管理外世界での生活にもだいぶ慣れ、平穏な生活を送って暫く経ったとき。
俺の"医神"としてのメールアドレスに、見覚えのある差出人があった。

「……また、観測者か」

相変わらず相棒の逆探知でも送り主の所在が不明としか出てこねぇし……
この観測者、一体何者なんだろうなぁ……?















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『そしてA'sへ』






















何年か前に、ミッドチルダで騒動を起こした1冊の魔道書がある。
S級指定ロストロギア、通称闇の書。
多数の犠牲者と悲しみを生み出し、滅することが出来ないと言われている危険物だ。

「……このメールが真実かはわからねぇけど、フェイトたちの件もあるし、楽観は出来ないか」

観測者のメールは過去に1回しか受け取っていないが、そこに書かれている事件は間違いなく発生した。
たかが1回とも考えられるが、その1回の事件でも結構なスケールでの騒動になった。
そう考えると、今回のコレもまた観測者が送ってきた以上、ある程度の対策は考えなくちゃいけない。

「しかし、今回のコレは情報が随分と細かく載ってるようにも見えるんだよなぁ……」

一体どうやってここまで調べてきたのだろうか?
このメールを受け取ったときにはすでに闇の書はその活動を始めているという。
活動を観測した場所が、よりにもよってこの97管理外世界って所が妙に出来すぎている。

「ピアス・レクオス。管理局のアーカイバにハッキングしても構わない、
 今まで起きた闇の書に関する事件の全てを洗いざらい引っ張り出してくれ」
『Yes, Sir』

蒐集と呼ばれる他者、或いはリンカーコアを持つ生命からソレを抜き出し、闇の書内部へと取り込む。
1固体に1度しか蒐集は出来ず、全666ページを全て埋めると闇の書が完成する。
その蒐集を行う為に書から生み出される守護者の存在をヴォルケンリッターという。
ヴォルケンリッターの使命は闇の書の完成、及び担い手たる主の守護……

「いや、記憶にある程度で考えると護っているのは主というより書そのものか……?」

闇の書が完成すると主は例外なく暴走し、破壊という名の暴虐を尽くす。
ヴォルケンリッターには上位存在である管制人格と言うのが存在し、書が完成するまで出てくる事がない。

「ヴォルケンリッターの詳細はさすがに書かれてないか」

闇の書の原点は古代ベルカか……近代ベルカなら見覚えがあるからなんとでもなるが……
さすがに古代ベルカの魔法については知識がねぇなぁ……

「あら、何をそんなに難しい顔をしているのかしら?」
「あぁ、プレシア女史……なんつーか、一応"医神"の方への依頼……って感じかなぁ?」

すっかり我が物顔で居ついてしまったプレシア・テスタロッサ。
さすがに呼び捨てできるような年齢でもないので、俺はプレシア女史と呼ぶことにしている。
憑き物が落ちたのか、今ではフェイトが言ったような優しい母という雰囲気を見せながら、俺の家で家事全般を受け持ってくれている。

「"医神"への……? それにしては随分難しい顔をしてたようだけど」

淹れて貰ったコーヒーを受け取りながら、話していいものかを考える。
普通のメールだったら問題ないんだろうが、さすがにこっちの方面を教えるのはなぁ……
なんか、俺は別にいい気がするんだけど、クロノあたりがうるさく言ってきそうな気がする。

「ま、いいか。聞いたら多少なりとも協力してもらいますよ?」
「それくらいは別に構わないわよ?」
「説明がメンドクサイんで、このメールをどうぞ」

観測者からのメールが表示されている端末をプレシア女史へと渡し、コーヒーに口をつける。
ほろ苦く、でも嫌味にならない味が口の中に広がり、止まりかけていた思考をクリアにしてくれる。

「……ここまで詳しい情報を提示されると逆に怪しく見えるわね」

それについては同意するんだけどねぇ……
どうにも、前例があるとある程度は可能性を危惧しなきゃいけなくなる。

「プレシア女史の件も、観測者からメールが送られてきたからこそ俺が関わったんですよね」
「……つまり、今回もこの出来事が発生するってことかしら?」
「そう考えておくのは悪い事じゃないかと思いますね」

対策を講じておいて、実際には何もなければそれはそれで問題ない。
最悪なのは、与太話だと高を括って一切の準備を放棄したときに事が起きた時だ。
取れたかもしれない最善の手段を、わざわざ自分の手で放棄してしまうのは嫌だからなぁ。

「そこで、プレシア女史が覚えている闇の書についての情報を出してもらおうかと」
「……残念だけど、私が知っているのは大体この本文内に書かれてるわね」

まぁ、俺も似たり寄ったりの知識しかもっていなかったから、それはそれで仕方が無いか。
第一、 安易に人の知識に頼りすぎるのは、どうにも俺らしくない。

「まぁ、そんな訳で闇の書に関する事で、少し動けるようにしておこうかと」
「やっぱり、そう言った情報を調べるならミッドの無限書庫かしら……?」
「そうなんですけどねぇ……」

確かに無限書庫なら闇の書に関する情報があっても不思議じゃないんだが……
蔵書量が蔵書量だけに、1人で探すってのもなかなか骨なんだよなぁ……
こうなったら門外漢かもしれないが、ユーノの伝でスクライア一族に協力してもらうか?
遺跡の発掘とかやってるようなメンバーだから、考古学に詳しいのもいるかもしれないし。

「とりあえず、一度この闇の書の主として明記されてる子に会ってみようかと思うんですよ」
「……八神 はやてちゃん、ね」
「好都合すぎるくらいに、この世界にいる子らしいんで、手間もかからないでしょうし」

ただ、闇の書が起動している以上ヴォルケンリッターもすでに八神嬢の周りにいるだろう。
魔導士が近づいてきたとして、警戒されないようにってのがどうにも難しいような……

「警戒されて、いらない敵対心でも持たれるといろいろと不便なんですよねぇ……」

はてさて、どうしたもんか……
……案ずるよりも産むが易しって事で、当たって砕いてみようか。
ヴォルケンリッターがどういう行動に移るかはわからないが、最悪流動的に動いたとしても何とかなるだろう。
唐突に攻撃してくるって事はまずないと思うし……

「とりあえず、次の日曜にでもこの八神嬢の住所に言って見る事にします」

ある程度の安全が保障できるようになったら、なのはたちに引き合わせてみるか。
どうにも、広い家にヴォルケンリッターが来るまで1人で暮らしてた子みたいだし……
同年代の友達ってのがいても、別に罰はあたらんだろう。

「ところでプレシア女史、処方した今日の分の薬は飲みました?」

自分の中である程度今後の行動を決めた所で、思い出した事をプレシア女史に告げる。
プレシア女史の保護観察とともに、クロノから個人的に依頼されたのは治療だった。
管理局によると、プレシア女史の身体は病気を患っているという診断を出していた。

「えぇ、さっき飲んだわ。……ところであの薬はなんなのかしら?」

俺の家に来た時に、クロノに頼まれ『診断』してみた結果、実際の所は病気とは違うことが判った。
そして、俺ならそれの治療が可能だとわかったクロノが、個人的に治して欲しいと行って来たのだ。
少し違うか、クロノがというよりは事情を知っている人たちがって感じだな。

「知らずに飲んでたんかぃ……」

いくら俺が"医神"とか呼ばれるような医療系魔導士だとしても、処方された薬を聞かずに飲むってのはいかがなものか。
もし毒とか入れてたとしたら、今頃お墓の下でぐっすりって事になるだろうに。

「魔力過剰使用によるリンカーコアからくる身体的衰弱用の栄養剤みたいなもんです」
「どうりで……最近血を吐いたりしないと思ったわ」
「血を吐く事に抵抗がないあたりダメなんですけどね……」

俺に出来る事を最大限に協力するってフェイトと約束もしたからなぁ。
まだこの家族が仲良く暮らせるようになってないし、それまでに亡くなられても困る。
そうならないようにしっかりとした休養と、正しい処方で身体の調子を戻しておかないとな。

「ぶっちゃけると、魔力を長期間使わないで置けば、疲弊したリンカーコア事態は回復しますから」
「後は、衰弱した身体に栄養を与えるって事ね」
「その通り。まぁ、市販に流通しているような栄養剤よりは効果が高いのは保障しますけどね」

家でやってる医薬品の調合の一部は、プレシア女史用に処方してたのもあるからな。
個人用の完全オーダーメイド、他の人が飲んでも同じような効果は出ないんですよ?
まぁ、魔法しか覚えてない医療系魔導士には無理だろうけどな。

「見た所身体も良くなってるようなんで、今後は食後に処方するんでそれ飲んでください」

その時々の体調に合わせた物を処方した方が、効果が高い。
今は魔法を使う機会なんてそうそうないし、このまま行けばそう遠くないうちに身体の方は完治できるだろう。

「そういえば、フェイトはどうしているかしら……」
「今頃なら……恐らく管理局で嘱託魔導士の勉強中じゃないですかね?」

9月の頭あたりに行われた、プレシア女史やフェイトの裁判。
ほぼ無罪という結果はいいが、違反金とある程度の管理局への奉公、保護観察は命じられていた。
プレシア女史に関しては、違反金を多く払うという事で嘱託を回避している。
だが、フェイトは出生の理由から社会経験が少ないという理由もあり、リンディ艦長に言い包められていた。

「まぁ、ハオラウン家が保護観察者になりましたから、悪いようにはならんでしょ」

最初こそ、管理局が選んだ人選でギルのおっさんが選ばれたんだが……
さすがに洗脳プログラムをやるような管理局は信用に置けないという事で俺がちょっかいをかけた。
そのおかげか、まだ信頼におけるリンディ艦長が保護観察者として選ばれる事となった。
クロノには面倒ごとを、とかぼやかれたけど、リンディ艦長は娘が出来たようだと喜んでいた気がする。
本当の母親が存命なのにその喜び方もどうかと思うんだが……

「元気にしているならいいわ……」
「恐らく、完全に嘱託として従事を始める前にこっちに来ると思いますよ?」

なのはとフェイトの仲の良さは、見ているこっちがいろいろと将来を危険視するくらいだ。
フェイトにとっての最初の友達がなのはだから、あの懐きっぷりも仕方が無いとは言えるが。
このまま行くと、1になのは、2になのは、3、4もなのはで5にアルフとかなりそうだ。

「その時に、お互いの覚悟があれば顔をあわせるくらいはできますから」

ここ暫くの生活で、プレシア女史の精神もすっかり安定してきている。
フェイトの方も、アルフから送られてきた文章を見る限り問題ないだろう。
メールが本人から来ないあたり、忘れられているようで寂しかったりもするんだが。

「そうね、その時が来るのを楽しみに待ってましょう」
「そのためにもまず、しっかりと身体を治してください」

それにしてもなんでアルフからメールが来るんだろうか……?
いやまぁ、状態がわからんよりはわかる方が俺としては助かるからいいんだが。
そこら辺も、今度会ったら聞いてみるとするか。

「まずは……スクライアに渡りをつけてもらわないとな」

一度スクライア部族の方に戻ったらしいユーノへ向けて、俺は端末を立ち上げるとメールを送った。
ついでに、なのはに顔を見せてやれという個人的な用件も付け足しておくのを忘れない。

「そういえば、お昼は何にしようか聞こうと思ってたんだけど、何がいい?」
「あー、じゃああっさり目の物でお願いします」

なにをやるにしてもまずは腹ごしらえからってね。
プレシア女史が作ってくれた飯をしっかりと平らげた俺。
身体を一度大きく伸ばした後、相棒を持って出掛ける準備をした。

「それじゃ、ちょっと行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

鬼が出るか蛇が出るか、出来れば穏便に事を運びたいなぁ……






























ラルが出て行った後、プレシアは1人再び観測者という存在からのメールを見ていた。

「……まるで、空想上の神か何かね」

ラルの介入がなければ、自分はアリシアを失った悲しみに飲まれたままだっただろう。
アルハザードという夢物語に縋り、命を落としていた可能性もありえたかもしれない。
だが、今は制限こそ少なからずあるが、そこまでの不自由を感じる事がなく生活できている。
それを成してくれたのは、ラルだと思っていた。

「フェイトと向き合う機会をくれたのは彼だけど……」

そのラルも、こういった形で依頼されたから現れたに過ぎないという。
ならば、この観測者の目的とは一体どこにあるのだろうか?
自分たちを救い、闇の書の主を救おうとして観測者という存在に利はあるのだろうか?
いや、そもそも利を前提とした依頼ならば、明確に名乗らないところで否定せざるを得ない。

「……神に選ばれた使徒……これじゃあ、運命に操られているみたいね」

抗う事のできない不可思議な理力に踊らされているような、そんな錯覚をプレシアは感じた。

「ふふ……そんな事、あるハズが無いわね」

今のプレシアに出来る事などたがか知れている。
ならば、ラルがやろうとしている事に、出来る事で協力しよう。
そう結論を出したプレシアは、端末を終了させると立ち上がり、台所へと足を向けた。

「さて、おなかを空かせて帰ってくる子の為に、晩御飯でも作りましょうか」























      〜 あとがき 〜


素敵なくらいプレシア女史がママンになってる希ガス。
でもまぁ、こういうキャラがいても問題あるめぇ。
むしろ問題にさせねー、ソレが俺のクオリティ。

とりあえず、A'sへの導入部分はこれにて閉幕、次回からA'sに重なってくるわけなんですが。
まぁ、本編どおりを期待しないようにしといてください。
いろいろラルが好き勝手蹂躙するのはもはや予定調和、避けられない未来です。
それくらいやらないと、リィンフォースアインが助けるのムズかしーんだもんさね。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/02/12
公 開 2009/09/11





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