── 線ガ見エル ──







あぁ、そうか。
とっくの昔に俺は壊れていたんだ。
「遠野志貴」という存在は。







── 万物ノ、コノ世ニ存在スル物ノ死ノ線ガ ──







混沌と呼ばれたネロ・カオス。
アカシャの蛇と呼ばれたミハイル・ロア・バルダムヨォン。
この世界に存在しているモノに、等しく存在する「死」







── 世界ニ死ガ満チテイル ──







俺を殺したいか、化け物。
いいだろう。














── さぁ、殺し合おう ──



















志貴


















「はい、カーット」
「……ねぇ、琥珀さん。やっぱコレ、撮らなきゃダメなの……?」
「えぇ、是非志貴さんの勇姿を画像に収めようと思いまして」


今までの前降りはなんなんだって思うだろう。
実際、俺もそう思ってるし。
ここ、遠野家。その敷居には、現在、ある意味最強のメンツが揃っていた。


「秋葉も、コレ撮るのに賛成なのか……?」
「……えぇ、まぁそういう余興があってもいいんじゃないかと思いまして」


遠野家当主、そして人外の血を持つ俺の妹、秋葉。
言い方は難しくしているが、かねがね撮ることには賛成している模様。


「……先輩も?」
「そうですね、遠野君の格好いいところ見せてくれるんでしょう?」


ヴァチカンに存在する、埋葬機関第七位、『弓』のシエル先輩。
純粋に楽しんでいますって顔してこっちを眺めている。


「……アルクェイド…は言わなくてもいいや」
「えー、なんでよ志貴ー」


吸血鬼の真祖、その姫君のアルクェイド。
お前は見てて判りやすいんだよな。


「だって、純粋に楽しんでるだろ」
「うん」
「志貴様、次はアルクェイド様との模擬戦をしていただきます」
「翡翠……君もか……」


遠野家付きメイドである翡翠。
いつも通り表情の変化は乏しいが、なんていうか雰囲気が絶対楽しんでる。


「さぁさぁ、志貴さん。観念してくださいな」
「……はぁ……わかったよ、琥珀さん」


そして、この場にいる誰よりも、明らかに趣味全開ですって顔をして撮影にいそしむ人物。
遠野家付きの侍女、琥珀さん。
このメンバーを前にして、俺という存在は極めて弱い、としか言えなかったりする。


「……なんだかなぁ」


そもそも、事が起こった発端は俺にある、と言ってもいいのかもしれない。
過去、この街で起きた吸血鬼事件。
それにことごとく関わった俺は、人生でもこれ以上ないってくらいのいろいろな経験をしたんだと思う。
人外との出会い、命を懸けた本当の殺し合い、親しい人との別れ。
そんなことがあったという事を思い出して僅かに顔に出していたある日。








── 丁度良く、その現場を琥珀さんに見られた。








その後、琥珀さんにより強制尋問会が始まり、今まで起こったことを根ほり葉ほり聞かれ。
結局アルクェイドや先輩達も巻き込んで、この撮影を思いつく事になったらしい。
尋問されてたときの記憶がいまいちあやふやなのはなんでだろう……
そのちょっと前に琥珀さんが素敵な笑顔で何か持っていたような……
……注射器?
……やめよう、思い出すのは。


「さー、志貴。始めましょうか♪」
「アルクェイド……一応言っておくけど、これは死合いじゃなくて、仕合いだからな?」
「そのくらいわかってるわよ、それに、私が志貴を殺すわけないじゃない」


どうしてこの姫君はいつもながらこう脳天気なのか…
すっかりやる気満々といった感じのアルクェイドに苦笑しつつ、ポケットから馴染みの短刀を取り出す。
七夜と彫られた、何の変哲もないタダのナイフ。
だが、それはこの世の何よりも俺の手に馴染む。


「さぁ、やるわよ」


目の前に対峙したアルクェイドは、下をちょろっと出して唇を軽く舐める。
不覚にもその光景に鼓動が早くなるのを感じた。
だが、すぐにその意識を沈め、戦うという意志を全面に押し出す。
さぁ、幕は上がった。
人でありながら人ならざる者と、人外の戦いを。


「あぁ……始めよう」


そして、俺達は同時に動き出した。















「いやぁ、良い絵が撮れましたよぉ」
「お疲れさまです、志貴様」
「あぁ、ありがとう、翡翠。」


結局、あの模擬戦はアルクェイドが勝利した。
まぁそれも当然と言えば当然なんだけどな、だってそもそものポテンシャルが違うし。
スゴイ嬉しそうな顔をした琥珀さんが撮りたてのフィルムを持って屋敷に帰っていった。


「あー、スッキリした。志貴も大分動きになれてきたねぇ」
「あんだけコテンパンにやられてると、全然褒められてる気がしない」


俺が勝たなくて良かったのかと聞いたが、どうやら琥珀さんがあとで映像を差し替えるらしい。
どうやってやるのかとは、何故か恐ろしくて聞けなかった。
でも、あんなのどうするのかなぁ?


「スゴイですね、兄さん。アルクェイドさんと戦っても、もうほとんど見劣りしません」
「ホント、すごいですよ遠野君。このアーパー吸血鬼は戦闘能力だけは高いんですから」
「ちょっとー、妹にシエル、何よその言い方は。まるで私が化け物みたいじゃない」


いや、人外って時点で充分だろう?
普段の生活見てると全然想像ができないあたり悲しいような気もするが。
3人はいつも通りギャーギャー何かを叫んでいる。
多分、恒例のじゃれ合いだろう。


「しーきっ、遊びに行こう!」
「どわっ!」


言い合いをしているかと思えば、唐突にアルクェイドが現れて、俺の手を掴んで引っ張り出す。
一体いつの間に……秋葉達となんか言い合ってたハズじゃないのか?


「こら!アーパー吸血鬼!遠野君から離れなさい!」
「兄さんも、すぐにその人から離れなさい!!」
「いーやーよー、これから志貴とデートするんだから」
「待て!いつ決めた!!」


そう言いながらも引きずられ続ける俺。
その後を声を張り上げて追ってくる秋葉と先輩。
嬉々として俺と引っ張っていくアルクェイド。


「いってらっしゃいませ、志貴様」
「あ、うん、行ってくるよ、翡翠」


あぁ、なんだってもうこんな事になるやら……
だけど、なんだかんだで楽しんでいる俺もいる。















── あぁ、だけど、願うなら ──












── いつの日か、この身体が壊れ、動かなくなるまで ──












── こんな日が長く続くよう ──



















      〜あとがきですよ〜



と、いうわけで書き上げました。
上手く冒頭で何人かの意表をつけたかなぁ……とか考えてます、意地の悪い時雨です。
いや、だってこういうのって案外面白くありません?
琥珀の性格だったら案外こう言うことしてそうな気もしますし……俺だけか?

やっぱり本編後の IF で ALL END な雰囲気ですが、まぁ細かい所の突っ込みは無しでw
とりあえず、志貴には平穏なこれからを。

         それでは。


From 時雨  2006/04/02

ソース修正  2006/04/05