「あの子たちが心配だから、あたしもちょっと手伝ってくるね」

未だ生気を出さないフェイトへ、優しく語り掛けるかのようにアルフは言う。

「すぐ帰ってくるよ。全部終わったら……ゆっくりでいいから、私の大好きな本当のフェイトに戻ってね」

ベットに寝たままのフェイトの頬を優しく撫でながら、アルフはそう言って医務室を出た。
その声に反応したかのように、フェイトの目に光が戻った事に気づく事がないまま。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『それぞれの思い』






















意識を取り戻したフェイトは、戦況が映し出されるモニターを見ながら思考の海へと沈んでいた。

(結局、最後まで微笑んでくれなかった。私が生きていたいと思ったのも母さんに認めてほしかったからだ。どんなに足りないと言われても、どんなにひどいことをされても、ただ笑ってほしかった)

フェイトの脳裏に、はっきりと自分を捨てたプレシアの言葉が流れる。

(あんなにはっきり捨てられたのに・・・まだ、母さんに縋りついてる)

モニターにはなのはたちの元へと向かうアルフが映し出されていた。

(ずっと一緒にいてくれたアルフも、言うことを聞かなかった私にきっと悲しんだ……)

そして、フェイトの視線はアルフから、なのはへと向かう。

(何度もぶつかり合った真っ白な子、はじめて私と対等に向き合ってくれた、何度も出会って、戦って、何度も私の名前を呼んでくれた……でもなんで……)

流れ出そうになる涙を堪えるかのように、フェイトは身を起こしまぶたをきつく閉じる。

(生きていたいと思ったのも、母さんに認めてもらいたいと思ったからだ。それ以外に生きる意味などないと思ってた。それができなきゃ、生きていけないんだと思ってた)

だがそんなフェイトの頭に、ぶつかってきた時のなのはの姿と言葉が思い出される。

(捨てればいいってわけじゃない。逃げればいいってわけじゃもっと無い)

身体を完全に起こし、ベットに座るような姿勢になって考える。

(まだ、私たちの全ては始まってもいなかった。過去ばかりにとらわれて、昔を取り戻そうとばかり考えて……)

テーブルにおいてあったバルディッシュを起動する。
展開されたバルディッシュは、全体にヒビを走らせたボロボロな姿をしていた。

「そうなんだバルディッシュ……私はまだ、始まってもいなかったんだ」

フェイトが話しかけた時、バルディッシュは音をたて、破片を落としながらも答えた。

「Get Set」

その言葉にフェイトは驚き、そして涙を流しながら抱きついた。

「そうだよね、バルディッシュ。ずっと私の傍にいてくれたんだもんね」

頬から零れ落ちた涙が、バルディッシュへと落ちる。

「やだよね……このまま終わるなんて……嫌だよね」
「Yes Sir」

その言葉にフェイトは涙を拭き、決意した目でバルディッシュを握りしめる。

「うまくできるか分からないけど、一緒にがんばろう」

そして、フェイトはバルディッシュへ魔力を注ぎ込む。
手元から全体へと伝わり、金色の光を放った。

「Recovery」

光が治まった後にはヒビひとつない、輝きを完全に取り戻したバルディッシュがあった。

「そう、まだ始まってもいなかったんだ」

中空に現れたマント。
それを羽織ったフェイトの姿が、バリアジャケットへと変化する。
前を向いたその表情は、今までには無い力強さを秘めていた。

「だから、本当の自分を始めるため」

足元へと広がる金色の魔法陣。
徐々に増す光に包まれながら、フェイトは決意の言葉を口に出した。

「今までの自分を終わらせよう」






























アルフを交えたなのはたち3人は、最上階へと続く螺旋階段で苦戦を強いられていた。
壁を破って現れた、両肩に砲門を装備した巨大な傀儡兵の持つバリアが強固だったからだ。

「なのは!」

敵はそれだけでなく、いまだ滾々と沸き出る傀儡兵もいる。
ユーノのバインドを逃れた1体が、なのはへ向かってその斧を振り下ろした。
回避が出来ないと悟ってしまったなのはが目を瞑った時、傀儡兵へと金色の雷が襲い掛かった。

『Get Set』

雷の来た方向、そこへ目を向けた先にフェイトがいた。
金色の魔法陣を展開して、魔法を放てる体制がすでに整っている。

「サンダー・レイジ!!」

呪文と共に降り注ぐ雷に晒され、傀儡兵のほとんどが爆発してはじけ飛んだ。
フェイトがいる、その光景に驚いたアルフが、愛しき主の名を叫んだ。

「フェイト!?」
「フェイトちゃん!?」
「あとはあのおっきいのだけ……」

ゆっくりと下りてきたフェイトが、大型の傀儡兵を油断無く見る。
なのはは傀儡兵のバリアが強くて1人では破りきれないという事を伝えた。

「でも、2人なら……」

フェイトから返って来た答えは、なのはの予想外のものだった。
嬉しさのあまり笑顔が零れ、何度も頷きを返す。

「サンダー――――バスター!」
「ディバイン――――バスター!」

そして、2人の放った砲撃は傀儡兵のバリアすら容易く突き破りその暴威を傀儡兵へと示した。
大穴を空けた砲撃が落ち着いた後、アルフが涙ながらにフェイトへと抱きついた。

「アルフ、心配掛けてごめんね。ちゃんと自分で終わらせて、そして始めるよ……本当の自分を」

その言葉を、なのはもまた瞳に涙を貯めながら聞いた。






























そこら中にうじゃうじゃといる傀儡兵を破壊しながら、俺とクロノ執務官は最下層へと進んでいた。
さすがにここまでの激戦は厳しかったのか、クロノ執務官は少なからず傷を負っている。

【プレシア・テスタロッサ、次元振は私が抑えています。駆動炉もじき封印、あなたの元へは執務官たちが向かっています。忘れられし都、『アルハザード』そこに存在する秘術は存在するかどうかも曖昧なただの伝説です】

どうやら、次元震はある程度リンディ艦長が抑えてくれているらしい。
俺は、クロノ執務官に持ってきておいた簡易薬を放りながらもその念話を聞いた。

【違うわ。アルハザードは存在する。次元の狭間にある。時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落していく輝き、道は……確かにそこにある】
【ずいぶんと分の悪い賭けだわ。あなたはそこに行って、いったい何をするの? 失った時間と犯した過ちを取り戻すの?】

目の前に、最後の扉が迫った。
それを見た俺たちは、速度を落とす事なく、魔法を放つ。

【そうよ、私は取り戻す。私とアリシアの過去と未来を・・・取り戻すの、こんなはずじゃなかった世界の全てを】
「世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ!昔からいつだって、誰だってそうなんだ!!」

俺達が部屋へと辿り着いた時、上空からフェイトたちも現れた。
それを冷たい目で見ながらも、プレシアは咳き込み血を吐いた。
……次元魔法を多用したことによる、体内魔力の暴走か。

「始めまして……プレシア・テスタロッサ」

フェイトたちがプレシアに駆け寄ろうとする前に、俺はそれを目で制してプレシアに向けて歩き出す。

「……誰かしら?」
「ラインハルト・ヒューゲル。ミッドで大魔導士として名を呼ばれた貴女なら、知っているだろう?」

俺の名を聞いたプレシアの目が見開かれる。

「……そう、貴方が今の医神なのね」

さすが大魔導士と言ったところか、【俺】という存在について、詳しく知っているらしい。
だが、そんな事は今はどうでもいい。
俺を知っているのなら、俺の取るべき行動についても予想は出来ているんだろう。

「その通り。本来なら俺はあなたを殺す事になんら感慨も抱く事はない」

医を志す者として、人造生命の研究など許すことは出来ない。
そして、俺にはそれを行った者に対する制裁を与えるだけの力がある。

「……まずは、その邪魔なロストロギアには黙って貰おう」

未だ不気味な光を放ち続けるジュエルシードに向けて、ピアス・レクオスをかざす。
白銀の魔法陣とその周囲にスフィアが浮かび上がり、なのはの砲撃に負けない光を生み出す。

『The Last Judgment』

その光の奔流に飲み込まれたロストロギアは、その光を収め、地面に乾いた音を立てて落ちた。

「なっ!」
「さて、これでゆっくりと話が出来る訳だな」

驚いたような顔をするクロノ執務官たちを気にする事無く、俺はピアス・レクオスを片手に持ったまま、ゆっくりとプレシアの元へ歩み寄る。

「何故……私たちを見捨てた医神が、何故邪魔をするのよ!!」
「黙れ! 失った者を取り戻す事は出来ない!だからこそ取り戻す為にあがく気持ちを悪いとは言わない」

アリシアを取り戻す術を失った事を理解してしまったのか、プレシアは半狂乱になって叫ぶ。

「だが、自分で生み出した命を冒涜し、さらには人形扱いするだと……ふざけるのも大概にしろ」
「生み出したのは私よ! アレはそうある為に生み出された私の物よ!!」

目の前まで歩み寄った俺は、狂乱状態のプレシアの襟を掴んで強引に視線を合わさせる。

「生み出した命を物扱いできるほどお前は偉いのか! 神にでもなったつもりか!?」

過程はそれぞれでも、生み出された以上その命はそこにあるべくして生まれてきたものだ。
それを、物のように扱える権利は、どんな存在であろうと持ってはいない。

「アリシアを奪うような神なんていらないわ! 私には、アリシアがいればそれでよかったのに!!」
「詭弁を弄して目を背けるな、前を見ろ! 娘を失った悲しみに飲まれるな!!」
「飲まれてなどいないわ! だからこそ、私はアリシアを生き返らせる為にアルハザードへ向かうのよ!」
「どのような世界に行こうとも、この世に死者を蘇らせる秘術などありはしない!」

片腕でプレシアを掴んだまま、ピアス・レクオスをカプセルへと叩きつける。
割れたカプセルからは、液体が零れ出て、浮かんでいたアリシアの身体が徐々に下へと落ちていく。

「アルハザード……アルハザードにはあるのよ! それを何故邪魔するの……?」
「誰がそこにあると言った! 例え方法があったとして、蘇らされた娘が本当に幸せだと思うか!!」

カプセルの底に横たわったまま動く事の無いアリシア。
死んだ者に俺たち生きている者が出来るのは、忘れないでいてやる事くらいなんだ。

「妄言を吐くのも、それに捕らわれるのもここまでにしろ!
 そんな術はどこにもない、お前の娘……アリシアが蘇る事はあり得ない!」

だから、その人が生きていた事を忘れない為に、俺たちは今を必死に生き抜いていく。

「辛くとも現実を見ろ! お前の娘は、今はもうアリシアだけじゃない……
 作られた命とは言え、フェイトもまた……お前が生み出した娘なんだ!!」

母親の為にあんなに頑張っている子を、人形だの欠陥品だの言うな。
辛い目に会わされながらも、フェイトは前を向き、お前に向き会おうとしている。

「あ……うぅあぁ……アリシア……アリシアぁ……!!」

俺の手で襟元を抑えられた状態のまま、アリシアへすがり付こうと手を伸ばすプレシア。
すでに、目の光はさっきまで見せていたようなギラつきはなく、絶望を深く映し出している。

「俺は、お前を殺さない。生きて、罪を償って……いつかあの子にちゃんと向き合え」

これ以上言ったとしても、恐らくプレシアの耳に届く事はないだろう。
そう判断した俺は、プレシアの腹に拳を叩き込んで、その意識を刈り取った。
崩れ落ちるプレシアを抱えながら、俺はフェイトたちへと視線を向ける。

「今はまだ、心に踏ん切りをつけるまでに時間がかかるだろう……だけど、それまで待てるか?」

フェイトたちへと歩み寄りながら問いかける。
気を失ったままのプレシアを見ながら、フェイトは震える声で言った。

「この人は……どんな方法でも私を生み、育ててくれた人だから……私は、いつか私を見てくれるのを待ちます。だって……私の母さんだから」
「そうか……なら、俺も最大限の協力をする事を約束しよう」
「ありがとう、ラル……」

プレシアを力が有り余っていそうなアルフへと預ける。
アルフは、今までのフェイトに対する仕打ちが糸を引いているのか、顔をしかめながらもしっかりと受け取った。

【みんな脱出して! 崩壊までもう時間がないの!!】

エイミィからの悲痛な通信が届くと同時に、俺たちが立っていた場所に亀裂が走った。
すでに今までの戦いで限界を迎えていたんだろう、収まっていた震動が再び始まった。

「了解した。 フェイト・テスタロッサ、ラインハルト!!」

クロノ執務官の声に頷き、俺たちは出口へと向かってと駆け出した。
その時、亀裂へと落ちていくアリシアが入っていたカプセルが見えた……

「……まともに弔ってやれなかったが……せめて、安らかに眠ってくれ」

そして、俺たちはギリギリの所で、プレシアの城から脱出した。
……さすがに、何度か足場が崩れたのには、冷や汗をかいたけどな。




















      〜 あとがき 〜


これで理解していただけるかと思いますが〜
プレシア、人格崩壊って事で病院に行くことにはなるけど存命です。
こうする事で養子話がなくなって、エロノの妹化を防ぐという(ぁ

さて、残す所無印も次回で完結の予定だす。
後は本編最終話の如く、リボン交換とかですねー
このペースで行くと最終話が長くなりそうな……



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/22
公 開 2009/09/11





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