とりあえず、ハルヒの方に顔を向けないまま会話を続ける。
仕方ない、強硬手段ではあるが、このまま帰るか。


「ちょっと、なんでこっち見ないのよ?」
「いやなに、気にするな、それじゃぁ俺は帰る、じゃあな」


こんな顔を見られたら笑われそうだ。
そんなの御免こうむる。
そう決めて、荷物も適当に、帰宅しようと扉の方へ足を向けたが、結局、俺の思うとおりに事態というのは進んでくれなかった。


「……こっち、見なさいよ……」


ハルヒに制服の裾を掴まれた。
だが、なんだか声が弱々しく感じたのは気のせいか?
それに、裾にかかる力が普段と違う、掴むというより、つまんでいるに近い気がする。


「……あたし、何か悪いことした?」


今、後ろにいるのは誰だ……?
ハルヒはこう、もっと偉そうで、わがままで、自分の思うとおりに事を進めようとする強引さの持ち主だったはずだろう?


「ねぇ……こっち見てよ……キョン」


普段とは違いすぎるハルヒの声のおかげで、俺の頭も冷めた。
顔の熱も今はない、おそらく、元の顔色に戻ったんだろう。
とりあえず、いまだ裾を掴み続けているハルヒの方に振り向いて、俺は驚愕した。


「……なんで、泣いてるんだ?」


そこにいたハルヒは、両目に一杯の涙を溜め、不安そうな顔で俺を見上げていた。
なんだ、なにがどうなってこうなっている!?
俺の混乱をよそに、ハルヒはたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。


「……だって、だって」
「……ん?」


どうしたんだ、ハルヒは。


「さっき……あたしが帰ってきたときから、一回も顔を見せてくれないじゃない」


それは、俺の一身上の都合があっただけだ。


「普段なら……キョンが何かしてても、話しかけたらこっちに向いてくれたのに……」


ハルヒは、とどまることの無い涙を流したまま、言葉を続けた。


「あんたが見ててくれるから、変なことしそうになっても止めてくれるから、あたしは今のあたしでいられるのに……っ!キョン?」


これ以上は、俺が限界だった。
ハルヒが泣きながら言った台詞、それはよっぽど馬鹿な聞き方をしない限り、告白されてるのに近いわけで。
ただでさえ俺は、おせっかいな超能力者のおかげで自分の気持ちを理解しちまったばかりだ。
そんなときに、こいつのこんな弱々しい姿を見続けるわけがない。
俺は、ごく当たり前なことをするかのような動作で、ハルヒを、抱きしめていた。


「ハルヒ、このままでいいなら聞いてもらいたいことがあるんだが、いいか?」
「……?」


まったく、あのおせっかい超能力者め、毎回毎回俺に厄介ごとを持ってきやがって。
だが、今回ばかりはそのおせっかいに感謝してやる。
だけど、なんとなくムカつくからお礼なんて言ってやるものか。


「あのな、ハルヒ、俺はお前が――――」

























結局、あの後何があったのかは察しがいい奴は気づくだろうさ。
……なに、唐突過ぎるだろうって?
なら、俺は逆に問いたい。
言うべき事があって、それにを言うべき時に唐突に遭遇したら、言わないで済ますなんてできるか?
少なくとも、俺には無理だったよ。
つまり、だ。
何がいつ自分に訪れるかなんて、結局のところ誰にもわかりゃしないのさ。


「キョン!キョン!!」
「ん、どうした」
「今週の休み、どこに行く!?」














まぁ、いいじゃないか。
現に俺はいま、幸せを感じていられるんだから。

















「好きな場所でいいさ。お前がいるならな」


















 後書き

はい、そしてお送りさせて頂きました、時雨流俺イズム!
俺の書き綴る涼宮ハルヒの世界はこういう感じで流れています。
前の方が好きと言われる方もいるでしょう、それでも俺は構いません。
世の中、十人十色という言葉どおり、感じ方なんて人それぞれです。
ですから、今回俺はこういった形で、ストーリーを分岐させていただきました。

結局のところ、貴方の目で、好きだと思った方を気にいただければ、それでいいですよね。

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/03/25





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