おかしい……何故こんな状態になっているんだ?
普段どおりなら、俺はいつも通り家で医薬品の制作に勤しんでいるはずだったんだが……

「あー、それじゃあ、なぜか分からないけど俺が説明させてもらいます」

俺が今、どこから引っ張り出してきたのか、ホワイトボード前に立たされ……

「まずは、なのはの現状、あとなのはが習得してしまったミッドチルダの魔法ですが……」

高町家の居間、そこに勢揃いしている高町家の面々を前にして、状況説明を行っている。
……おのれなのは……口が軽いぞ、お前。















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『子狸を見つけた日』






















ほんの些細な事だったと思う。
俺が、自分の淹れるコーヒーに限界を感じ始めていたとき、士郎さんの淹れてくれたコーヒーの味を思い出した。
思い出すと飲みたくなるもので、ついつい高町家経営の翠屋に顔を出したんだが……
きっと、それが悪かったんだろうなぁ……

「あ、ラルさん。いらっしゃいませ、なの」
「あれ、今日はなのはもお店の手伝いしているのか?」
「うん!」

店に入ってすぐ、なのはが俺を見つけてパタパタと近づいてきた。
肩にはいつも通りユーノを乗っけていて、俺の方へ向かってペコリと頭を下げてきた。
それに適当に挨拶を返しながら、空いているカウンター席へと座る。

「やぁ、ラル君。今日はどうしたんだい?」
「どうも、お久しぶりです士郎さん。ちょっと美味しいコーヒーが飲みたくなりまして」
「そうかい、おれじゃあ良い物を淹れてあげないとね」

お世辞に聞こえたのか、士郎さんは俺の言葉に笑顔を返しながらコーヒーの準備を始めてくれた。
お世辞で言ったつもりじゃなかったんだが……
まぁ、こんなガキにコーヒーがわかるとは普通思わないか。

「それにしても、今日はまだ空いてますね?」

普段なら店内は満員で、外のオープンテラスでという雰囲気だったんだが……
今日はどういう訳か、人が少なめに見える。
まぁ、お陰でカウンター席が空いていたから、得をしたと言えば特をしたんだが。

「丁度、ピークを抜けたあたりの時間だからね」
「あぁ、そう言うことですか」

パタパタと片付けの手伝いをしているなのはを視界に入れると、俺の肩に飛び乗ってくるものがあった。
まぁこの場にいて、そんな事をするようなのには一匹しか心当たりはないわけで。

「ユーノ、どうしたんだ?」

肩口を覗き込んでみると、予想通りそこにはユーノがいた。
そして、なにやら申し訳無さそうな顔をしているようにも見える。

【あ、あの……ラル……】
「お待たせしました。はい、淹れたてだよ」
「あぁ、ありがとうございます」

ユーノが何かを言おうとしたとき、士郎さんが淹れてくれたコーヒーが丁度良く出てきた。
そのコーヒーへと意識を飛ばしてしまった俺は、ユーノの言葉を聞かなかったことに心底後悔することになった。
……あぁ、聞いとけば、逃げれたのかもしれないなぁ。

「あぁ、ラル君。そういえば、この後時間はあるかい?」
「え? えぇ、まぁ今日は特にやる事もありませんが……?」
【……ラル、ごめん】

本当に、後悔って後から悔やむから後悔って書くんだなぁ……
こんな所で実感する事になるなんて、俺……なんも悪い事してないのになぁ……?

「あのー、コレは一体どういった状況でしょうか?」

士郎さんが店に書けた臨時休業の看板。
そして引き連れられて来たのは高町家の居間。
そこにいるのは、なぜか勢揃いしている高町家の皆様方。
全員……特に恭也さんの視線が、俺を射殺せるほどに強いのはどういうことだろうね?

「なのはから聞いたんだが……君は、この世界の人間じゃないそうだね?」
「…………はぃ?」

普通ならあり得ない事が、士郎さんの口から聞こえた気がするんだが……
その言葉を聞いた瞬間、俺がなのはの方へと視線を向けると、あからさまに視線を逸らされた。
……あぁそう言うことか、納得しちまった。
なのはの奴……ひょんな事からバラしたな、魔法のこと。

「先に行っておくが、別に君を責める為に付いて来てもらった訳じゃない」

―――――ただ、なのはが今どんな状態にあるのか教えて欲しい。
そう、真剣な目で言われてしまった以上、俺がどうのこうの言って口先で誤魔化すわけにも行かないだろう。
はぁ、本来こういうのは管理局やアースラのクルーの仕事だろうに……

「……確かに、俺はこの地球で生まれた人間じゃありません。別次元と呼ばれる空間で生まれ育った人間です」

騙したりするつもりじゃありませんが、黙っていた事は事実だ。
だからこそ、俺は正直にこの管理外世界の人間ではないと告げ、謝罪の為に頭を下げた。
まぁ、こうなった以上は仕方がない、か……
しっかりと現状を説明して、高町家の人には納得してもらうしかないだろう。

「俺が漠然と答えるより、疑問に答えていく方が理解もしやすいでしょうから、聞きたい事を聞いてください」

そして、俺は疑問が出たらその度にそれに答えるという事を繰り返しながら、今のなのはや俺といった魔導士の現状を教えた。
その間にも、マルチタスクを無駄に活用して、なのはとユーノには恨み言を念話で送っておいたがな。
これくらいは、許してもらおう。
お前らのせいで、なぜかこんな役目が回ってきたんだから。

「つまり、なのはは事件に完全に巻き込まれてそれを解決したと?」
「えぇ、かねがねその通りです。管理局という組織から表彰もされていますから」

あらかたの事を聞き終えたのか、士郎さんは深いため息をつきながら、ソファーに深くもたれかかった。
とりあえず、説明できる事は大体したつもりなんだが……
なんで、相変わらず恭也さんの視線は厳しいんだろうか……?

「少しいいか?」
「なんでしょう?」

士郎さんが何かを考えている間に、恭也さんが俺へとようやく声をかけて来た。
ある意味、何を言われるのかとドキドキしながら待っていると、割と普通な事を聞いてきた。

「魔法、と言われてもそんなものがホントにあるのかいまだ実感がわかないんだが……」

言葉で説明しただけで、実際に魔法を使ったところを未だ見せていなかったな。
確かに、それだけじゃいまいち理解しきるのは不可能と言われても仕方が無いか。

「そうですね……実際に何かお見せした方が早いですか……」

かといって、この場で気軽に使えるような魔法なんてあったか?
なのはは補助や結界を習得中だろうし、それ以外は砲撃とかしかないからダメ。
ユーノは高町家のペットと言うことで話を伏せておいたから出すわけにも行かない。
と、なると俺が使える魔法ってことになるんだが……医療魔法が主だしなぁ。

「失礼を承知で高町家の皆さんにお聞きします。どなたか、身体に障害や怪我をお持ちの方はいますか?」

この際、先天性でなければ大体のものは治して見せてやろうと思うんだが……
そうじゃないと、手品かなんかだと言われそうな気がしないでもないし。

「ねぇ恭ちゃん、恭ちゃんの膝のこと、聞いてみたら?」
「おい、美由希……」

こそこそと相談するように、恭也さんと美由希さんが話をしているのが聞こえた。
膝が、悪いのか……?

「この際、証拠になるんでしたら大体のものは治して見せますが」

本当なら、こんな風に魔法を見せるのは管理外世界じゃ方を犯す事と同義なんだが……
まぁ、巻き込まれた当事者の家族なら、多少の事は握りつぶそう。
開き直ってるっていうな、そこ。

「過去にちょっとあって膝がな……」

恭也さんはそう言ってズボンの裾をめくり膝を出してくれた。
細かく患部の状態を教えてくれなかったのは、魔法とやらで判断してみろって事か。
……恭也さんの性格なら、言い忘れっていうのも否定しきれない気もするが。

「では、ちょっと失礼します。ピアス・レクオス」
『All Right. Stand by Ready Set up』

人で言うなら、半覚醒状態で待機させておいた相棒を起動し、魔法陣を恭也さんの膝へと当てる。
そして、魔法陣を中継として、俺の頭の中に患部の状態が流れてくる。

「きっかけは事故か何かでしょうが……それ以外にもたまった蓄積疲労のせいで歪な形で治ってしまってますね……」

砕かれた膝は、時間をかけることで完全とは行かないがある程度は治る。
だが、これはそれ以外にも何か無茶をしていたからこそ歪になってしまっているように見える。

「膝に負担が掛かるって事は……ミッドじゃ存在しないコチラ特有の技術でしょうか」
「医者には、完治は不可能だろうと言われた」
「こっちの技術じゃそうでしょうね……」

こっちの医療レベルは、文明相応の技術しか出来上がっていない。
そのレベルじゃぁどう足掻いたとしても完治は見込めないだろう。
ついでに、ミッドでもここまで歪んだ膝を治せるのは、一握りの医療系魔導士くらいじゃないか。

「まぁ、この程度だったらなんとでもなりますね。なのは、悪いけどタオルかなんか持ってきてくれないか?」
「はにゃ! えっと……なんでもいいの?」
「あー、出来れば噛めるくらいのハンドタオルだとベストかな」

俺の注文の品を探しに行っている間に、治療の事について大まかな説明をしておかなくちゃいけない。
後から文句を言われないように、前もって了承しておいて貰わなきゃいけないからだ。

「恭也さん、これからその膝を治療しますが……痛いからって殴らないでくださいね?」
「痛いからって……俺は小学生じゃないぞ。痛みくらい耐えられる」
「いやぁ、前もって言っておかないと過去にいろいろあったもんで」

ミッドの医療系魔法は大半が無痛だったりするから、俺の治療に驚く人が少なくない。
過去にはこんな痛みがあるなんて聞いてないって怒られた事があるからなぁ。
確かにミッド流の痛みのない治療も出来るけど、ここまで歪んでるとそれじゃ時間が掛かりすぎる。

「ラルさん、もって来たの」
「お、サンキュー。それじゃあ恭也さん、これしっかり銜えててください」
「あぁ……」

俺の言うとおり、タオルをしっかりと噛んだのを確認して、俺は治療術式の起動を始める。
前にフェイトに使ったのと、ほぼ同系で問題ないだろう。
アレよりも、痛み自体はきっとかなりのもんだと思うけど……

「それじゃあ、始めますよ……ピアス・レクオス、治療術式起動」
『Healing Mode Complete Start』

さて、まずは歪んでしまった患部の復元から始めましょうかねぇ……
成り行きとは言え、治療は治療だ。
医者の本分、果たさせてもらうとしますかね。
























あれから、恭也さんのタオル越しの苦悶の声をバックミュージックに俺は治療を終えた。
いやぁ、やっぱり交通事故で膝を最初におかしくしていたらしいよ?
つまり、俺の治療はその事故の痛みが再現されるって事であって……
そりゃ痛いよねぇ、聞いてる話と実際に受ける痛みって等号で結べないんだから。

「治ったのが嬉しいからって、"神速"とか言う歩法で模擬戦させるなっつーの」

術式が終わると、恭也さんは今まで感じていたであろう膝の違和感が消えたことに驚いていた。
怪我を負う前よりいい状態にしておいたから、今後の生活で悪影響が出るって事もないだろう。
にしても……まさかあの高町家があそこまで近接戦闘が出来る集団だとは思ってなかった。
魔法が届く前に、術者の前に移動できるってどういう技術だよ、アレ……

「まぁ、お陰で翠屋の無料コーヒー券貰ったから、まだマシとしとくかぁ」

高町家全員が、恭也さんの膝についてはある程度諦観していたらしい。
完治したときの士郎さんや桃子さんの喜びようはすごかった。
まぁ、息子の怪我が治って純粋に嬉しかったんだろうけどな。

「はー……予定外のことが多くて今日は疲れた……」

当分の間は、翠屋に行くときは恭也さんがいないのを見計らっていかなきゃいけないかもしれない。
どうにも、魔導士戦というのはいい実戦経験になるらしく、今度からたまに模擬戦をやらないかと持ちかけられてしまった。
俺としては、バインド使っても拘束前にぶった斬られるとか、誘導弾が当たらないとかいうトンデモな存在の相手はしたくない。
せいぜい、遭遇しないように気をつけて、翠屋のコーヒーを味わいに行こう……

「……帰って、寝るか」

これ以上外に出てたら、今度はどんな面倒ごとが襲ってくるかわかったもんじゃない。
そう考えて、俺はさっさと家に帰ろうと、家路を急いでいた。
さすがに、これ以上無駄に魔力を使うのはゴメン被りたい。

『Master. Unknown Magic Reaction』
「……ん? 不明の魔力反応?」

待機状態だった相棒から、そんな言葉が飛んできた。
今、海鳴にいる魔導士と言えば、なのはにユーノ、あとは俺くらいだと思ったんだが……
相棒の示す方へと視線を向けると、車椅子に乗ったなのはくらいの女の子と、それを押す女性、車椅子の女の子と話しながら歩く赤い服を着た女の子がいた。

「……妙、だな」

女の子からは魔力を感じないのに、他の2人からは強い魔力を感じる。
それに、この反応……ミッドチルダ式とも少し違うように感じるが……

「まぁいいや、今日はもう帰って寝る。 ピアス・レクオス、今の魔力反応は記録しといてくれ」
『Yes, sir』

さーて、今日の晩飯は何にするかなぁ……
身柄を預かってるプレシア女史の分も作らんといかんしなぁ……
今度からあっちにも料理作ってもらうか。
……出来るかは知らんけどな。




















      〜 あとがき 〜


再び捏造わっふー。
なのはの現状説明と、恭也の膝の治療、あとは子狸とのニアミスでしたー
いやぁ、なのはって男キャラ少ないからさ、数少ない男キャラはちょこちょこ出してかないと
ハーレムっぽくなるのはなんとなく嫌じゃぁ!
でも、クロノは俺の中ではいじられキャラなんてコレは確定事項

あと1話で、1.5話は終わってA'sに入ります。
まぁ、A'sなんて名前だけで、もう好き勝手やってやろうとか心に決めてますが
さーて、のちのち進めていくかぁ。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/02/07
公 開 2009/09/11





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