「はぁ!? なんだそりゃ……」

数日前、クロノに教えておいた個人用のアドレスにメールが届いた。
そこに書かれている文章を見て、俺は飲んでいたコーヒーを噴出してしまった。
あぁ! 折角ちょっと高いけど良い豆買って自分で挽いたコーヒーがっ!!

「……なんだよ、プレシアの更生が管理局では不可能って」

なんつーか、努力の色が見られないのにこの決断ってどうよ?















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『プレシア更生計画』






















一応クロノ経由で送られて来た更生計画っていうデータの全てに目を通して見る。
カウンセリングから始まり、社会復帰後はどういう生活をさせるかという物が詳細に書かれていたんだが……

「なんつーか、簡単に言っちまえば洗脳プログラムだよな、コレ」

大魔導士と言われた存在は、管理局側からすれば手放すには惜しい存在ってことなんだろう。
ヒュードラ事件も、プレシアの元上司が強引に推し進めて、失敗した罪をなすりつけてただけだし……
そこまでされた人間が、わざわざその相手に従事する事はないだろう。
ならどうするか、結論から行けば洗脳してしまえばいい。

「大方、アリシアの死を理解させる裏で、管理局に対しての絶対性でも植え付けようとしてんのかね」

アリシアは死んだ、でも管理局は悪くないよ、悪いのはそれを推し進めた奴だ。
もうそいつは管理局が追い出した、だから安心して管理局で働けるよ。
……まぁ、大分捏造が入ったけどこんな感じだろう。

「あー……」

あぁ、プレシアが管理局に従うなら、セットでフェイトも付いてくるからそれも狙ってんのか?
あんだけ鞭打たれようが何されようがのお母さん大好きっ娘だ。
アルフが何を言っても、聞かないだろうなぁ……頑固そうだし。

「さすがに……これはいかんだろうなぁ……」

俺としては、テスタロッサ家にそんな事をさせる為にプレシアを生かした訳じゃない。
フェイトとちゃんと向き直って、家族として生きてもらうためにやったんだ。
それを、根底から崩そうとする行為を、認める気はさらさらない。

「……仕方ねぇなぁ」

俺は、専用のネットワークを立ち上げると、メールを書いて送りつけた。
送り主の名前には"医神"、あて先は……ギルのおっさんあたりでいいか。
先に猫姉妹がメール検閲しそうだから、ついでにからかいの一文でも入れとくか。

「ピアス・レクオス、ミッドに飛ぶぞ」
『All Right. Long Lange Transporter』

書いた内容はコレからそっち行く、ついでにプレシアの身柄は俺が持ってく。
あっちの都合……?
そんなもん知ったこっちゃねーよ。

























「あら、今度の洗脳担当は貴方?」

うわー管理局やる事見抜かれてますよ?
プレシアを俺の方で預かる旨をおっさんに言った後、騒ぐ猫姉妹を放置して俺はプレシアを連れてきた。
現在、俺たちは俺の家で対面に座り話をしているような状態だったりする。

「一体何度絶望したかわからない事を、いつまで言ってくるのかしら?」

そして、開口一番の台詞がアレですよ。
なんていうか、ここまで無駄な努力をさせられたカウンセラーに同情すらする。
9割ほど自業自得だと思ってるけどな。

「俺が、わざわざそんな事をする必要性があると思います?」
「……そういえば、貴方は別に管理局に属しているわけじゃなかったわね」

それより予想外だったのは、プレシアの様子が考えていたのよりいい方向にあると言う事だ。
クローニングしたアリシアの素体すら失って、もっと自棄になっている思っていたんだが。

「予想より、ずっと表情に影がないですね」
「うるさいくらいに言われなくても、理解はしてたわよ……アリシアがもう蘇ることはないなんて……」

理解は出来ても納得は出来ない。そう言う二律排反が起きていたって事か。
そして、結果としては死者が蘇る事はないという結論が、納得に押し勝ったか。

「まぁ、アリシアについて納得させる手間が省けたのは俺としては正直楽ですが……」

納得が勝ったというより、納得せざるを得なかったの方が正しいかもしれない。
現にプレシアからは諦観の空気が漏れ出ている。
まだまだ完全に折り合いをつけるって訳にはいかないだろう。

「気休めですが、1つだけ言葉を送っておきましょう……"思い出は褪せる事無く、心の中に"……と」

その人が大事に思えば、思い出というのは輝きを失う事なく輝き続ける。
そうしてやる事で、亡くした人はいつまでもその人の心で生き続ける。
……どっかで聞いたような、陳腐な台詞だけどな。

「諌めるのか、慰めるのか……貴方たち"医神"のやりたい事は相変わらず理解できないわ」
「それが顕著だったのは先代だけです、こう見えても俺はアフターケアを万全に、ですから」

まぁ、あの先代だったからこそ、アフターケアもしっかりこなそうという意識が生まれたんだが……
じゃなかったら、夜道に背中を指されてもおかしくないくらいの事をしているんだ、あの先代。
自衛のためといってしまえば、きっと俺は否定できないと思うぞ?

「フェイトとの折り合いは……まだつかなそうですね」
「えぇ……それにあの娘にははっきりと言ってしまったもの……大嫌いだったとね」

―――――それなのに、今更母親面して会えるはずなんてないでしょう?
そう自虐的な微笑みを見せて、プレシアはうな垂れた。
……あぁ、そうか。
俺が気絶させたからその後のフェイトの言葉は耳に入っていないのか?

「ピアス・レクオス。あの時の音声だけでも再生は可能か?」
『Of Course』

ノートPCを取り出して、相棒へと接続する。
すると、フェイトが言ったあの時の台詞が、しっかりと画像つきで表示された。
……なぜか、感動を誘うようなBGMまで付いていたのは、相棒なりの気遣いなんだろうか?

《―――――だって……私の母さんだから》

再生の途中から、プレシアの表情が完全に見れなくなったが、肩口が震えているように見える。
少し、時間が必要か……
そう判断した俺は、コーヒーでも淹れようとキッチンへと向かった。

「まったく……随分と好かれたものね……」
「えぇ、ホントに。アレだけの事をしでかしても向き合ってくれるって存在はそうそういないでしょうね」

淹れてきたコーヒーを渡し、暫く無言でいるとプレシアからそう言葉が出てきた。
俺はそれに肯定を見せながらも皮肉を混ぜてみる。
同じような境遇があったとすれば、まず間違いなく子は親を恨むだろう。
そういう過程を経て、この管理外世界でも親殺しが発生するとニュースが流していた。

「それで、ここまで健気なフェイトに、貴女はどういう対応をします?」
「…………」

俺からどういう身の振り方をするかという指針を与えるのは難しくない。
だが、それを与えたとしても、それは完全にプレシアが向き合ったと言うことにはならないと俺は思っている。
だからこそ、今、俺が上げるのは選んではならない選択肢だ。

「突き放す? 言葉で心を抉る? 体罰を与え身体にダメージを与える?」
「……全てに向き直れた時……私は、あの子の母親になれるのかしら」

呟くように言われた言葉を、俺はしっかりと聞き取った。
恐らく、自問という形で出したんだろう。
そうでなければ、未だに悩むような表情は見せていないだろう。

「それを決めるのは、貴女とフェイトでしょうね」

フェイトの方は、すでにプレシアと向き合うための心構えがあった。
ならば、あとはコチラにその心構えの土台が出来れば、時間は掛かるかもしれないが2人は家族として暮らす事だってできるだろうさ。

「……それにしても、随分と貴方は私たちに良くしてくれるわね……診断書もそうだし、今もこうしてわざわざカウンセリングの真似事まで」

……連れてきたところで俺に出来ることなんてたいしたことじゃない。
せいぜい話を聞いて、少しだけ言葉を差し出してやるくらいしかできていない。

「……俺たちは医神なんて言われても出来る事は医療系魔導士と大差ないんですよ」

"神"であるのなら、死ですら凌駕して見せろ。と遺族に言われた事もある。
だが、結局の所"神"とは称えられる名称ってだけで、俺はしがない人間でしかない。
ただ少しだけ、他の医療系魔導士とは威力が違った魔法が使えるってだけなんだ。

「結局の所、貴女やフェイトに対してやってることもエゴでしかないんですよ」

俺がこうしたい、こうあるべきだろうという事を押し付ける。
その中で失われそうになっている命があるのなら、その家族の平穏の為に持てる技術を叩き込む。

「貴女が死ぬと少なからずフェイトは絶望をその身に体験するでしょう。
 俺より2つ下の、普通に生活していれば友達とかと仲良く小学生をやってるような子がですよ?
 心が成長するための“充実期”とも言える時期に、親を失うという絶望は重すぎる……」

そうして、もし俺が救えたのなら、その家族にはきっと笑顔がある。
それが見たいが為に……俺は俺の為に行動しているだけ。

「……それに、まだまだ親に甘えたい年頃じゃないですか」

俺は、"こういう存在"としてすでに自己が確立してしまった。
親に甘えた記憶なんて、ほとんどないと言えるかもしれないが、それに後悔を感じた事は一度もない。
こんな思考になるのは、俺だけでいいだろう。
知り合いが、そんな重荷を背負わされるのを防げるなら、防いでやりたいと思った。

「少しばかり、余計な話をしてしまいましたね」

少しばかり余計な事を言ってしまった。
俺も、親という存在に憧れに近い感情を抱くくらいには、まだ幼いのかもしれない。

「貴方……その身体にどれだけの物を背負っているの……?」
「さぁ、重荷に感じた事がないので分かりかねますが」

プレシアが驚愕の表情と共に聞いてくるが、答える必要もないだろうと曖昧なものを返す。
まぁ、俺なんかの話で、プレシアに少しでもきっかけが与えられるならそれもよしとしておこう。
言ってしまった事を後悔するよりは、前向きに考えておく方がきっとマシだ。

「少々長く喋り過ぎましたか……」

いまだ裁判を終えてない為に、一度ミッドへと身柄を返さないといけない。
抵抗すらする気配のないプレシアに、形式だけという事で手錠を付け、俺たちはミッドへと戻った。
これが、まさか裁判後にあんな話になってくるなんて、この時はまったく想像していなかったんだよなぁ……

























プレシアとの面談を終えてからそれなりの時間が過ぎた頃。
今日も今日とて、自宅で医薬品を作っていた俺のところに遊びに来る奴がいた。

「よう、クロノ。 どうしたんだよ、また模擬戦でも挑みに来たのか?」

妙に複雑な表情をしたクロノと、なぜか手錠をつけていないプレシアが立っていた。

「ラル……非常に言いづらいんだが……」

ホントは言いたくないという意思を前面に押し出しながら、クロノは途切れ途切れに何かを言おうとしている。
だが、それを遮るかのように、プレシアが一歩前に出てくると、俺へと右手を差し出してきた。

「貴方が、私の保護観察者として推薦されたのよ。よろしくね、ラインハルト君」
「……はぁ?」

俺が?
プレシアの?
保護観察者?

「……なんでさ?」
「貴方と、この執務官君のおかげで、違約金がいくらか発生したけど、ほぼ無罪で決まったのよ」

いや、ほぼ無罪ってのは良い事っちゃ良い事なんだろうが……
なんでそもそも管理局に関係のないフリーの俺にそんな役目が回ってくるんだよ。

「仕方が無いだろう……ギル・グレアム提督の推薦状が届いてしまったんだから」

……あのおっさん、俺への嫌がらせに推薦状出しやがったな?
今度あっちに行ったら、嫌がらせなくらい飾った育毛剤とか、加齢臭消しスプレーを渡してやる……

「管理局の人間に保護観察されるつもりなんてないわ」

大魔導士としての功績のせいか、プレシアを抑えられる人材が管理局にいない。
もしもの時にプレシアを鎮圧できるほどの実力と、精神的を社会復帰可能まで診ることが出来る人材で、俺が挙がったらしい。
迷惑甚だしいが……

「そう言う訳だ、頼んだぞ……ラル」

ある程度言いたい事を言い切ったのか、クロノはそう言うと転移魔法でさっさと姿を消してしまった。
そこに残されたのは、俺とプレシアだけであり……

「……衣食住の面倒、俺が見なきゃいかんのか?」

呆然としている俺と、すでに物件の物色を始めるプレシアという、よく訳の分からない空間を生み出していた。
あれ……なんで、こんな事に?




















      〜 あとがき 〜


捏造わっふー。
プレシアを生かしておいて、壊れてたのに大分精神再構築されてたりします。
まぁ、そうじゃないと1話じゃ終わんなくね!? って思った訳なんですけどね。

保護観察がラルになったのも、ずばり適当だったりします。
だって、ラル以外でプレシアとタイマンはれそうなのそうそういないしょ?
年とかは、まぁミッドって就業年齢低いからって事で。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/01/29
公 開 2009/09/11





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