俺たちが戻ってきたアースラの艦内。
そこでは、プレシアの本拠地に乗り込んだ武装局員たちの状態が逐一報告されていた。

「お疲れ様。それから、フェイトさん?始めまして」

リンディ艦長が優しく声をかけた。
だが、フェイトはそれに反応する事無く手錠がかけられた両手と、手にしたデバイスを見つめていた。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『時の庭園』






















アルフは、そんなフェイトを悲しげな瞳で見つめている。

「リンディ艦長、フェイトの手錠を外す許可を貰いたい」
「ラル……?」

元来手錠とは、暴れる容疑者を拘束するために使用するものだ。
今のフェイトには抵抗する素振りすらない、ならば手錠はつけていなくても問題がないだろう。
俺が言った一言に最初に反応したのは、フェイトの使いまであるアルフだった。

「でも、一応フェイトさんはこの件に関して……」
「無理を承知で言っている……この通りだ」

管理局が司法を司っている以上、俺の願いは無理を通すとは理解している。
だからこそ、俺は頭を下げて、その無理を通して欲しいと頼んだ。

「……ふぅ、仕方が無いわね」

俺が頭を下げたのがよっぽど意外だったんだろうか。
その場にいる全員が驚いた顔を見せたが、リンディ艦長はため息をつくとフェイトの手錠を外してくれた。

【母親が逮捕される瞬間を見せるのは忍びないわ……なのはさん】
【あ、はい】

フェイトから視線を外したリンディ艦長が、俺たちにそう念話を飛ばした。
その懸念は最もだと理解したなのはが、フェイトへと話しかける。

「フェイトちゃん、良かったら私の……」

なのはが台詞を言い切る前に、フェイトがアースラ艦のディスプレイへと視線をやった。
そこには、今まさに玉座へと突入した武装局員たちの様子が映し出されている。

「プレシア・テスタロッサ、貴方を時空管理局法違反の疑いと、艦船攻撃の容疑で逮捕します。武装を解除してこちらへ」

降伏勧告に、プレシアは反応する事無く、武装局員はプレシアを包囲した。
武装局員の一部がプレシアの横をすり抜け、椅子の奥にある通路を発見した。
その時、プレシアの目が怪しく動いた。

「こ、これは……!?」

その通路へと入った局員は、驚きの声を上げて固まった。
アースラの艦内もまた、愕然とした表情を見せて固まる。

「私のアリシアに近寄らないで」

フェイトと瓜二つの姿をした少女が、カプセルの中に眠るように入っていた。
局員がそれを確かめに近づこうとした時、プレシアがその前に立ちはだかり局員を弾き飛ばす。

「……邪魔よ」

怒りと狂気にあふれた声で、プレシアは言った。
局員たちはそれを受けて実力行使に出ようとしていたが……無理だな、実力が違いすぎる。

「危ない! 防いで!!」

リンディ艦長の指揮が飛んだが、それよりも早くプレシアの魔法が放たれる。
悲鳴が上がり武装局員が倒れ伏す中、プレシアは笑っていた。

「アリ……シア……?」

自分と同じ容姿をした違う名前の少女を見て、フェイトは呆然としながらも呟いた。
そんなフェイトが見つめる中、プレシアはカプセルに歩み寄り、縋りつく。

「時間がもうない……たった9個のロストロギアでアルハザードに辿り着けるかは、分からないけど……でも、もういいわ。終わりにする」

まるでモニターがそこにあるのを知っているかのような動きで、プレシアは視線をコチラへと向ける。

「この子を亡くしてからの暗鬱な時間を……この子の身代りの人形を娘扱いするのも……聞いていて、あなたのことよ、フェイト」

プレシアの台詞、それを聞いてなのはたちは目を剥いた。

「せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは、見た目だけ。役立たずで、ちっとも使えないお人形」
(……人形、ね)

管理局の連中に見せていない資料の中に、ヒュードラ事件とプロジェクトF.A.T.Eというのがあった。
プレシアが本当の娘を失う事となった魔導炉の暴走と使い魔を越えた人造生命の研究。
そこで得た技術を用いて作り出された本当の娘のクローン体。

「最初の事件の時にね。プレシア・テスタロッサは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの……」

アースラの艦内に、エイミィが後から独自に調べたであろう情報が響く。
それを聞いたなのはたちの顔が、さらに驚きに染まる。

「よく調べたわね。そうよ……そのとおり、だけどだめね……ちっともうまくいかなかった。所詮作り物は作り物失ったものの代わりにはならない。ただの偽物、贋作でしかない」

そう言うプレシアは、人間が行ってはならぬ果てまで行ってしまった目をしていた。
……最愛の者を失って、精神に異常をきたしたか。

「アリシアは、いつでも私に優しかった。フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽物。贋作でしかない失敗作。せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ全然だめだった」
「止めて……止めてよ……」
「アリシアを蘇らせるまでに、私が慰みに使うだけのお人形、だからもういらない。どこへなりとも消えなさい!」

ギリッと、気づけば俺は歯を食いしばっていた。
これ以上、こんな戯言を聞くに堪えない。

「お願い! もう止めて!!」

なのはの悲痛な叫びを聞いているのだろう。
だが、プレシアは冷たく笑って、言ってはならぬ言葉を言った。

「いいことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出したときからね。私はずっとあなたの事が大嫌いだったのよ!」

その瞬間、フェイトの手からデバイスが零れ落ち、その心を表すかのように砕け散った。
精神的ショックが大きいのだろう、その場に崩れ落ちるかのように膝を折ったフェイト。

「フェイトちゃん!?」

なのはがフェイトを支えたが、その目からは光が消え、虚ろで何も映し出してはいなかった。
今までに何度か見てきた、全てに絶望し、生きる希望をなくした人間がする目だった。

「庭園内に複数魔力反応!!いずれもAクラス!」
「総数、およそ60……80……まだ増えてます!!なんて数だ!」

突如出現した魔力反応。
その報告をするオペレーターが驚きの声を上げる中、プレシアは誰に語りかけるでもなく言った。
広げた手の間には、9つのジュエルシードが浮かび上がる。

「私たちは旅立つの……忘れられた都、アルハザードへ!!」

ジュエルシードが光を放つ。
それに呼応するかのように、アースラがいる次元間に衝撃が走った。

「私たちは旅立って、私は取り戻すのよ。失われた時間を……失われた全てを!!」
「次元振です! 中規模以上!!」
「振動防御、ディストーションフィールド展開!」

オペレーターの報告に、リンディ艦長が矢継ぎ早と指示を飛ばす。
ジュエルシードの力は勢いを増し、オペレーターからはさらに厳しい状況が報告された。
それを見かねたのか、クロノ執務官が行動を開始した。

「クロノ君! どこへ!?」
「僕が直接止めてくる!」

それに気付いたエイミィが、驚きの声を上げたが、クロノ執務官は足を止める事無く転送装置へと向かって走っていった。

「……アルフ、お前はフェイトを頼む。しっかり……守ってやれ」
「ラルさん……私も行く」
「僕も行くよ」

未だ光を見せないフェイト。
それを見つめた後、動き出そうとした時、なのはとユーノが付いてくると意思を表した。
俺は頷く事で答えながら、クロノ執務官が向かった転送装置へと向けて走り出した。

「……こればかりは、フェイトが自分で乗り越えなきゃいけない」

そこに、出会って日の浅い俺は必要ない。
むしろ必要なのは、常日頃から傍にいるような存在……アルフの方が相応しい。






























雷の鳴り響くプレシアの館。
クロノ執務官の追いついた俺たちが見たものは、入り口を固める多数の傀儡兵だった。

「いっぱい、いるね」
「ここはまだ入り口だ、奥にはもっといる」

その量に思わず呟いたユーノだったが、クロノ執務官は平然と言った。

「この子たちって……」
「ただの機械だ、遠慮は必要ない」

なのはの疑問に、完結に答えてやる。
するとなのはは安心したのか、レイジング・ハートを構えた。
だが、それをクロノ執務官が手で制すると、デバイスを構えた。

「この程度の相手に、無駄弾は必要ないよ」
『Stinger Snipe』

侵入者を検知した傀儡兵に向かって、青い誘導弾が放たれた。
数をものともしないその魔法は、瞬く間に傀儡兵を倒していく。

「は、早い!」
「スナイプショット!」

辛うじて魔力を防いだのは銀色の傀儡兵のみだった。
それも、クロノ執務官が一瞬で肉薄すると、破壊の魔法を唱える。

『Break Impales』
「ボーっとしてないで、行くよ! ラインハルトが先に行っているからね!」

今までに見たことのない手際を見せられたからだろうか、なのはとユーノはその手腕に驚きを見せていた。
俺としては執務官を名乗っている以上その程度はやって当然だろうと思い、クロノ執務官が銀色の傀儡兵に肉薄した時はすでに先へと進んでいた。

「その穴に落ちないように気をつけろよ」

少しだけ遅れて、なのはたちが俺の所まで辿り着いた。
視線は前に向けたまま、俺はなのはに注意を促す。

「嘘数空間と言って、あらゆる魔法が発動しなくなる。落ちたら最後、重力の底まで落ちて上がって来れなくなる」
「う、うん。気をつける」

クロノ執務官の補足に、なのはが若干強張った声で返した。
まぁ、道もしっかり残っているから、そうそう落ちる事は無いだろう。
……ちょっとだけ、ロープで括りつけてユーノかクロノ執務官を放り込んで見たいと思ったのは秘密だ。

「ラル、不吉な事考えてない?」
「同感だ、僕も嫌な予感をラインハルトから感じた」

チッ、勘のいい奴らだ。
そんな緊張感にそぐわない会話をしながら、俺は目の前にある扉を蹴破った。

「ここから二手に分かれる。君たちは最上階にある駆動炉の封印を!」
「クロノ君は?」

待ち構えていた傀儡兵に、油断なく視線を送りながらクロノ執務官が指示を出す。
それを聞いたなのはが、クロノ執務官はどうするのかと疑問を投げかけた。

「僕はプレシアの元へ行く。それが僕の仕事だからね……」
「あいにくだが、俺もプレシアの元へ行く」
「……ラインハルト?」

プレシアには、言ってやりたい事が山のようにある。
それに駆動炉はなのはたちだけでも十分止める事はできるだろう。

「俺たちが道を作ってやる。そしたら……」
「うん!」

俺とクロノ執務官がデバイスを構えると、なのはは頷いてユーノの腕を掴む。

「ついてこれるか?」
「執務官を、舐めるな!」

俺のからかいの台詞を受けて、挑戦的な表情を作るクロノ執務官。
負けん気は上等、ならしっかり付いてきてもらおうじゃないか!

『Blaster Canon』
『Blaze Canon』

白銀と青い砲撃が、前に待ち構えていた傀儡兵を薙ぎ倒していく。
それと同時に、なのはとなのはに抱えられたユーノが階段へと飛んでいく。

「ラルさん、クロノ君! 気をつけてね!」

いつだって人の心配を忘れないなのは。
それに俺は手をあげ、クロノ執務官は笑って答えてやる。
さて、それじゃあ対面といきましょうかねぇ……プレシア・テスタロッサさんよ!




















      〜 あとがき 〜


いやぁ、プレシアが壊れてるよなぁと常々思う本編11話。
こんだけ壊れててくれると俺としても大助かり。
なぜならそれが前提として必要だったから!

とりあえず、よくよく考えるとラルが攻撃魔法を使ったの初めてな気がする。
今まで飛ぶか、防御するかしかしてないような……?
なんだこの主人公、人を使いすぎだろうw



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/22
公 開 2009/09/11





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