── 三咲町の事件から数ヶ月 ──















短い時間の間に押し寄せてきた別次元の敵(吸血鬼)……


ネロ・カオス、ミハイル・ロア・バルダムヨォン、ワラキア……



その吸血鬼達をことごとく討ち滅ぼした語られることのない英雄は……




















「しーき!志貴志貴、しーきっ!!」
















── 吸血鬼の真祖たる姫君に、懐かれていた ──























Usual Days




















── AM 1:00 ──


夜が更け、闇の眷属達が活発に動き出す時間
俺の暮らす遠野家も例外なく電灯は消え、甘美なる夜の睡眠を享受しているべき時間
本来ならば彼、遠野志貴もすでに夢の世界へと旅立っていただろう
だが、甘美なる刻は、唐突に現れた白き姫君によって、とりあえずどこか遠い世界へと弾き出された


「…………」
「あれ?どしたの、志貴?」
「……はぁ、まぁいいんだけどな」


夜中にこの困った姫君……
アルクェイド・ブリュンスタッドが窓から現れるのは、実際の所これが初めてじゃないんだが……
しかも毎回、俺が寝ようとベットに腰掛けた瞬間、見計らったかのように現れる


「毎回毎回思うんだが、お前は俺がベットに上がるのをどっかで見てるんじゃないのか?」
「なによぅ、志貴。それじゃ私がストーカーみたいじゃない」


俺は、そのセリフにたいして苦笑するだけで、否定する気はない
なんていうか、もう達観の領域に入ってるんじゃないだろうか……


「で、今日はどうしたんだ?」
「あ、うん。デートしよっ!」
「……は?」


ひょい


擬音に例えるならまさにこれだろう
一瞬で俺の身体はアルクェイドに担ぎ上げられ、外へと飛び出していた


「な、ちょ、ちょっと待てえええええ!!!」


三咲の町の夜空に俺の絶叫が綺麗に響き渡ったとか……
あぁ、また明日秋葉や琥珀さん、翡翠あたりに冷たい目でみられるんだろうなぁ……






── AM 1:20 ──


「……はぁ、アルクェイド……お前の行動には慣れてたつもりなんだけどなぁ……」
「もー、どうしたのよ志貴。元気ないじゃない」


結局俺は抱えられたままで、いつも待ち合わせに使っている公園に拉致られた
アルクェイドはきょとんとした顔で、俺の顔を覗き込んでいる
彼女にとっては、俺を連れ出したことは良い事をした程度にしか考えていないだろうなぁ…
まぁ、それがアルクェイドの美点みたいなもんか……


「ま、いいか。それで今日はどうしたんだよ?」
「うーんとねぇ……月が……」
「ん?」

アルクェイドは、上を見上げて呆然としたように呟いた
月……?
そう言えば、今日は満月だって弓塚さんあたりが言ってたような気がする……


「月が、綺麗だったから……かな?」
「……」
「すっごい満月で、綺麗で、幻想的で……でも、どこか悲しくて……」


笑顔でこっちを向いてそう言ってきたかと思えば、次の瞬間にはまた空を見上げている
ころころと表情の変わる奴だなぁと思う反面、その横顔が何故か消えそうなように見えた……


「アルクェイド……」
「だからかな、なんか無性に志貴に会いたくなっちゃった」


そう言ってまたこっちに笑顔を向けた
その笑顔はとても綺麗で、なによりも無垢で、そして……とても脆く見えた
だからだろうか、俺が、無意識にこういう行動に出てしまった訳も……


「……し……志貴?」
「……いいから、少しこのままで」


俺は、アルクェイドを抱きしめていた
触れていないと、そのままどこかに消えてしまいそうなこの白き姫君を……
少しでも、感じたいから……
俺の傍にいて欲しいから……
そのぬくもりを離したくないから……


「……」
「……えへへ、なんか、嬉しいな」
「ん……?」
「志貴が、こうして側にいてくれるのが……」


そう呟いて、俺の後ろに手を回してより寄り添うように身体をつけてきた
あぁ、ちくしょう
いつだって俺はこいつに勝てない
こんな無邪気に俺に甘えてくれる白き姫君(愛しい人)


「はぁ、単純だな、お前」
「えー、なによそれっ!」


だけど、負けるだけは性に合わない
少しくらい、こうして反撃にでるのもいいんじゃないかと思う


「さて、と。そろそろ行くか」
「……? どこに?」


唐突な俺のセリフに、キョトンとした顔を向けてくる
その顔にちょっとだけ笑いかけるのをこらえて、俺は言うことにした


「どこって、デートだろ?月夜の散歩ってのも、なかなかいいもんだ」


ま、明日も学校はあるからそこそこにしないといけないんだけどな
でもまぁ、これくらいは許されるだろう
それもこれも、月が綺麗だから……


「なぁ、アルクェイド」
「なに?」
「やっぱり、お前って月夜が似合うよな」


白い服装に、金色の髪
整った顔に、モデルに引けを取らないプロポーション
そして、それらを全て最大限に引き出せるその、笑顔


「え!な……いきなりなんッ」
「いや、うん、率直な感想だな」
「〜〜〜………!!!」


おぉ、珍しい
アルクェイドの顔が真っ赤に染まっている
こういう状態のアルクェイドは滅多に見たことないんだよなぁ……
それがおかしくなって、ついつい吹き出してしまった


「あー、志貴!からかったわねっ!!」
「ははは、ゴメンゴメン。でもさっき言ったのは本当だぞ?」
「う〜……!」


こうして、アルクェイドと話していられる事が単純に嬉しい
感情の起伏の激しいから、側にいると俺までそれに引っ張られる


「はぁ……もう、良いわよ」


あぁ、拗ねてしまったようだ
それに対してやっぱり苦笑してしまった
そして、俺は演劇をする俳優のように大きく一礼をし、自分の右手を差し出した


「それでは、エスコートしますよ、白き我が姫君(マイ・フェア・レディ)


今だ表情は拗ねているが、アルクェイドは礼を返し、俺の手を取った


「もぅ……しっかりエスコートしてよね、私の守護者様(マイ・ナイト)







さぁ、ゆっくりと楽しもう







美しく輝く満月の下で







この世で一番愛しい女性(ひと)







一刻(ひととき)のダンスを







俺の、(いのち)ある限り















      〜あとがきですよ〜



と、いうわけでアルクェイド物です。
なんだかなぁ……微妙に後半志貴が志貴じゃないような気がするような……。
なんていうか、ものすごっっっっっく……キザ?
さらにいうならコレジャンルどれに該当するんだろう……?
ほのラブ……いや、ラブかな……?
まぁ、相変わらず馬鹿みたいに本編後のストーリーばっか妄想で綴ってます。
多少キザでも気にしない、それがウチの志貴の生きる道っ!!
と、言うわけで。
これからも、志貴や士郎の主人公組には頑張って貰おうと思います。
         そぃでは。


From 時雨  2006/09/15