】

犬と言っていいのかわからないが、オレンジ色の毛並みを持つ存在には心当たりがあった。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『最初で最後の本気の勝負!』






















【やっぱりお前か、アルフ】

バニングス家の無駄に広い庭、その一角に置かれたケージの中にアルフはいた。
見覚えの無い傷が痛々しくも治療された跡がある。

【その傷と、あとフェイトはどうした?】

俺が念話で問いかけると、アルフは俺たちに背を向けるとうな垂れた。
さすがに民間人であるアリサやすずかの前じゃ言えないって事か。

「あらら……元気がなくなっちゃった」
「やっぱり傷が痛むのかな……そっとしておいてあげようか」

うな垂れたアルフを見て、2人は少しばかり違う方向に勘違いしてくれたらしい。
なら好都合だと思い、俺たちは連れ立ってその場を立ち去ろうとした。

【……ユーノ、やる事はわかるな?】
【もちろん。僕経由で話を聞くから、なのはたちはアリサちゃんたちをお願い】

その際ユーノへと念話を送り、俺の考えを理解していたのか行動に移る。
すずかの手から飛び降りたフェレットユーノはアルフのケージの前へと移動した。

「ユーノ、そんなに近づいたら危ないよ」
「大丈夫だよ、ユーノ君は」

アリサは飛び出したユーノを捕まえようとしたが、なのはがそれをやんわりと止める。
後はユーノとアースラクルーに任せて、とりあえず俺たちはアリサやすずかの相手をしなくちゃいけないな。
……まぁ、めんどくさいから大半はなのはに押し付ける気満々だが。

【2人とも、聞いた?】

アリサの家の廊下で、俺となのははクロノ執務官から確認の念話を受けていた。
それに対して肯定の返事を返すと、俺たちはアースラ側の出方を待った。

【プレシア・テスタロッサを捕縛する。アースラを攻撃しただけでも、逮捕の理由にはお釣りがくるくらいだからね】

まぁ、妥当な判断だろう。
このままプレシア・テスタロッサを放置しておけばフェイトが新たに罪を重ねていく可能性がある。
そうなる前に止めようとするのがなのはだろう。

【僕達は艦長の命令があり次第、任務をプレシアの逮捕に変更する。君たちはどうする?】

クロノ執務官の問いかけ。
これは俺たちというよりなのはに向けて送られたものだろう。
どちらにしろ俺は最後までこの件に関わるつもりだったし、最悪1人でもプレシアのところへ行くつもりだった。

【私は、フェイトちゃんを助けたい。アルフさんの意思と私の意思、フェイトちゃんの悲しい顔を見ると……私もなんだか悲しいんだ。だから、助けたいの】

ほとんど考えるような様子も見せず、なのははきっぱりと言った。
まぁ、予想できていた回答ではある。

【それに、友達になりたいって言った。その返事を聞いてないしね】

こればかりは、俺の予想外の答えだった。
だが、なのはは微笑を浮かべながらその意思の固さを見せてくれた。
それを聞いた俺は、ついつい顔がにやけそうになってしまった。

【こちらとしても君の魔力を使わせてもらえるのはありがたい。フェイト・テスタロッサについてはなのはに任せる】

これで、なのはは正式にアースラからフェイトに対する対応の権限をもらった事になる。

【それでいいか?】
【うん……】

クロノ執務官は、アルフへと向かってそう問いかけ、頷く事でアルフは答えた。
そして、俺たちへ向かってアルフは念話を送ってくる。

【ラルになのは……だったね。頼めた義理じゃないけど……だけど、お願い、フェイトを助けて。あの子、今ホントに1人ぼっちなんだよ】

その懇願は、主を本当に大切にしているいい使い魔だと俺に感じさせた。
だからこそ、俺たちはそれに答える為に力強く返事を返した。

【うん、大丈夫任せて!】
【安心して、怪我の治療に専念していろ。それとも、俺が治してやろうか?】

冗談交じりに、アルフの怪我の治療について聞いてやる。
どっちにしろ、後で治療事態は施すつもりだったからわざわざ聞く必要もないんだがな。

「おっそーい! 何してんのよあんたたち! もう新しいダンジョンに入るところなんだからね!!」

いつまでも廊下にいるわけにもいかず、アリサたちの待つ部屋へと戻った俺たちを向かえた第一声がそれだった。
……待っていたのには感謝するが、そこまで怒鳴って言う事か?

【予定通りアースラへの帰還は予定通り明日の朝、それまでに君たちがフェイトと遭遇した場合は……】
【うん……大丈夫】

そう締めくくったクロノ執務官の台詞で、その場でこれ以上打ち合わせの念話が発生する事はなかった。
なのははアリサたちに混ざり、白熱したゲーム展開を見せている。
それを見ながら、俺は苦笑を漏らす以外にやれることはなかった。

「やっぱりみんなでやると楽しいね」

夕日が差し込む時間まで、なのはたちはゲームに熱中していた。
今は窓際の席で、各々が飲み物の入ったグラスを手にしながら満面の笑みで話をしている。
相変わらず何故か俺が同席しているのはご愛嬌だ。

「ありがとう……」

素直な感想を述べたすずかに対して、なのはは小さくお礼の言葉を零した。

「ところで、どうなのよ? 用事の方は?」
「たぶん、もう少しで全部終わるから、そしたらもう大丈夫だから」

アリサが、なのはが休んでいた理由を思い出し聞く。
聞きたい事を聞けて満足したのか、アリサはそうと言い、笑みを浮かべた。
そして、穏やかな時間を過ごしながら彼女たちの時間は終わりを告げた。



























夜明けの街を、俺たちは走っている。
ユーノはいつも通りのフェレット状態でなのはの肩に乗っていた。

「なのは」

ユーノが塀の上の存在魔力に気付いて、知らせる。
塀の上を走っていたアルフは、なのはが気付くと飛び降り、並走した。
なのはは、隣を走るアルフへと笑いかける。

「アルフ、これ食っとけ」

そんな2人を微笑ましいと感じながらも、俺はポケットから用意していた飴玉のようなものをアルフへと放る。
それを見事に口でキャッチしたアルフは、そのまま飲み込んだ。

「ラル、これは?」
「俺謹製、滋養強壮薬とでも言った所か。怪我は治したとは言え、落ちた体力まではすぐに戻りきらんだろ」

元より俺の拠点として借りた部屋には、表立っておいてはいないがそう言ったものが大量に隠してある。
その中の1つを今回はアルフ用に調合しなおして持ってきたのだ。

「……あんまり、美味しくはないね」
「わがまま抜かすな。古来より良薬口に苦し、だ」

そもそも、人間と狼の味覚には違いがありすぎる。
ドックフードを美味しそうに食べるアルフの味覚に合わせるのはめんどくさかったんだ。
そんな文句も受け流しながら、俺たちは一路ある場所へと向かった。
決着を付ける、その舞台へ向けて。

「ここならいいよね……出てきて、フェイトちゃん」

海を望む海鳴の公園。
朝日が差し込み白み始めたそこで、なのははいるかもわからないはずのフェイトへと語りかけた。
俺の方では、ピアス・レクオスからフェイトの魔力反応があることを知らされていた。
海風が木々を揺らし木の葉がざわめく中、布ずれの音が聞こえた。
その方向へと全員が視線を送ると、電灯の上、漆黒のマントをはためかせながら立つフェイトがいた。

「……フェイトちゃん」

鎌のような魔力刃を構え、俺たちと対峙するフェイト。
そんなフェイトへと、アルフが歩み寄った。

「フェイト……もう止めよう。あんな女の言うこと聞いちゃだめだよ。でないと……このまんまじゃ不幸になるばっかりじゃないか」

切実な訴えも、悲しげな表情で首を横に振る事で断りの意思を見せる。

「だけど……それでも私はあの人の娘だから……」

フェイトの意思を受けて、なのははその身にバリアジャケットを纏いレイジングハートを持つ。
予め、なのはから頼まれていた。


――――フェイトちゃんの事は、私に任せて欲しいの。


だから俺は、バリアジャケットこそ展開はしたが、それ以上の行動を起こす気はない。

「ただ捨てればいいってものじゃない。ただ逃げればいいってものじゃもっと無い」

目を瞑り、ゆっくりと語りかけるかのように紡がれる言葉。
それに答える事なく、フェイトはただなのはを見ている。

「きっかけはきっとジュエルシード。だから賭けよう、持っている全部のジュエルシードを!」
『Put Out』

なのはの周りに浮き上がる今まで集めたジュエルシード。
それに答えるかのように、フェイトのデバイスもジュエルシードを浮かび上がらせた。

「それからだよ。全部、それから……」
「…………」
「私たちの全ては、まだ始まってもいない。だから、本当の自分を始める為に……」

お互いがお互いのデバイスを構え、なのはがしっかりとフェイトを見据えながら言った。

「始めよう、最初で最後の本気の勝負!」




















      〜 あとがき 〜


さて、次でようやくプレシアの処遇が決まるわけで。
とりあえず、方針も固まった所でもちゃもちゃやってこうかと。
目指せ、こっちでも大団円(ぁ

ただそうなると、今までの罪状をどう軽減させていこうかっていう手段が……
なんとかできるっつーか、捏造祭りが発生しそうな予感です。
まぁ、暴走しまくってやろうじゃねぇか。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/20
公 開 2009/09/11





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