穏やかな朝の日が射し込む日曜。
少し寂れた、旧日本邸のような佇まいを見せる一軒の家。
その建物の一角、鍛錬場の様な場所から、人の息づかいが聞こえていた。


「…フッ……フッ……フッ………」


そこに、彼はいた。
オレンジ色の髪を持つ青年が。


「……997…998…999…」


今、俺は見て貰えば判ると思うが、素振りをしている。


「……っ1000!」












日常の、始まり












聖杯戦争。
あの血塗られた、冬木の街で起きた大事件。
アレ以来、俺は自己の鍛錬をより励むようになった。
魔術は元より、それとは別に肉体としての鍛錬を。


「っはぁ……毎日やってるとは言え、なかなかしんどいな。」


あの時の俺は、どうしようもないほど無力だった。
俺には、人に誇れる程の身体能力もない。
魔術師としては半人前以下で、当然使える魔術もほとんどない。
出来るモノといえば、「強化」、「投影」くらいか。
だが、そんなモノでは魔術師として生きていくなんて不可能だ。


「さて、次は魔術の方か。」


だからこそ、俺は自分自身を鍛える必要がある。
俺は、『剣』だ。
ならば、鍛えれば鍛えるほど、その輝きは増していく…ハズだ…
だからこそ、俺は自分を鍛え続ける。
これから先、どんなことが起こっても、俺が、俺の正義を貫くために。


同調・開始トレース・オン


その場で、持っていた竹刀を解析、その存在を強化する。
聖杯戦争を越えて、一応俺にも成長の兆しは見えている。
その1つがコレ。強化の成功率の上昇だ。


「ふぅ……展開速度以外はまぁまぁって所か…」


どう足掻いても、俺は魔術師としては落ちこぼれ。
でも、それで構わない。
なぜなら、俺は…
……魔術使いなのだから。


「まぁ、アルトリアとか遠坂には止められてるんだけどな…」


目を閉じて、意識を自分の内へ内へと導く。
俺の身体にある、全ての魔術回路へと、魔力を流す。







投影・開始トレース・オン






――――体は剣で出来ている
――I am the bone of my sword.








思い描くのは、最も縁の深いあの剣。
俺の剣となり、最後の最後まで戦い抜いてくれた人が持つ。







血潮は鉄で 心は硝子
Steel is my body, and fire is my blood.








星々が鍛え上げたと言われる伝説の剣。
だけど、それはこの身を全て賭したとしても導き出せないだろう。







幾たびの戦場を越えて不敗
I have created over a thousand blades.








ならば、俺が投影するのはもう一振りの剣。
彼の時代、王を選定すると言われていた、あの黄金の剣を。







ただの一度も敗走は無く
Unaware to Death.








身体の中に熱い鉄の棒が押しつけられるような、そんな幻視痛。
だが、それを無視して俺はさらに続ける。







ただの一度も理解されない
Nor known to Life.








回路が限界を迎え、悲鳴を上げる。
だが、俺は止まらない。







彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う
I continue forging a sword while tasting pain of eternity.








悲鳴を上げ続ける回路に、限界以上の魔力を注ぎ込む。
まだだ、俺の限界はこの先にある!







故に、生涯に意味は無く。
It is the only method that I can do.








足りない部分があるのなら…それは俺自身を使って補おう。
そう、俺は…俺の身体はコレのみに特化した魔術回路なのだから!







その体は、きっと……
Therefore I execute it ……












「そこまでです!シロウ!!」
「っぐぁっ!」


唐突に響いた、凛とした声。
それに驚いて集中を乱したせいで、魔術が途中でキャンセルされてしまった。
……まぁ、暴発しなかっただけマシなんだろうか……?


「セ、セイバー……」


そこに立つのは金色の獅子…
古の時代の騎士王、アーサー王こと、俺の最愛の女性、アルトリアだった。
アルトリアは、こめかみを押さえるように、眉間に皺を寄せながらこっちを睨んでいる。
あー、しまった……修行の方にばっかり精神が行ってて、周囲の注意を怠りすぎたらしい……
よりにもよって、アンリミテッドブレイドワークスの詠唱を見られるとは……


「シロウ……前々から言っていたはずですが…貴方の魔術は自身に負担が掛かりすぎる、多用は控えろと。」
「い、いや、それはわかってるよセイバー。だ、だけど鍛錬としてやるくらいは……」
「問答無用!」

ビシッ!

「いてぇ!」
「それ以上に、言うに事欠いて、セイバーとは……わ、私の事はアルトリアと呼んで欲しいと言ったはずです!!」


そう顔を赤くして捲し立てる彼女を、場違いな事に可愛いと思ってしまったわけで。


「そ、それも、前の癖というかなんというか……もしかして、そっちの方が怒ってるか?」
「それこそ問答無用ですっ!」 「いやいや、言葉通じてないからっ!」


あの戦いの後、セイバー……アルトリアは一度、座に戻った……らしい。
アルトリアが座に戻ってからの事は良く分からないが、どうにもお抱え魔術師だったマーリンが一枚噛んでいるらしい。
その時はアルトリアが戻ってきたことで一杯一杯になって細かく聞いていなかったっていうのもあるかもしれないんだが……


「以前から思っていましたが、シロウは自分を蔑ろにしすぎる!その歪な性根、叩き直してくれます!!」
「と、同調・開始トレース・オン!」

バシーンッ!

「……っ!」
「あ、アルトリア…さすがにこの勢いは洒落になってないぞ……」


突発的に強化を実行。
持っていた竹刀を鉄パイプ程度まで強化したハズなのに、アルトリアの一撃はそれを曲げるくらいの力で撃ち込まれていた。
いや、この一撃喰らったら流石の俺でも死ぬから。


「この私の一撃を受け止めますか……良いでしょう、このまま鍛錬を始めましょう!」


うっわ、不用意に止めるんじゃなかった!
アルトリアの目が爛々と獲物を見つけたライオンみたいになってる…
こ、このままじゃ拙い……こうなったら……


「くそ……受けてたつぞ、アルトリア!!同期・開始トレース・オン
「はぁっ!」

バシッバシッバシッ!

「クッ……」


さすがは騎士王、長年の蓄積から振るわれる剣技は、俺じゃ足元にも及ばない。
だが、アルトリアにはアルトリアの……
そして、俺には俺の、たどり着ける先があるっ!!


「……その動きは……アーチャーの……?」
「あぁ……奴は俺の1つの可能性。だから、奴の剣技は、俺が辿り着くこともできる境地のハズなんだ。」


そう、あの赤い弓兵の剣技。
英霊同士の戦いでも、見劣りすることの無かったあの剣技。
それは、俺自身が辿り着いた境地だ。


「ならば、俺があの剣技を使えない道理はないっ」


アルトリアの攻撃を全て受けるだけでなく、必要であれば捌く。
幾度かの撃ち合いをして、徐々に俺が押され始めた。
それでも、負けまいと必死に着いていく。


「なるほど、考えましたね……ですが……まだ甘いっ!!」


アルトリアがそう言うと、動きが一段加速した。


くっ……疾い!

バシーン!

「それを、己の力にするためにも。これからも修行、ですよ。シロウ。」


目の前に突きつけられる竹刀。
俺の竹刀は、アルトリアの速度を上げた一撃に飛ばされている。
あぁ、やっぱり俺はまだまだなんだな。


「そうだな、アルトリア。」
「ですが、なかなか上達しているようですね。剣技があの人の模倣というのがいまいち気に入りませんが……」


剣の師匠は私なのに……とか小さな声で呟いているアルトリアを見て、おかしくなって少し吹き出してしまった。
今ここに彼女がいる。
あぁ、なんて幸せなんだろう。


「何で笑っているのですか、シロウ。」
「いや、幸せだなってな……さて、そろそろ朝ご飯にしようか。」


そう言った瞬間騎士王の目がまた光った。


「それはいい、シロウ今朝の朝餡はなんでしょうかっ!」
「そうだなぁ……今日は珍しく普通の日本食にでもしてみようか。」
「あぁ……楽しみです。」


そう言って、竹刀を戻し、鍛錬場を出る。
外に出ると、眩しい朝日が空から降り注いでいた。


「……あぁ、いい天気だ……」
「……えぇ、今日も良い日になりそうです。」
「あぁ、そうだ、大事なことを忘れていた。」
「……なんですか、シロウ?」














──── おはよう、アルトリア ────




















      〜 あとがき 〜



と、いうわけで、学友に刺激されて書き始めてみましたFateです。
初めての作品ということで、様子見半分な作品なんですが、そこそこのモノができた…かと。
時期は聖杯戦争後、その他は細かく決めてません。
ただ、やはり四郎とアルトリアには幸せな日常を演じて欲しい、そう感じて書きました。
人格が違うとかそう言う突っ込みは聞こえませんっ☆ミ

とりあえず、次は凛あたりを目指して書いてみようかなぁと思います。。
次も、よろしければお付き合いください。



          それでは、このへんで。


                          From 時雨  2006/04/02