「さて、アルクェイド……俺が何を言いたいかはわかってるな?」
「な、なんのことかなぁ、顔が怖いよ、志貴……?」


失礼な、ただちょっと魔眼封じの眼鏡を外しているだけじゃないか、アルクェイド。
どうしたんだ、普段より線と点が多く見えるぞ?


「ねぇ、志貴……ちょっと本気で怖いかもしれないんだけど」


ははは、何を言ってるんだ、所詮俺はただの人、肉体的ポテンシャルでお前に勝てるわけないじゃないか。


「さて、覚悟はいいな?」
「ご、ごめんなさあぁぁぁい!!」


パチン、と音を立てて七ツ夜が、その刀身を現す。
それを見た瞬間、アルクェイドが脱兎の如く逃げ出した。
逃がさんっ!!


「問答、無用!!」
「うにゃああああ!!!」














変わった日常














あぁ、なぜこんなことになっているのか説明しなきゃいけないかな?
今、俺は変わらず遠野家で生活している。
そして、まぁ、その、なんだ、アルクェイドと付き合っているんだが、その時にいくつかの決まりごとを約束させた。
そのウチの1つが、遊びに来るのはかまわないが、そのときは、正面から来ること。


「こっのバカアルク!なんで、毎回、窓から、来るんだっ!!」


ある意味不死身に近い存在なので、遠慮なく武力混じりで説教している俺。
とりあえず、正面から来るのなら、秋葉もしぶしぶながら客人として扱うという風に言ってくれた。
だが、どういうわけか、アルクェイドは必ずといって良いほど直接、それも窓から現れる。


「だってだって!めんどくさいじゃないっ!!」
「お前が窓から現れるたびに、秋葉と喧嘩してるのを忘れてるのかっ!!」


確かに、正面から入れば秋葉は客人として、最低限の事はしてくれるようになった。
だけど、そのストレスのせいか、不法侵入もどきの時の対応が過激になっているのはどうにかならないんだろうか……
それに乗じて琥珀さんはアルクェイドと秋葉を煽るし……
面白半分でメカ翡翠を投入してくるし……


「なによー、妹なんか私の敵じゃぁないんだからー」
「そういう問題じゃない!!」


お前らの大暴れを止める俺の身になってほしい。
ただでさえ、アルクェイドも秋葉も一般人のスペックから飛び抜けているんだから。
特殊な生まれのおかげで辛うじてついていける俺も俺なんだが、それでも苦労は推して知るべし。


「志貴ってば、妹ばっかりかばうんだからっ!!」
「俺はどっちも贔屓しているつもりはないっ!」
「ふんだっ!そっちがその気なら、私も考えがあるんだからねっ!」


今まで、逃げに転じていたアルクェイドが急激に進行方向を変えて、こっちに逆に突っ込んできた。
くそ、開き直ったな!?


「なんで私が怒られなきゃならないのよっ!もー怒った!手加減なんてしてあげないんだからっ!」


それは困る。
というか、本気でやられたら俺なんて一瞬で死にそうだなぁ……
アルクェイドは、赤い瞳を金色に変えて辛うじて見えるかという速度で迫ってきた。
仕方ない……あまりやりたくないんだが……
……七夜、頼む。


――――まったく、毎回毎回飽きぬな、貴様らも。


……面目ない。


――――まぁよかろう、どの程度で止めればよい?


できれば、流血沙汰無しの鎮圧で。


――――多少の流血は目を瞑れ、吾の根源は魔の殲滅だ。


……それくらいなら、ただし、線をなぞるのは無しだ。


「本当に、手間のかかる奴だ。」


――――すまん、頼んだ。


『遠野志貴』を通して見ていた視界が、急にクリアになって目の前に広がる。
今、この身体は『遠野』ではなく、『七夜』に成った。
目の前には真祖の姫が爪を尖らせ迫っている。
……ククッ、さぁ始めよう。


ガキンッ!


ただの人では受け止められぬであろう力での攻撃。
直接受けるのはさすがに吾でも不可能故、受けると同時に受け流す。
嗚呼、所詮は『遠野志貴』の内で生きると決まった時からわかってはいたが。
やはり、吾自身で動けるというのは素晴らしい。


「……っ!?志貴、じゃない、七夜ね……」
「そうだ、真祖の姫よ。遠野の志貴では貴様は荷が重いのでな、吾が、相手をしてやろう」
「ずるいわっ!志貴!七夜を出すなんて反則よ!!」


なにやらギャアギャアと真祖の姫が騒いでいるな、まぁ瑣末なこと、久々のこの身体、楽しませてもらおう。


「もう、七夜が出てきたんなら手加減なんてできるわけないじゃない」
「元より吾に手加減など無用、手を抜けば、貴様が死ぬぞ?」


そもそも、手加減のような小細工、貴様にできるはずなかろう。
まぁ、この姫を殺したら殺したで、内部に煩わしい奴がいるからそれも不可能であろうが。


「さぁ、真祖の姫よ、時間が惜しい、始めよう」
「……上等よ!今までの負け分、取り返すんだから!!」


さぁ、開幕だ。





























「ふむ、悪くなかったな」


吾の目の前には無様にも倒れ伏した真祖の姫がいる。


「くやし〜……また負けたぁ……」
「まだまだ戦術が甘い、ただの力押しで吾を倒せると思ったのか?」


吾が血筋、それは魔を狩るに特化した一族。
力押しのみで向かってくる魔など、強敵にはならぬよ。


――――苦労かけたな。


まったくだ、遠野の志貴よ、この程度の敵、自身の手で屠れないとは。


――――いや、敵じゃないから。


まぁいい、そこそこに楽しめた。
どんどん、視界が元の『遠野志貴』を通じたものに戻っていく。
……吾はまた、眠るとしよう。


「あぁ、助かったよ」


――――次があるならば、もっとまともな獲物を用意しておくがいい。


いや、そう敵が一杯来られても俺が困る。
ただでさえ身の回りの存在で手一杯なんだから。


「頭は冷えたか、アルクェイド?」
「卑怯よ志貴、七夜出すなんて」


今だ寝そべったまま起き上がらないアルクェイドに声をかけると、若干うらみ混じりの声が返ってきた。
うん、そんだけ返せる元気があるなら大丈夫だろう。


「というか、お前がちゃんと前から入ってくればいいだけの話しだろう?」
「いやよ、そんなめんどくさい」


反省の色無し。
お仕置き継続決定。


「さて、秋葉でも呼んでくるか」
「あぁ!ちょっと、待った!ストップ志貴!今呼ばれたらさすがに!!」
「ん?琥珀さんの方がいいか?」


自分でも素晴らしいくらいの生き生きとした笑顔をしているんじゃないだろうか。
アルクェイドの普段は見れない青くなった顔がそれを物語っている気がする。


「それもいやっ!!ごめんなさい!反省します、反省するから許してぇ、しきぃ!!」
「本当に、反省するか?」


寝転がったままアルクェイドがものすごいスピードで顔を縦に上下させた。
そんなに怯えなくても良いと思うんだが……
……訂正、琥珀さんは俺でも怖い。
いったいあんな怪しい知識はどこで身につけたんだろうなぁ……?


「ほら、アルクェイド、もうそろそろ起きれるか?」
「うん、全部みね打ちだったみたいだからね」


どうやら、七夜は約束を守ってくれたらしい。
昔に比べて随分丸くなったよなぁ、あいつも。


「もう……七夜が出てこれるようになってからすっごい負けてる気がするわ」


そう、アルクェイドを初めとする遠野家周辺の人外軍団、その鎮圧を七夜が受け持ってくれるようになっていた。
俺が一人でできると判断したら出てきてもくれないが、俺には荷が重いと判断すると協力してくれるようになっている。
今ではどこか兄みたいな雰囲気を持っているが、昔殺し合いした仲とは思えないよなぁ……


「おかげで普段より俺は平穏を貰ってるよ」
「まったく、やっかいな相手よね」


まぁいいじゃないか、あいつだって身体を動かしたいときがあるんだろうさ。


「さてと、で、アルクェイド。今日はどこに行くんだ?」
「あ、そうだった!ねぇ志貴、ドーブツエンってとこ行ってみたい!!」


さっきまで七夜にぶつぶつと文句言っていたはずなのに、一気に表情が反転して、明るくなった。
まったく、単純なやつだなぁ。


「はいはい、動物園ね……それじゃ、行くか」
「ねぇ、志貴、ドーブツエンってなに?」
「……知らないで行きたがったのか?まぁいいや、行く途中で説明してやるよ」


アルクェイドの手をとって、ゆっくりと歩き出す。
こんな日常が、今の俺のちょっと変わった、でも大切な日常。



















「ねぇ、ライオンって食べれる?」
「食べれるわけないだろう!!」









うん、大切な、日常……だよ?




















      〜 あとがき 〜


自称ほのぼのSS書きの時雨です、こんにちわ。
とりあえず、アルクェイドとくっつけて、その上七夜志貴まで出してみました。

うん。
思いつきって怖いね☆

まぁ、それはおいといて。
なんか、七夜が志貴の兄ちゃん的存在になったら面白いかなーのコンセプトを元に書いてみました。
これもこれでありなんじゃないかなぁと?
だって、志貴じゃ戦闘関連弱そうだしw


          んでわ、それでは、このへんで。


                          From 時雨  2007/03/26