簡単に言えば、セイバーもしっかり現界していたりする桜END後です。 勿論ライダーもいます。桜のサーヴァントとして、現界してます。 と、いうか根本的に平和です。ある種、IFによる異世界です。 ストーリーにこだわりのある方は各自責任でご覧ください。 それではどうぞー 「先輩、ちょっといいですか?」 「ん、桜か、どうしたんだ?」 珍しく土蔵で魔術の鍛錬をしないで、かと言って道場で鍛錬をしていたわけでもなく。 良くわからないけど、ただそうしたくなって縁側でボーっとしている時。 俺から半ば強引に台所を奪っていった桜が、申し訳なさそうな感じでそこに現れた。 「実は……コレなんですけど……」 そう言って桜がおずおずと差し出してきたのは…… 「あぁ、ついに寿命が来たのか」 「はい……カボチャを切ろうとしたら……折れちゃいました……」 刃の折れた包丁だった。 「そんなに申し訳なさそうな顔をしなくて良いぞ、桜」 「でも、こうして私が折ってしまった訳ですし……」 本当に申し訳なさそうな顔をするなぁ…… この包丁はかなり昔から…… そう、爺さんがまだ生きてたときからあった物だ。 それだけ長い期間、ウチの食卓を支える為の1役を担っていてくれた1品だ。 さらに、聖杯戦争以降では、ウチの大食いの騎士王の食卓を支えるために奮闘してくれていたしな。 「随分昔から使っていたからな、研いだりしてはいたけど、そろそろ寿命だと思ってたんだ」 ──だから、気にすることないぞ。 そう言って笑って言っても、桜の顔はいまいち晴れなかった。 ……弱ったなぁ、そんなに思い詰められた顔をされると弱いんだが…… 「そうです……先輩、買い物に行きましょう!!」 俯いて少し何かを呟いたかと思うと、唐突に顔を上げて、桜がそう提案してきた。 「買い物って……包丁を買いにか?」 「はい、包丁がないと不便ですし、今日も藤村先生はいらっしゃいますから」 「あぁ、そうか。藤ねぇが来るなら包丁は必須だなぁ……量だけは食うから、あの虎」 ──虎って言うなー!! 幻聴が聞こえたような気がするけど、気にしないでおこう。 そうだなぁ……包丁を買いに行くとなると……やっぱり新都かなぁ? 「まぁ……そしたら買い出しついでに行くとするか?」 「……はいっ!」 とりあえず、今日の晩飯は純和食をベースに作るとしようかな。 確かチラシで魚が安いって書いてあった気がするし。 桜を伴って、新都にある総合百貨店に来たのはいいんだが…… なんだかなぁ…… 「うーん……」 「どうしたんですか……先輩?」 確かに総合百貨店と銘を打つだけあって、品揃えは大したもんだと思う。 一般の万能包丁から刺身包丁、肉斬り包丁、出刃包丁などなど、多種多様にある。 だけど、なんて言えばいいんだろう……? 「今まで使ってたのに愛着が沸きすぎてたのかなぁ……手に馴染む感覚がないや……」 「そぅ……ですか……」 また、目に見えて桜が気落ちした様な雰囲気を纏い始めた。 あ、やばい。 「まぁ、使ってれば慣れるんじゃないかな……?」 物は時間をおけば愛着も使い勝手も慣れるだろうしな。 「ですが、できれば手に馴染む形のを探した方が……」 「そうだなぁ、ここにあるのだったらヘタに買わない方が良い気がするしなぁ」 でも、今買わないと晩ご飯の支度に影響が出るか…… うーん……どうしたもんかなぁ…… 「せ、先輩?」 「ん、どうした?」 桜が、何か考えたかと思うと、こっちに近づいてきて耳元で小声で言ってきた。 「あのですね……投影って使えないんでしょうか……?」 「あ……その手もあるのか……」 すっかり抜け落ちていた。 確かに投影で前使っていた包丁を投影すれば、馴染みの感覚を気にする必要はないか。 でも、それを使うとなるといろいろと制約がなぁ…… 「問題は……セイバーや遠坂がなんて言うか……」 「そうですね……」 『はぁ……』 問題は、ウチの騎士王と赤いアクマだ。 あの2人は、俺の魔術に関しては慎重というか、寧ろ使用を禁止しろって言うような状態なんだよな。 確かに、俺の魔術は人体……俺の身体に影響が出るからなぁ…… 昔に比べて多少髪の毛の色素が減ってたり、皮膚が少し黒くなってたりするけど…… そこまで危険視するほどじゃないと思うんだが…… 「とりあえず、今は晩ご飯の材料を買って帰ろう。あとで遠坂達には交渉してみるとするよ」 「わ、私も協力しますっ!」 「あぁ、ありがとう、桜。さて、材料の目利きしないとな、協力頼むぞ」 「はいっ!」 さて、まずは……鮮魚コーナーからだな。 タイムセールの時間が勝負時だ。 ただでさえ、ウチのエンゲル係数は高いんだから、こういった面で削減していかないと。 「さて、行くか」 行くぞ、タイムセール。商品の貯蔵は充分か! あの後、とりあえずタイムセールに勝利したのは良いんだが…… いかんせん買いすぎた。 カートに食材が山盛りになっている。 さすがに、桜にそこまで重たい物を持たせる訳にもいかないし…… 俺が持つにもちょっと限界を越えてるなぁ…… 「買いすぎたな……」 「そ、そうですね……」 セイバーを呼ぶか……でも、今はレイラインは繋がってないし…… 遠坂を呼ぶなんて以ての外だし…… うーん……タクシーでも呼んで帰るか……? 「仕方ない、タクシーでも使うか……」 余計な出費になりそうだが……背に腹は変えられないか。 「あ、そうだ。先輩」 「ん?」 いざ、タクシーを呼ぼうとカートを押しながら店の入り口に戻ろうとした時。 またしても、桜が声を上げた。 「ライダーを呼びましょう!ライダーなら私がレイラインを通して連絡が取れますし」 「でも、ライダーも自分のやりたいことをやってるかもしれないぞ?」 「大丈夫ですよ、強制じゃなくて、来れるならって言う風に言いますから」 「でも、ライダーも桜と同じ女の人じゃないか、それに重たい荷物を持たせるのもなぁ……」 確かに、ライダーのスキル、怪力は今の俺の財布の状況に取ってはとてつもなく助かるんだが。 それでも、女の人に重たい物を持たせるっていうのは俺が納得できないというか…… 英霊って言ったってライダーはこっちの世界でそこそこ自分の楽しみを見つけている見たいだしな。 「スマン、一応頼めないか聞いてみてくれ。ちょっとでも用事があるならタクシーで帰ろう」 「はい、それではちょっと聞いてみますね」 「あぁ、頼む」 ──お任せです! そう言って微笑んだ後、桜は目を閉じて意識をラインに集中させる。 その際、俺は周りから見えないように桜の身体を自分の身体で隠すようにする。 これで、万が一でも周りから見られる可能性を減らす事も忘れない。 「…………連絡が付きました。特にやることもないそうなので来てくれるみたいです」 「そうか……それは助かる」 本当に助かるなぁ、タクシー代もバカにならないだろうし。 タクシー代が浮く分、ライダーの好きな食べ物でも買ってあげようか。 お茶受けに最適などらやきなんてどうだろう? 「とりあえず、ライダーが来るまでにちょっと買い物してくるかな」 「何か、買うんですか?」 「自分の時間を使ってライダーが手伝いに来てくれるんだ、お礼にどらやきでも買っておくかなってね」 「あ、それはいいですね、ついでにお茶菓子も買っていきましょうか」 「あぁ、ライダーが来たら教えてくれな。そうしたら俺達が入り口に向かおう」 さて、買いに行くとするか…… 一応セイバー達の分も買っておこう……争いが起こる気がする…… 「……あ、先輩。ライダーが来てくれたみたいですよ」 「ん、そうか。なら入り口に向かおうか」 「はい」 「これはまた……随分買い込みましたね、サクラ、シロウ」 「いや、面目ない……」 「ごめんね、ライダー」 「いえ、構いませんよ。どうせ日課の散歩もちょうど終わった所でしたから」 すまなそうな顔をした俺達を見たライダーは顔を僅かに綻ばした。 俺達を見る目が優しい。本当に気にした様子もないので俺はコッソリ胸をなで下ろした。 「それじゃぁ、帰ろうか。桜、ライダー」 「はい、先輩」 「そうですね、行きましょう。セイバーがそろそろ餓え始める頃でしょうから」 「はは、違いない」 因みに、荷物を持った時の割合は、全体を10として、俺が3、桜が1、ライダーが6だ。 もう少し力を付けるトレーニングも入れようかな…… サーヴァントには敵わないけど、もう少しくらいは…… そんなことを密かに誓っていたりする。 「お帰りなさい、シロウ、サクラ、ライダー」 「あぁ、ただいまセイバー」 「ただいまです、セイバーさん」 「今晩の夕食の材料ですので、セイバーも奥に運ぶのを手伝ってください」 「分かりました、お手伝いしましょう!!」 夕食というキーワードを聞いた瞬間、 これは比喩じゃなくて本当に…… 颯爽と俺と桜の荷物を持つと、ライダーと共に台所の方に歩いていった。 やっぱりサーヴァントは基本スペックが違うなぁ…… 「あぁ、そうだセイバー、遠坂はどこにいるかわかるか?」 「リンですか? リンならば居間でテレビを見ているハズですが」 「ん、わかった。ありがとう。食材はいつも通り冷蔵庫に入れておいてくれ」 「分かりました」 セイバーは頷いた後、台所へと消えた。 「あ、ライダー」 「なんですか?サクラ」 「袋の中にどらやきが入ってると思うから、あとで食べて」 「荷物持ちのお礼だよ」 そう言って俺と桜が笑顔を向けたら、ライダーはちょっと驚いた顔をした後、笑顔を見せてくれた。 良かった、どらやきで良かったみたいだ。 多分他のでも問題はないんだろうけどな。 「そうですか……それなら後で頂きます」 「他にもお茶菓子が入ってるから、それらはセイバー達と食ってくれ」 「わかりました」 さて、赤いアクマと対決してくるとしますか。 居間、だったよな? 「あら、お帰り士郎、桜」 「ただいま」 「姉さん、ただいまです」 すっかりウチの住人になってるなぁ、遠坂のヤツ。 テレビを見ながら横になって見ているのは行儀が悪いぞ。 まぁ、今更だろうが…… 「さて、遠坂、早速だが」 「なによ?」 「これから、投影使うが、見逃してくれ」 ドンッ! 「あら、耳が悪くなったかしら、衛宮君、もう一度言って貰えるかしら?」 赤いアクマ、降臨。 俺が言いきったと同時に殺気を感じて、伏せたから良いモノの。 避けてなかったら顔面にガントを喰らうところだった…… 「ま、待て!ちゃんとした理由があるんだっ!!」 「ね、姉さん。私が言い出したの!先輩の説明を聞いてあげて!!」 「……桜が?」 とりあえず、俺が言っても聞いてくれなさそうなので、桜に説明を任せて俺はお茶を入れに行く事にする。 だって、下手な事言うとガントが飛んでくるし…… 「あ、シロウ。荷物の片づけは終わりましたよ」 「お、ありがとうセイバー。晩ご飯は期待しててくれ、今日は純和食でいくぞ」 「それは素晴らしい!シロウの作る和食はとてもとても好ましい」 本当に御飯の話になったらセイバーは生き生きとしてるなぁ…… なんていうか、戦いとはまた違った意味のたくましさを感じさせる。 「はは、期待に添えるようがんばるよ」 「はい、それでは私は時間まで道場にいます」 「わかった、料理ができたら呼ぶよ」 「それでは」 セイバーが道場に向かった後、お茶を入れて居間に戻ると、遠坂と桜が談笑していた。 話はついたのかな? 「桜、話はついたのか?」 「あ、はい。今回みたいに小さな投影なら見逃してくれるみたいです」 「だって、仕方ないじゃない。どうせなら手に合う物で調理した方が効率だって全然違うんだから」 ──ただでさえ一杯食べる人がいるんだからね。 そんな風にぼやいていたが、顔は笑っている。 多分セイバーの食べる姿を想像してるんだろう。 しかし、さすが我が家の中華担当、よく台所事情を分かっている。 「そうだな、なら桜や遠坂も愛用の包丁があって、それになんかあったら言ってくれな?」 「そうね、その時は頼もうかしら。勿論、万全の準備をしてね」 「あ、私は今度お願いしてもいいですか?」 よし、一番の難題だった赤いアクマの許可はこれで取れたな。 それなら、晩ご飯の支度もしなきゃいけないし、パパっと始めますか。 「なら、始めよう…… 思い描くのは使い慣れた、長年を厨房で共にしてきた俺の 目を瞑っても問題なくイメージできるそれを、魔術回路に魔力を流し、現実に表す。 あぁ、やっぱり概念武装とかと違って普通の包丁だから投影が楽だなぁ…… 「 投影を終えた俺の手の中には、ほぼ新品と変わらない、だけど手にしっくりと馴染む包丁があった。 うん、久々にやったけど身体に異常もないし……できた物も問題ないな。 「先輩、すごいですっ!」 「相変わらず……投影だけはすごいわよね……」 「まぁ、俺のこの身体がそれのみに特化した魔術回路だしな……」 桜は、本当に自分のことのように俺の魔術に関して喜んでくれたり、諌めてくれたりする。 遠坂もなんだかんだで心配してくれてるんだよな。 さて、相棒も還ってきた事だし、調理を始めますか。 今日はちょっと豪勢にいくぞ。 作った料理は、なかなか見栄えも良くできたと思う。 それを、セイバーはいつも通り頷きながら黙々と食べ、藤ねぇは猛烈にかっこみ。 遠坂はこれは勝てる、これは負けるなんてブツクサ言いながら食べてるし。 ライダーと桜はどれが好みかなんて話し合いながらのんびり食べていた。 全体的にかねがね好評だったようだから良かった。 ちょっと自信もあったしな。 翌日、桜には万能包丁をちょっとアレンジしたヤツと、遠坂には中華包丁を要求されたのは愛嬌だろう。 これで、衛宮家の食卓を預かる調理人達に専用の武器ができたのは心強い……と、思う。 ただ、俺も負けないように精進しよう……洋食で桜に完璧に負けたしな…… まぁ、なんにしても…… 「これから、またよろしくな、俺の包丁」 俺の手の中で、包丁が返事をするように光ったような気がした。 ──でもな、遠坂。いくら何でも投影で作った物で商売しようとするもんじゃないぞ? ──それ、時計塔とかに睨まれるからさ。 〜 あとがき 〜 基本的にほのぼの作品のSS書き、時雨さんですこんばんわ。 とりあえず、アルバイト中、調理している時に浮かびました。包丁ネタ。 実際使ってると、包丁って結構デリケートというか、消耗?が激しいですからねぇ。 でも、士郎がいれば刃物の調達には事欠かないって感じですよね。 それに応じてなんていうか、リンが絶対商売企みそうだなぁとか思いましたw 一応このお話のヒロインは桜って事で……いいんだろうか? まぁ、一応桜END後なのでそう言う風に思ってください。 こんな平和っぽぃ話もあっていいですよね?ね? それでは、このへんで。 From 時雨 2006/04/13 |