『観測者』から送られてきたデータを元に、八神 はやて嬢が住んでいる家の方に向かっ手いるわけなんだが。
どういう訳か、この向かう先に前にピアス・レクオスが感知した不明の魔力反応が存在している。

「……間違いってのは、お前の事だから在り得ないよなぁ」
『Of course』

と、なると前に見かけた女の子が八神 はやてで、その周りにいたのがヴォルケンリッターだろうな。
古代ベルカの魔法なんてもう使ってる奴はいないから、リストアップできなかったのも頷けるか。

「やれやれ、頼むから事は穏便に進めたい所なんだけどなぁ……」















二次創作 魔法少女リリカルなのは
『Zufallige Begegnung』






















そうぼやきながら、軽く頭をかいて俺はそのまま目的地へ向けて足を速めた。
もちろん、片手には所謂菓子折りという翠屋謹製のお菓子セットを携えた状態で。
こっちの世界じゃ、こういうあいさつ回りには必須の代物なんだろ?
……え、違う? ま、いいじゃねーか。

「ここ、で間違いないか」
『Yes』

表札を見れば確かに八神と書かれていて、中には複数の魔力反応と人の気配。
資料に書かれていた人数と差異はない所を見るに間違いなく、勢揃いしてるって状態だろう。
後は、ここに踏み入れた時にそれがどういう反応になってくるかって事なんだが……

「まず、第一に初対面の人間が訪ねて来て素直に会えるんだろうかねぇ?」
『I don't know』

まぁ、なんとかなるでしょう。
こっちも魔導士であっちも魔導士、少なからず共通点があるって事でそっから切り崩してくのも無理じゃないはずだ。
……多分ね。
そう自己完結した俺は、インターホンを鳴らして、相手が出てくるのを待つ事にした。
さて、最初に出てくるのは誰だろうな?

「はーい、今行きますー」

微妙に、通常のイントネーションとは異なった発音が家の中から聞こえてきた。
それから少しの間を置いて、その扉を開けて車椅子に乗った少女が顔を出した。

「どちらさんで?」
「あー……なんと言えばいいか、想定するの忘れてた」

俺の顔を見て、訝しげに問いかけてくる少女に対して、第一声をなんと言うか考えていなかった事を今更ながらに思い出した。
始めまして、魔導士です。なんて言っても頭のおかしい人にしか見られないだろうなぁ……

「なんやのそれ? 新手の勧誘かなんかか?」
「や、それだけは違う」

さすがに、そう言ったモノと間違われるのは心外なので即座に訂正しておく。
まぁ、こうなってしまった以上、なるようになれと言った所だろう。

「とりあえず始めまして、俺はラインハルト・ヒューゲルと言う。これ、挨拶の時に渡すと言いと言われて持って来たお菓子だ、是非食ってくれ」

目の前に来ていた少女に菓子折りを手渡すと、何か驚いたような表情をしたが受け取って貰えた。

「わ、これ翠屋やん!」
「ん、知り合いがたまたま経営者の関係者でな。どうしたらいいかと訪ねたら包んでくれた」
「翠屋って、こういうんはやってないと思ってたわぁ」
「そうなのか? 確かにここの味は美味しいと思うが……コーヒーも絶品だし」

気付けば、翠屋談義を自然に行っていた。
当初の目的とは一切かすってもいないが、どうやら多少は警戒心を無くす事には成功しているらしい。
目に見えて少女から最初に感じられたトゲが取れたように感じられる。

「主? あまり長時間外にいては身体が冷えます」

少しばかり話に華を咲かせていると、家の中から声がしたかと思えば、桃色の髪を1つに束ねた長身の女性が姿を見せた。
服こそ違うが、資料にあったヴォルケンリッター烈火の将、シグナムだろう。

「あ、シグナム。丁度ええ、これヴィータにオヤツやって出したって」
「はい、わかりました……っ!」

はやて嬢から菓子折りを受け取り、ソレを渡した張本人であろう俺へと視線を移した瞬間、その眼が優しいモノから険しく闘いを感じさせるモノへと変化した。
それも、俺にだけ解るように敵対の意思を飛ばしてきてくれるというオマケ付きで。

「あ、この人な。ラインハルトさんゆーてこれ持ってきてくれたんよ。シグナムもお礼ゆーてな」
「俺の事はラルでいい、大抵知り合いとかにはそう呼んでもらってる」

本名を呼ばれたところで、注釈としてあだ名でいいと手振りを交えながら伝える。
するとはやて嬢は、自分が名乗っていない事を思い出したのか俺に正対するとちょこんとお辞儀して言った。

「ウチは八神 はやて言います。んで、こっちが遠縁の親戚のシグナム」
「……シグナムだ」
「始めまして」

身長の都合上、俺はシグナムを見上げるような状態だが、とりあえず顔だけには笑顔を貼り付けて無難な挨拶をしておく。
相手は変わらず険しい表情をしているが、恐らく今現在も念話で仲間に対して何かを伝えているのかもしれない。
そうでなければ、家の中にある魔力反応が強くなっていくはずないんだから。

「主、客人の対応は私がしますので、どうぞ先に中でお休みください」
「ん、ならスマンけどお願いするわ。ラルさん、後はシグナムに案内してもろてください」

器用に車椅子を反転させると、笑顔を見せながらはやて嬢は家の中に戻って行った。
そして、途中で前に見た金髪の女性に車椅子の取っ手を引いてもらいながら姿を消す。
今、はやて嬢を奥へと連れて行ったのが湖の騎士 シャマル。

「あぁ、丁寧な対応痛み入るよ」

それに入れ替わるように、赤い髪を後ろで纏めた少女が、剣呑を隠さない表情でシグナムの隣に立った。
この子が、恐らくだが鉄槌の騎士 ヴィータだろう。
確かに貰った情報と、姿形は一致しているな……

「……で、シグナム。コイツが今言ってた魔導士か?」
「あぁ、油断はするな。見た目こそ幼いが……相当な手練だ」

あー……どうやら、めんどくさい方向に念話が飛んでいたらしい。
恐らくだが、俺がどっかの……まぁぶっちゃけ管理局の手先の魔導士かなんかとして話が飛んでたんじゃないかと思う。

「それで……主に近づいた目的はなんだ?」
「ま、そう来るよなー……知らない魔導士が近づいて来たんだからねぇ」

ため息を付きながらも、両手を上に上げて敵対の意思はないという行動を取ってみる。
それでも相手は油断する事無く、俺がもし不穏な動きを見せれば即座に行動に出てくるだろう。

「目的と言っても、恐らくそっちからしたら言われても信じられるとは思えないんだが?」
「かと言って、その目的も明かさない人物を主にこれ以上近づけるわけにはいかんな」
「ごもっとも」

さて、こっからどうしたもんか。
とりあえず結果から言ってしまえば、はやて嬢への顔を記憶したし、相手へ俺のイメージもちゃんと出来ただろう。
ここまでで一個目の目的は達したわけなんだが……
まぁこの際だ、現状ヴォルケンリッターがどの程度行動可能なのか試させてもらおうか。

「とある筋から、闇の書に関して尽力してくれと依頼が来て、ソレに応え俺が来たと言ったら?」
「……なんだと?」
「てめぇ、なんで闇の書の事知ってやがんだ!」

どういう反応を見せてくれるかと思い、闇の書というキーワードを出してみたが予想以上に過剰とも取れる反応が返って来た。
あー……特に俺と対して変わらんくらいちんまい子の反応が飛び掛ってきそうなくらいになってるし。

「そんな訳で、そこら辺の詳しい話をして置きたいと思うんだが……はやて嬢を含めてその話は可能か?」

一先ず、飛び掛ってこられても対処できる程度の魔法対策をしておきながら、まだ冷静を保っているように見えるシグナムへと問答を続ける。
だが、シグナムは首を横に振ると横の子に負けないくらいの鬼気を出してきた。

「主は闇の書の事も、魔法のことも知らん。例え知っていたとしても見ず知らずの貴様を放置しておくと思うか?」
「まず在り得ないだろう。それに俺が今何か行動を起こそうとすれば、屋根に控えている存在が俺を拘束なりなんなりしてきそうだしな」

そう言って2人から視線を外し、屋根の上へと視界を移せばそこには青い狼が唸りを上げて俺を睨んでいた。
……あれが、ヴォルケンリッター盾の守護獣 ザフィーラか。
確実に、この4人が揃ってるって事は闇の書は起動しているな。

「そこまで解っていながら行動を起こさんとは……我らの相手をしても逃げ切る自信が在ると言う事か」
「まー、無理とは言わないけど。そもそも俺はお前らと敵対する為にこうして来た訳じゃないし」

俺への依頼は闇の書を救えという事であって、こいつらと敵対しろなんてのじゃない。
詰まる所、俺がこいつらに対して攻撃する必要性も、必要以上に警戒する必要もないってことだ。

「とりあえず、だ。俺を上げてくれるか何処かに移動するなりしないとはやて嬢が気付くぞ?」

大して長い時間って訳じゃないが、家に案内するには微妙に長い時間をこうしていたわけだ。
通常の神経の持ち主であれば、何かあったんじゃないかと不安になってこっちに戻ってこようとするだろう。

「……付いて来い。ヴィータ、お前は主に伝言を頼む」
「シグナム……」
「大丈夫だ、お前たちの将を信じろ。ザフィーラ、お前も一応来てくれ」
「心得た」

一瞬の間を置いて、シグナムは俺の横をすり抜けながら付いてくるように促した。
はやて嬢からは離して、俺の動向を窺おうって所かね?
別段拒否する理由がない俺は、その後に素直に従って付いていくことにした。

『……Master. Magic Reaction』

先頭をシグナムが、そして俺の後ろに青い狼が付いてくる状態で先導されている時、相棒からその報告が念話で響いた。

『There are two cats』
【……猫?】

こういうのもなんだが、相棒が猫と示す魔力反応は俺の記憶にある限りあの2人しかいないんだが……
不自然に見えないように周りを見回すフリをすると、確かに俺の視界の隅に辛うじてではあるが見覚えのある猫が2匹いた。
どうやら、相手は俺がこんな状態にあるのに驚いているようにも見える。

「どうした、逃げる算段でもしているのか?」
「いんや、こうやって出歩いて街を眺めてるなんてあんまりしてなかったからな」

俺の挙動を不審と取ったか、シグナムの問いに当たり障りのない回答をしてやる。
事実、俺は基本的に引き篭もって調剤とかしかやってないから、こうして街並みを見た記憶もない。
それにしてもなんであの猫姉妹ここにいるんだよ?
普段はおっさんの傍でなんだかんだやってるんじゃなかったか……
後で捕獲して尋問しちゃる。

「で、俺を一体どこまで連れて行こうってんだ?」
「もうすぐ、人の余り来ない広場がある。そこで話を聞いてやる」
「ふーん……話を聞くつもりはあるのか」
「……それも、貴様の対応次第だ」

茶化すように言ってやると、シグナムからではなく後ろから答えが返って来た。
うっわ、アルフとかユーノで多少耐性とかあったし、使い魔が喋るのは知ってるからそこまで驚かなかったが……

「案外、渋い声してんだな、アンタ」
「一体、どこに感心しているんだ貴様は」





































そして連れられてやってきました広場……っていうか広場じゃねーだろ、ここ。
過去になのは達と俺が始めて会った神社の境内。
人があまり来ないところっていうのは確かに納得できるっちゃできるが……

「それで、これから俺はどうなるのかな?」
「まずは、お前の話とやらを聞かせて貰おう」
「虚偽を含めば、即座に俺とシグナムで貴様を無力化させてもらうがな」

話を聞いてほしければ、実力でってならなかっただけ十分か。
最悪その場合を想定していなかった訳じゃないしな……
それじゃあ、しっかりじっくりと俺がこうして来た理由と言うのを把握してもらうとしますか。

「よーし、それじゃあ見てもらうとしましょうかねぇ」
『Device Mode』
「展開フォルダはFR-06571、今の俺が持ってるだけの闇の書のデータを表示するぞー」
『Yes, Sir. Application Start File No.FR-06571』

ピアス・レクオスをデバイスモードに移して空間に投影できるデータを可能数だけ乱雑に表示してやる。
唐突に展開されたデータを最初こそ驚いたように見た2人だが、すぐにデータの情報の真偽を確かめるべく読み進め始めていた。
……さて、この後の相手の行動はどういうのになるのやら?
暫く俺はやる事が無さそうだし、のんびりとさせてもらいますか。

「……ザフィーラ、どう見る?」
「確かに、我らの『記憶』にある情報とも一致する面は多々ある……」
「だが、この程度の情報だけで判断を下してしまえる訳でもない、か……」

記憶には無いが、何か引っかかる物を感じているのか、2人は念話を使うのも忘れて口に出して相談を始めている。
どうでもいいけど、そろそろ俺に対する対応とかなんか決めてくれないと眠くなってしょうがないんだが……

「俺が今持っている情報はそのくらい、今回の顔合わせが済んだら別口でまた情報集めするつもりなんだが」

やっぱり無限書庫も漁って見た方が良いよなぁ……
相棒の検索でも大まかなのは出るが、書物として字が媒体となってるのまでは検索できないし。
やっぱユーノあたりに渡りをつけて見る必要はあるだろう。

「確かに、お前が今提示した情報は我らヴォルケンリッターの持っている情報と比べて穴がない」
「だが、それだけで貴様を信じるに値するかどうかは判断できん」

最初に比べて些か敵対心を感じさせなくなった2人だが、どうにも一手足りないらしい。
あー、あと俺が今できる事と言えば……
うん、シグナム達と戦って俺がその気になれば実力行使だってできるぞってのを証明するくらいしか無いな。
車椅子に乗ってたはやて嬢を治してみせるってのもあるが、原因を調べるまで完治させれるかはわかんないし……

「そこでだ、我らも本意ではないが……私と一騎打ちで勝負して貰おう」
「……力で言う事を聞けってのは、あんまり好きじゃないんだけどなぁ」

世の中、何をするにもラブ&ピースだろうさね?
そう視線を込めて青い狼のザフィーラへと視線を向けてみたが……

「将が決めた事だ、それでシグナムが納得するのであれば我らもソレに従おう」
「……さよで。つまり、言う事聞いてほしければ戦って示せと?」
「あぁ、その方が口であれこれ言うよりは解りやすかろう?」

まぁ、良いんですけどねー。
当初想定していた無駄な戦闘を行うって訳じゃないんだから……
それでも、少なからずめんどくさいってのはあるんだが。

「それじゃ……やりますか?」






















      〜 あとがき 〜


色々方向性に模索しながらも、好き勝手始めるA's編。
もう原作はほとんど絡まないというか、好き勝手やるのでご了承ください。
キャラの台詞が一部曖昧なので一人称や個人名称の言い方に突っ込みあればどうぞ。

あと、予想以上に関西弁ってどうやっていいかわかんないね?
それっぽくなるようにはするツモリだけど、絶対おかしいとかあると思われる。
そんな時雨は道産子なもので……
関西圏の方、ここはこういう言い回しの方がいいよとかあったらおねげーします。


ちなみに、A'S編は翻訳使いつつドイツ語で行ってみようと思う。
A's編1話のタイトルは「エンカウント」。
          それでは、このへんで。


                          From 時雨


初書き 2009/10/21
公 開 2009/11/20





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