人間、若気の至りという言葉があるとおりに、ついつい若さのせいにしつつ自分をごまかし、普段ならばやらないようなことをやってしまうものだと思う。
だから、俺がこんな事をしてしまったのも、その若気の至り、若さゆえの過ちだと思いたい、信じたい、頼むから。


投影・開始(トレース・オン)














存在の在り方














俺の全身にある、全ての魔術回路の撃鉄を落とすイメージ。
それと同時に、魔術回路に限界まで魔力を注ぎ込む。


――――体は剣で出来ている
――I am the bone of my sword.


いくらこの身がソレに特化したモノだとしても、今の俺の魔力量では顕現することは難しいかもしれない。
だけど、聖杯戦争が終わってから、俺は何もしていなかったわけじゃない。


血潮は鉄で 心は硝子
Steel is my body, and fire is my blood.


遠坂に魔術の基礎を改めて教わり、微笑ながらも魔力量は上がってきている。
それに、精神面の鍛錬にはセイバーが協力してくれている。


幾たびの戦場を越えて不敗
I have created over a thousand blades.


それでも、足りないのなら他所から持ってくるのが魔術師の基本だ。
だけど、それを遠坂やセイバーから貰うわけにもいかない、あの二人にばれたらきっと地獄の折檻コースが待っている。


ただの一度も敗走は無く
Unaware of loss.


ならばどうするか、簡単なことだ。
自身の身体を代償にすればいい。


ただの一度も理解されない
Nor known to Life.


自分が諦めなければ、限界なんてモノは存在しなくなるのだから。


彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う
I continue forging a sword while tasting pain of eternity.


全身の魔術回路が悲鳴を上げているような錯覚。
視界は歪み、立っているのか倒れているのかすら分からなくなる程の痛みが身体を襲う。


故に、生涯に意味は無く。
It is the only method that I can do.


だけど俺はそんなものを気にしない。
さぁ、幕を上げよう。
これが、俺の内なる世界だ。


その体は、きっと剣で出来ていた。 
Therefore I execute it "unlimited blade works".


固有結界・無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)
俺の心象風景を写したそれは、俺が自力で到達すべき道の一つ。
過去に、俺の成れの果てとなった男が使っていたモノと同じ。


「……っ!さすがに、辛いな」


俺一人の身で顕現させていられるのは、せいぜい10分ほどがせいぜいだろう。
所詮エミヤ・シロウという器の中にある魔力の量など底が知れているのだから。


「――――っ!?どういうことだ、これは……」


軽い眩暈があったが、すぐに治まり、改めて自分の心象世界に目を向けてみたが、すぐに違和感を感じた。


「空が……青い?」


俺の成れの果ての男が使用していた時、そして、俺が聖杯戦争で使った時、そのどちらも世界は赤く染まっていたはずだった。
赤く染まる空と大地、そして果て無く刺さった剣の墓標……
それが、無限の剣製であり、俺の心象風景だったはずだ。
だけど、今の世界は全てが変わっていた。


「これは……いったい」


変わらず、墓標のように大地に突き刺さった剣はある。
だが、その大地は緑に覆われ、剣にはツタが軽く巻きついていた。
赤かったはずの空は、青く晴れ渡り、とても空気が穏やかだった。


「――――なるほど、コレが今の貴様か」
「!?」


唐突だった。
後ろから、忘れたくても忘れられない声が聞こえてきた。
聖杯戦争が終わって、消えたはずの存在の声が。


「……アーチャー」
「久しいな、エミヤシロウ」


なぜ、ここにいる。
そう問いかけたいはずなのに、できなかった。
またいつかのように戦うことになるのかと思い、臨戦態勢に入ろうとしたが、それは予想外の言葉で止められた。


「そう身構えるな、今のお前など殺す気にもならん」
「どういうことだ」


奴の目的は、俺という存在の抹消。
少なくとも、聖杯戦争中はそれが目的だったはずだろう。


「今の貴様の存在はエミヤシロウであり、エミヤシロウではない。そんなお前を消したところで、意味などあるわけがなかろう」


俺が、俺じゃない?


「貴様は、すでに理想を追ってはいるが、渇望してはいない。……いや、それすらも上回る別のモノを追っているのか……それもよかろう」


何に納得したのか想像もつかないが、アーチャーはひとしきり呟いていたかと思うと、自己完結にでも至ったのか、俺に背を向け歩き出した。


「……これだけは言っておいてやろう、エミヤシロウ。今のほうが貴様にはお似合いだ。せいぜい、理想ではなく、現実に溺れるがいい」


そして、アーチャーの居た場所に炎が湧き上がったかと思えば、ソレは一瞬で消え、アーチャーの姿は影も形も無くなっていた。


「……何が言いたかったんだろうな」


結局、奴が何を言いたかったのかはわからない。
だが、俺の心がそこまで苛立たなかったのはどういうことか。
奴が言ったとおり、すでに俺は理想を追うモノ(セイギのミカタ)ではなく、現実を走るものに変わったのだろうか。


「……っ!?限界、か」


俺の魔力の限界が来たのか、世界が元に戻っていく。
崩壊する心象風景の中で、俺はただ呆然と立ち尽くしていた。








「……さて、衛宮くん、言うことはあるかしら?」
「……私にも慈悲の心はあります、言い訳くらいは聞いてあげましょう、シロウ」


……忘れていた。
アーチャーの出現ですっかり失念していたが、俺がこんなことをして、二人が黙っているわけないんだよな……
元の世界に帰還した俺が最初に見たものは、怒り心頭といった雰囲気をかもし出す赤いアクマ(遠坂)と、金色の獅子(セイバー)だった。
はは、俺、死ぬかもしれない。


――――せいぜい、現実に溺れるがいい。


少なからず、奴の言っていたことがこんな形でわかってしまうのは、喜ぶべきか、悲しむべきか。
……いいさ、せいぜい現実とやらに生きてやろうじゃないか。


















「セイバー、遠慮なしよ、その曲がった根性叩き直してやりなさい!」
「了解しました、リン。では、シロウ、覚悟はいいですね?」



















この恐怖から生き抜けたらな。





















約束された、勝利の剣!(エクスカリバー)
「って、それはさすがにあり得ないだろ!?」





















生き、抜けたら……な。




















      〜 あとがき 〜


士郎の心象風景を変えたくて書き上げました、そんなお話です。
なんていうか、凛とセイバーがいればきっと士郎の無限の剣製はあんな風景にならないんじゃないかなーとい希望を込めてみたり。
まぁ、やっぱり思いつきなんですけどねっ!

とりあえず、アチャを出したのは心象風景で座と繋がったりしないかなーとか思い説明キャラとして書きました。
うん、説明キャラが出ると楽だよね。
こんな扱いでスマン、アーチャー。


          んでわ、それでは、このへんで。


                          From 時雨  2007/03/27